【短編】新しい恋人のために、俺は今の恋人をパーティーから追放した。でも、それが破滅への始まりだったと気づいたときはもう遅かった……本当に遅かったんだ

岡崎 剛柔(おかざき・ごうじゅう)

プロローグ

 とある冒険者ギルドの個室にて――。


「アリス、悪いが今日で君はこのパーティーから抜けてもらう。正直なところ、君の実力では今後も俺たちのパーティーでやっていくことは難しいだろう。このままだと君は確実に大怪我するか、最悪だと死に至るかもしれない」


 俺は他のパーティー仲間がいる前で、テーブルを挟んだ対面にいる茶髪の少女――アリス・マーガレットに意を決して告げた。


「テリー、理由を聞かせてもらってもいい?」


 彼女は怒るどころか、どこかさびし気な表情でたずねてくる。


 ズキン、と俺の心臓に痛みが走った。


「理由は君にも分かるだろう? ようやく俺たち【飛竜の牙】は、国から勇者パーティー候補として認められるまでになったんだ。しかし、君はずっとレベルが上がらないまま……しかもこの国では珍しい魔法が使えない剣士だ。それでも君は君なりに一生懸命にパーティーに尽くしてくれた。それはリーダーとして本当に感謝している。だが――」


 俺は早くこの話を終わらせようと早口でまくし立てる。


 そうしないとアリスの悲しそうな顔に耐えられない。


「やはり、これ以上は無理だ。これから先はAランクの魔物討伐も視野に入れている。Aランクの冒険者となった俺たち以外で、君だけは未だにCランクのままだ……残念だがいくら幼馴染おさななじみとはいえ、君をこれ以上危険な目にわせられない」


 本心だった。


 けれど本音ではなかった。


 やがてアリスは、俺と俺の隣にいる僧侶のマイアを見て笑みを浮かべた。


 しかし、その両目には薄っすらと涙がにじんでいる。


「……うん、分かったよ。そうだよね。これ以上、足手まといの私がいたら皆の迷惑だもん。ごめんね、テリー。今までずっと嫌だったんだよね?」


 ズキン、とまたしても俺の心臓に鋭い痛みが走った。


 本当は違う。


 魔法が使えないやレベルが上がらないなんてどうでもいい。


 ましてや嫌っていたなど微塵みじんもない。


 しかし、だからこそこれ以上はアリスをパーティーに置いておくわけにはいかないのだ。


「すまない、アリス。もちろん、君の新たな転職先の手伝いはさせてもらう。退職金もそれ相応の額は出す。だから……」


「ううん、いいよ。無理しないで、テリー」


 アリスは立ち上がると、俺とマイアを見て「お幸せにね」と告げて去っていく。


 そんなアリスの声色には、まったく憎しみなどの感情はなかった。


 アリスはすべてをさとった上で、俺たちのことを本当に祝福して去ったのだ。




 正直に言おう。


 このときの俺はどうかしていた。


 本当にどうかしていた。


 気立ても良く、剣術もそれなりに出来て、しかもいつも俺のことを最優先に考えてくれたアリス。


 俺からの告白を顔を赤らめて了承りょうしょうしてくれたアリス。


 だが、どれだけいても時間は戻せない。


 もう、俺の前にアリスはいないからだ。


 当然だよな。


 俺の身勝手で馬鹿な一時の気の迷いで、自分からアリスという恋人だった女性を捨てたのだから。


 だからこそ、俺はこのときの俺に言いたい。


 お前は何て馬鹿なことをしたんだ――。




================


【あとがき】


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