無能な女子高生に生まれ変わった私が【運命の神】と呼ばれる？~堕ちて黒くなるはずのヒロインたちが、命をかけて私を守り、私と恋に落ちる、なんで？～

第52話 私だけが孤独なのだ

　時には……感情を伴わない愛や交友は孤独になることもある。

　玉座に座ってスナックを食べていたアリスは、待ち焦がれていたのか、マネキンメイドのサービスに不満だったのかわからないが、突然、手の中に凝縮されたクリスタルの刃で、そばにいたあるマネキンの首を切り落とした。

「もういい！私を見つめるのはやめて！私は魔法少女じゃないのよ！もうお昼だよ！」

　国境を守る戦いの終結から 1 年。

　あの時、魔王バエルは世界樹の守護を破壊するため、初代十二魔神を率いて【圈外】の魔法少女たちと 3 ヶ月に及ぶ戦いを繰り広げた。実力差から、ほとんどの魔法少女は死に、【放浪少女】となり、最後に残った魔法少女は大阪に戻った。

　その戦いで魔法少女たちは完敗したが、魔神も最終的な目的を達成することはできなかった。

　どんなに激しい攻撃を受けても、世界樹の結界が破られる気配はなく、それはほぼ全世界を支配する闇を背景にして、極めて異例に思えた。

　アリスが水晶で彫られた笏を振り上げ、水晶の石象を叩くと、ロビーが震え始め、床の半透明の模様が発光の中を流れ、 80 メートルもある水晶の宴会テーブルが地面から立ち上がった。

「言おうか？あなたは私が最も嫌いで憎んでいる人です！アリス」

　瀬紫はアリスを毒気たっぷりの目でちらりと瞥て、大股で宴会のテーブルに座りました。アリスは 1 年前の国境を守る戦いで脱走兵で、五大上古魔人（何千年もの間、【ワンダラー】に変異することなく生き延びてきた古代の悪魔が、魔神によって覚醒し、凶暴化した状態）の一人【破灭の魔人】を討伐した时、瀬紫とアリスは同じチームに配属されました。

　瀬紫はキャプテンで、アリスはフォワードです。逃げるためにアリスは水晶の力で瀬紫と他のチームメイトを水晶の中に閉じ込め、全滅するところでした。

「うーん。私のことが嫌いなのね。それで、私たちは以前どのようにすれ違ったのですか？夕食を食べながら話そう！」

　アリスが手を叩くと、ドールメイドたちが二列に並んで彼女を出迎えた。金粉をまぶした長いクッションを踏みしめ、アリスは歩きながら鋭い目で両側のドールメイドたちを見渡した。クリスタルのライトが明るく輝き、まるでタレントショーのように華やかだった。

「まあ、みんなが私の友人であることは知っているけど、じゃあ……私たち 2 人の友情の終わりはどうなるの？」

　このときのアリスの笑顔は、かつてないほど恐ろしかった。何のためらいもなく、彼女の瞳孔が閉じると、震えていたマネキンメイドの体が水晶に変わった。

「あなたは恐れ、過去を避けている……」

　アリスの胸に響いたのは、瀨紫の残酷なまでに深い瞳の感触、ナイフのような痛みだった。 それは恥であり、臆病さであり、この過去であり、彼女が正面から向き合いたくなかったものが目の前に蘇ってきたのだ。

【圏外】から逃れて大阪に避難し、大阪に出入りできるようになった権力者や教養のある人々は隠者と呼ばれた。

　密入国した者と違い、大阪では市民権も良い仕事も簡単に得ることができた。

　当時、瀨紫率いる部隊の主な任務は、隠者を保護することだった。

「何ですって？私は全然怖くないです！」

　アリスはとても不自然な姿勢で座り、ディナーナイフを手に取り、皿の上のチェリーゼリーを力ずくで切った。 彼女はとっくに柔らかい物腰を失っていた。

「エルサレムの聖遺物である【クリスタルの贈り物】。

　創造神自らが神の欠片の残骸から鍛造し、人類最初の王ダルマン 1 世に授けた笏といわれ、光の力をクリスタルの形に変え、思いのままに刻むことができるのですね……」

　口に運ぼうとしたチェリーゼリーがフォークから滑り落ち、アリスの心はこのゼリーのように粉々に砕け散った。痛々しく絶望的な表情、折れた手足、血と肉と内臓の山、汚く腐った臭い、暗くて光のない死の大地……

