第2話
「この【飛竜の牙】を抜ける? おい、嘘だと言ってくれ!」
俺は【飛竜の牙】として取っていた宿屋の一室で驚きの声を上げた。
当たり前だ。
マイアと一夜をともにした翌日に元の宿屋に帰るなり、他の仲間たち――重戦士のアントンと拳法家のヤンの2人が【飛竜の牙】を抜けると言い出したのである。
「り、理由を教えてくれ! どうしてこんなときにパーティーを抜けるって言うんだ? 俺たち【飛竜の牙】は国から勇者パーティーの候補として選ばれたんだぞ。もう少し実績を積めば、晴れて正式な勇者パーティーになることだって夢じゃない。そうなったら――」
「お前とマイアは幸せになるってか?」
吐き捨てるように言ったのはアントンだ。
「ふざけるなよ、テリー……てめえ、アリスをあんな理由で追放しておいて何を寝ぼけてやがる」
そうアルよ、とヤンも
「しかもテリーさん、あなた私たちに何の相談も無しに勝手に決めたよネ? いいや、あの女だけには相談していたみたいだけど、どっちにしろアリスさんをあんな身勝手な理由でパーティーから追放するなんてあんまりヨ。悪いけど、そんなリーダーと一緒にこれから闘うなんて無理」
「俺もヤンと同じ意見だ。ましてや、あんなクソ女とこれから四六時中、一緒にいるなんて俺はごめんだね」
そう言うとアントンは、身支度を整えて部屋から出て行こうとする。
「アントンさんほど悪くは言いたくないけど、確かにあの人とこれから一緒にいるのは私も無理。あの女は魔性ヨ。テリーさんはアリスさんからあの女にあっさりと乗り換えたみたいだけど、仲間であり友だった者から言わせて
不吉なことを口にしたヤンも、アントンと同じく荷物を整え始めた。
「ま、待ってくれ。確かに2人に相談もせずに決めたのは謝る。だけど、昨日は2人とも俺とマイアに気を利かせて部屋から出て行ったんじゃないのか。あれは俺とマイアのことを祝福してくれたからだろう? それにアリスはこのままパーティーに居たら危険だしお荷物になる。そうだろう?」
アントンとヤンは互いの顔を見合わせる。
「……テリー、お前はもうダメだ」
「テリーさん、それ本気で言ってるの? アリスさんが私たちパーティーに必要ないって」
「それは……マイアがそう言ったんだ。アリスはレベルも上がらないし魔法も使えない。けど、俺たちは勇者パーティー候補になった。このままだとアリスは俺たちと実力に開きが出て危険だからって」
「はっ、アリスがレベルも上がらないし魔法が使えないなんて昨日今日分かったことじゃねえだろ。それにアリスはそんな中でも必死に俺たちの役に立ちたいからって、戦闘以外にも雑用なんかを率先してやってくれていたんじゃねえか」
「アントンさんの言う通りヨ。それにアリスさんは強敵と闘えない反面、危険な
俺は耳を疑った。
確かにここ最近の休みの日などには、アリスは用事があると言ってどこかへ行っていた。
そのため、最近の俺たちはまともに愛が育めなくなっていた。
俺がマイアに惹かれた原因もその1つだ。
もしかして、アリスはどこかに俺よりも良い男を見つけたんじゃないかと……。
「まさか、てめえはアリスが浮気してたとでも思っていたのか? 馬鹿じゃねえの。それであんな尻軽女に引っかかったのか」
し、尻軽女?
さすがにその言葉は聞き流せなかった。
「尻軽女とはマイアのことか! いくら仲間とはいえ、彼女をそんな風に悪く言うのは許さんぞ!」
怒りを露わにした俺に対して、逆にアントンは冷静な顔になっていく。
「やっぱり、あの噂は本当だったんだな」
「そうネ。テリーさん、間違いなくあの女の魔法にやられてるよ」
な、何のことだ?
この2人は何のことを言っているんだ?
やがてアントンは大きなため息をついた。
「教えてやるよ。アリスを裏切ってまで
ヤンは荷物入れの中から何かを取り出すと、
俺は慌てて
「この前のダンジョン攻略のときに私が見つけた戦利品の1つネ。たとえパーティー仲間でも、ダンジョンで見つけたアイテムは見つけた者のもの。でも、
正直、このときの俺はまだマイアの術中にはまっていた。
だから、アントンから聞かされたマイアの噂を聞いてもまったく信じられなかったよ。
俺のマイアに対する愛が
でも、このときの俺はまさに術中にはまっていたんだ。
そんな俺はアントンからマイアの噂を聞くなり、アントンとヤンを怒りに任せて部屋から追い出した。
「そんな噂を信じるようなお前たちの顔なんて二度と見たくない!」
……ってな、感じでね。
ただ、1人になったことで「もしかすると」という気持ちが湧いてきたんだ。
だから確かめようと思った。
俺のマイアに対する愛は本物だ。
アリスと別れてもこの人を愛したい、と思った感情は嘘じゃないってね。
え? それで、どうしたかって?
別の宿屋に泊まっていたマイアを呼び出したんだ。
俺たちが初めて出会った、大勢の人たちの
だが、このときの俺は知る由もなかったよ。
まさか、それが
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