第74話守りでは無く

菅沼正貞「城の北東部でありますか?あそこは山沢により攻め口が狭くなっています。故に攻めるには難しい場所でありましたので別段手を加える事はありませんでした。」


高坂昌信「そのような場所を塀で囲った理由は?」


菅沼正貞「正直、意味は無いと思います。もしあるとするならば……。」




 躑躅ヶ崎の館。




山県昌景「北東部に造られた新たな施設が狙い目となる。あそこは塀でしか囲っておらぬ。入口は狭いが、そこを突破する事が出来れば野戦と変わらない状況を作り出す事が出来る。」




 少し前。小諸。




菅沼正貞「敢えて備えを薄くする事により、山県様を引き付けようと考えているのでは無いかと。」


高坂昌信「狭い攻め口に殺到する我らを奥平が……。」


菅沼正貞「野牛郭同様。正面より鉄砲を放ち、怯んだ所で城門を開き追い散らす。それを側面からも支援する事に撃退しようと考えているのでは無いかと。しかし……。」




 躑躅ヶ崎の館




山県昌景「見た限りではあるが、3日もあればあそこを突破する事は出来ます。」




 小諸。




菅沼正貞「山県様の話が事実でありましたら。ただ塀で囲っているだけでありましたら、竹束など鉄砲に対する備えを施しさえすれば新たに造られた郭を制圧する事は可能であります。ただそれは奥平もわかっているのでは無いかと見ています。あくまでそこは武田に一撃を喰らわせるため。時間稼ぎをするためでは無いかと。奥平はそこを使われても構わないと考えているかもしれません。」


高坂昌信「敢えて奥平は塀の中に我らを?」


菅沼正貞「引き入れようとしていると見て間違いありません。そこから中までは?」


高坂昌信「わかっていません。」


菅沼正貞「しかしあそこを堅固にした所でな……。」


高坂昌信「如何なされましたか?」


菅沼正貞「いや。何でもありません。ただそこまで武田を引き入れても構わない。それまでに鉄砲で以て反撃される事への対策を施して来ない武田では無い事を奥平は知っています。大量の竹束で以て鉄砲の効力を無にして来る事を知っています。そうなっても構わない何かが奥平はある。」




 躑躅ヶ崎。




内藤昌豊「得体の知れぬ何かがわかりましたか?」


山県昌景「異風筒では無いか?との情報が入った。」


馬場信春「それなら一向宗の者より聞いている。大陸で使われている大型の鉄砲であると。」


山県昌景「はい。それが今回、長篠城にも運び込まれています。恐らくでありますが、竹束で防ぐ事は出来ません。加えて鉄砲より遠くに飛ばす事が可能と言われています。」


馬場信春「奥平は我らを塀の中の、逃げ場が狭い入口しかない場所に引き入れた所で。」


山県昌景「はい。防ぐ事術が無い異風筒を浴びせ掛けようとしていると見ています。故にあそこに攻め入る事は出来ません。」

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