　アリスは両手を脚に置いて椅子の上で丸くなり、恐怖はまるで胸腔から蟻が密集して全身を覆っているようだった。

「そう、あなたが死を恐れているから、あなたは逃げて、自分の生と无数の同伴の死を引き換えに来ました……

【破灭の魔人】物事の崩壊を加速してすべてを湮灭することができ、あなたの能力はそれの创造と修复を完克します。あなたはそれを使用する能力を解放するだけで、【破灭の魔人】を消灭滅することができます！

　しかし、あなたは行方不明です！私たちは皆あなたが死んだと思ってあなたを哀悼したが、意外にもあなたは魔神勢力に身を任せたんです！」

　冷たいが決して怒らない瀨紫は、テーブルに手を激しく叩きつけ、クリスタルのテーブルの天板にびっしりと亀裂が入った。

　円沢香は瀨紫の反応にショックを受け、不安でどうしていいかわからず、ただ歯を食いしばりながら注意深く彼女を見守った。 リングの反応が激しくなってきた。

　闇なのに、アリスの胸の炎は【魔人】や【黒獣】の色ではなかった。やはり魔法少女なのか？

　この時、長い間影から逃れていたアリスは、再び心を陰鬱に覆われた。

　死にたくない、本当に死にたくない！みんなで生きるのがいいんじゃない？なんで死ななきゃいけないの！死ぬことで、束の間の幸せしか得られないの？それが本当に幸せなのか？

　嘘だ！いわゆる友情や愛情は嘘だ！他人のためというのも嘘だ！みんな利己的だ！すべては自分のため！自分がコントロールできる感情だけが本物なのだ！

　アリスの手に握られていたナイフとフォークは、心臓と同じように折れて床に落ちた。 涙が彼女の目を滑り落ちた。結局、彼女は逃げることができなかったようだ。

　瀨紫の元弟子であるアリスは、両親と叔父のアメリカから大阪への旅についていき、魔法少女になった。

　大阪は人間にとっての最終目的地であり、【圈外】を知る者たちの共通の目標でもあった。

　しかし、あらゆる苦難を乗り越えて国境にたどり着いたとき、彼女たちの夢は完全に打ち砕かれる。

「申し訳ないが、許可証がないと入場できない！」

　国境入口にいた屈強な警備員は、放射線による火傷に覆われた痩せこけた男を蹴り飛ばしたが、彼は若いアリスとその妻を抱きかかえて守り続けた。

　警備員は、放射線病と知りながら入国を申請したという理由で、手を離さない男を射殺する。

「お父さん！お父さん！起きてください！」

　幼い手がすでに死んでいた父親の遺体を涙で揺さぶったが、衛兵たちは冷たい目を向けるだけだった。 アリスや少女たちのような難民はあまりにも多く、認められる理由がなければ、それは見捨てられた存在であり、昔からあるルールだった。

「息子よ、パパは君を愛するために死んだんだ。 少なくとも、放射線病にかかったら入国を申請できないことは分かっている。 結局のところ、誰だって病気になるんだ！」

　疲れた顔で死んだような灰色の目をし、息をひそめてつぶやく母を見ていると、彼女は正気を失っているように思えた。

　アリスが何事もなく大阪に入るために、母は数人の隠者の助けを借りることにした。

　隠者たちは、最初は言葉も丁寧で友好的に見え、アリスと母親に宿と食事を提供したが、後にアリスの母親をベッドに縛り付けて強姦し、その後シーツでアリスの母親の首を絞めた。

「お兄さん、私たち友達じゃないですか。なぜ私の母を殺すのですか？」

　隠者たちは笑い、アリスをベッドに固定した。 すべてが嘘だった！この世に信頼できる温もりはなかった！温もりは、自分がコントロールするものを信じることからしか生まれない！

　隠者の一人がズボンを下ろそうとしたとき、メイコが現れ、一撃で暴漢たちを制圧した。

　アリスはその後、父と母を生き返らせたいと願い、魔法少女になったが、第三次魔神戦争で父と母が惨死し、すべてが無に帰した。

　そう、愛情もコントロールできないからこそ偽りなのだ。

　その後、アリスは魔法少女組織【Home】で多くの友人を作った。最初はお互いを思いやり、信頼し合っていたが、最後にはそうした友情はすべて利用された。

　魔人に殺されそうになった友人を裏切って生き残るために、戦神魔人のために自分の命と友人を犠牲にし、生き残る機会を得るために魔人を喜ばせるために友人が自分の舌を食いちぎることを余儀なくされ、それを行うことはできませんし、【流放少女】の友人の残忍な殺人に堕落した……

　そのような壊れやすいと自分の友情のコントロールに属さない、本当に友情と呼ぶことができますか？

「なぜ魔人と戦うために神器を解放しないのかと訊かれるが……」

　アリスが手にしたセプターは驚くほどのエネルギーを噴出し、輝くビームがドールメイドたちを直撃した。ドールメイドたちは光の中で白銀のクリスタルの戦士に変身し、常にエネルギーを蓄えているクリスタルのロングソードを振り上げた。

「神器を解放することは、自己を犠牲にすることになるからだ！私は死にたくない！本当の友達と充実した時間を過ごしたい！あなたたちに私の幸せを台無しにされたくない！」

　笏の先端に集まったエネルギーが噴出し、水晶の光線は疾走する列車のように激しく、水晶騎士たちのロングソードのエネルギーを吸収してますます激しくなり、宴会テーブルを倒して瀨紫に衝突した。

　アリスの人格はシヴァ神であり、創造と破壊の集合体であるため、創造物を消滅させることで魔力を増大させることができた。

「つまりそういうことだ。多くの罪のない人々を人形に変えた本当の目的は、必要なときに神器に宿る神々に貢献するためなんだな？お前は本当にビッチだ！臆病で卑怯な女だ！」

　何かが肉と血を焼く音のように、首筋にはめ込まれたアリスの宝石がクリスタルの刻印を広げた。その刻印は彼女の全身を覆い、まるで神経ネットワークのように緻密だった。

　アリスは明らかに激怒していた。クリスタルの騎士や人形が次々と枯渇した鈍い色のクリスタルに変わり、粉々に砕け散り。

　クリスタルの宮殿の壁やドームが崩れ始め、地面には深く割れない亀裂が走り、クリスタルの破片に分解されてアリスに吸着し、彼女を包み込んだ。

　突然、 6 本の腕を持つ高さ数百メートルのクリスタルの巨人が地面から立ち上がった。

「ついに神器を解放する！今度は死ぬのが怖くないのか？」

　吹きすさぶ風の音が響き続ける中、瀨紫は地面にしゃがみこんだ。 気流が盾となり、瀨紫とその後ろに立つ円沢香を守っていた。

「ありがとう……」

「馬鹿野郎！頭を下げてお礼を言っている場合ではない！」

　瀨紫は突然、水晶の地面の下から閃光のようなエネルギーが突き刺さるのを感じた。

　彼女は円沢香から離れ、手に握った風刃を足元に向かって突き出すと、大きな爆発音がして瓦礫が四方八方に飛び散り、まるで生き物が刺されたかのような不気味な悲鳴が地面の奥から発せられた。

　しかし、瀨紫が反応する前に、彼女は目の前に突然のぼやけを感じた。そして、水晶でできた白い蛇が地面を貫き、彼女の肩を貫いたとき、口一杯の血が吐き出された。

「どうだい？友達の力だよ！彼らがアーティファクトを解放してくれなかったら、私は死んでいただろう！でも、今は元気で生きている！あなたは死ぬのを待ってるだけ！」

　クリスタルの巨人の 6 本の腕は破壊と創造に対応していた。アリスは創造の腕を操って地面を叩き、その衝撃が宮殿の残骸をかき混ぜ、セツキに向かって押し出した。

　一陣の風が散ると、瀨紫の手に握られていた風刃がその真の姿を現した。【妖刀村正】は、普段は風の中に身を潜め、強敵と対峙するときだけその姿を現す。

　瀨紫はスライディングで激しい爆発の衝撃を避けた。飛び散った水晶の破片は様々な獣の姿に変身し、瀨紫に襲いかかった。

　何のためらいもなく、瀨紫がほんの少し手を上げると、たちまち彼女の周囲に剣が飛び交い、襲い来る水晶の獣たちは砕け散り、破片すら残らなかった。

「あなたは強いけど、十分じゃない！」

　瀨紫は【妖刀村正】を振り上げ、激しく振り下ろした。目に見えない風の刃が地面を裂き、クリスタルの巨人の横を通り過ぎた。耳をつんざくような音とともに、クリスタルの巨人は真っ二つに割れた。

「あなたはまだ死を恐れています！依然として心の中の本当の情谊がありません！だから、あなたはあなたの本当の実力を発揮できません！クズです！」

　アリスの張りつめた顔が、クリスタルの巨人の体に割れた亀裂から漏れ出た。 彼女は咆哮し、地上の水晶はクリスタルの巨人に集まってまとわりつき続け、あっという間にクリスタルの巨人は元の姿に戻った。

「情谊！わたしは情谊を持っています！この人形たちは絶対にも私の友達です！私たちはそんなに長く幸せに暮らしました!これは本当の友情です！」

　破壊の象徴であるクリスタルの巨人の 3 本の腕が地面に叩きつけられ、次々と床下から地上の炎が噴出し、爆発を巻き起こした。 瀨紫は【妖刀村正】を握りしめて体を回転させ、周囲の吼える風の強力な抵抗で地火の猛攻に耐えた。

　アリスは水晶の巨人の体を使って強風に耐えようとしたが、重い衝撃がウインクして水晶の巨人を粉々に解体したことに気づかなかった。

「くそっ、お前はどんな怪物なんだ？神器を解放しなくてもそんなに強いのか？」

　アリスは地面に倒れ、体に裂けた傷口から濃いプラズマが流れ出し、服に染み込み、長いブロンドの髪を赤く染めた。 胸骨は完全に砕け、息をするたびに胸が張り裂けるような痛みが襲ってきた。

「私が強すぎるのではなく、あなたの心が弱すぎるのだ。 これは感情の世界であり、あなたの臆病さは、あなたの強さを閉じ込める現実に変わってしまった」

　円沢香の視線は鈍く、ずっと声を出さなかった。彼女は戦いに呆然とし、ただアリスの側に瀨紫についていった。

　頭を下げ、手にした指輪を見ながら、円沢香の胸はぼんやりと痛んだ。 彼女はいったい誰を守っているのだろう。 どうやって守る？本当に理解しがたいことだった。同じ正体を持っているのに、なぜみんな殺し合わなければならなかったのだろう？

　平和と生存を切望し、裏切られることのない友情を求める心の軌跡を感じることができる。

　殺人に疲れ、人間への信頼を失ったアリスは、自分が望むケアと友情を見つけたと思いながらも、誰よりも孤独なままだ。

　心の断絶が、彼女に友情とは何か、平和とは何かを忘れさせたからだ。