第4話 ナイトに出会う

「ここがギルドハウスです」


 広場から6番通りと表示された道を真っ直ぐ進んだ。

 その通りのどんつきに『ギルドハウス』と書かれた3層になった大きな建物があった。


「ルナどの。ここにいるのは皆、冒険者か?」


「まぁ、大体が冒険者ですね。普通の人もいますけど・・・」


 中に入ると武器を持った大勢の男や女、ルナどのと同じ格好をした者達がいた。

 人間だけではなく魔物どもらも一緒に酒の匂いを放っていた。


「ハイ、ルナ~」


 客が座る場所から分けるかのような木の仕切りの奥から金髪の髪に口にヒゲを生やした男が現れた。


「マネージャー、お久しぶりです!」


「ユーはいつでも可愛いね~。後ろの男は相棒かい?」


「はい、新しく冒険者になろうという虎吉さまです」


「アイシ~、それならこの申請書に記入してくれ。審査には4,5日ほどかかるよ」


 主なる男が一枚の紙と筆のような物を出した。


 冒険者登録申請書。


 ラドネラック 2281ネン


 氏名


 異国の文字でそういうことが書かれ、四角い絵なども書かれていた。その紙にルナどのがこの世界の文字で自分の名前を書いた。


「虎吉さま、ここに自分の名前を書いて下さい」


 ルナどのが上の方の四角い絵が描かれたところに指を指した。言われたとおり、その四角い絵の中に漢字で、虎吉と書いた。


「ルナどのはこの文字が読めるのか?」


「はい読めます!この世界ではこういう風に書きます」


 ルナどのが書いた文字を見た。

 これで《とらきち》と読むようだ。街中には色々な文字があり、漢字もあれば、ひらがなを見かけた。


「虎吉さまが冒険者になる時はわたしが虎吉さまを保証します!」


「保証?」


「はい、正式な冒険者は申請書に信頼できる者の名前を書いてその人が信頼できる人だと保証して、それをギルド本部フェルディナンド・ガマが審査します!」


「フェルディナンド・ガマ?」


「はい、フェルディナンド・ガマは500年前、世界を見たいと初めて冒険をした冒険者の先駆者なんです」


 ルナどのが上を指さした。

 上の壁に、2人の男の絵が掛けられており、その真ん中に、家紋のようなものが飾られていた。


「その250年後、冒険者クリストファー・タスマンが冒険者協会フェルディナンド・ガマを設立して、この協会が冒険者を認定、保証して世界中の冒険者と依頼を、このギルドハウスに集めたんです」


「で、その依頼は?」


「あそこに貼られています」


 店の奥の壁に何枚も紙が貼られていた。


 サガマー山にある薬草採取。

 報酬20万エルー。


 バムの森に潜む、ジャノモンキーを生け捕り。

 報酬30万エルー


「つまり冒険者とはこの依頼をこなして飯をくうわけか・・・どれを選べば良いのだ?」


「わたしが選びます・・・え・・・っと、これにしましょう!」


 ルナどのが選んだ。


「この近くのテイチ、アートリア、あっエルフの村!で、リザードマンの盗賊を退治して欲しいそうです。報酬は、50万エルーもある!依頼者はアートリアと商売をしている商人、ウインガ・・・。最初はここらへんからはじめましょう」


 どうやら某の冒険者としての初めての仕事は帝国の直轄地でトカゲの魔物の盗賊退治に決まったようだ。


「ところでテイチ、アートリアとは何だ?」


「アートリアはただの村の名前。テイチは帝国の直轄地のことです!」


「さよか・・・ん?ちょっと待て、某はまだ冒険者になっていないのだな。すると某はこの依頼を受けられない」


「あっそこは大丈夫です。わたしが正式な冒険者ですので、虎吉さまは今はわたしの『お供』ということで」


「さよか・・・」


 ルナどのの、お供ということは某はルナどのに奉公せねばならぬのか。


 すなわちルナどのは某の『ご主人様』というわけか。


 この世界に来たばかりならば確かにそうであろうが、やはりそういう身分か。


「では、今から貴方様をご主人様とお呼びいたします」


「・・・ふつうにルナで良いです・・・」


「え?・・・では、ルナ・・・どの・・・この世界はいったいどういう風になっておる・・・?」


「はい!これがわたしたちの世界です」


 ルナどのが天井を指さした。

 この店の天井に広大な世界が描かれていた。


「わたしたちがいるノム国はあそこです」


 ルナが地図の端っこを指さした。パール大陸と書かれた地にいくつかの国と共にノム国とかかれていた。


「そして、あそこにあるのがわたしの国、セレーネ国です」


 今、我らがいるノム国がある地から海を隔てたアシム大陸と書かれた西の果てにセレーネと書かれた小さな国を、ルナどのの指が指していた。


「なるほど、あれがお主の国か。隣の大きな国は何だ?」


 ルナどのの国のすぐ側にアカツキと書かれた他の国より遙かに大きな国があった。

 その国はこの地図の真ん中で世界の中心とでも言いたいかのごとく描かれていた。


「あれが、この世界を治めるアカツキ帝国です。今から100ネン前、多くの国々が争っていた時代に、異世界より1人の勇者が現れました。そして多くの国を従え、帝国を創り、帝王となりました。その初代帝王は、虎吉さまと同じ武士なのです」


「・・・あれを某と同じ武士が作ったのか・・・どんな武士だ?」


「正直その武士に関しては謎が多いのです。」


 どれほどの強者だ。

 この世界を治めることが出来た武士とは。


「しかし、その帝国が今力を失いつつあり、この世界はもう一度戦乱の世に戻ろうとしています」


「大きな戦が起きるのか?」


「それでいまこの世界は、虎吉さまの世界も含めて世界中から強者達を集めているのです」


「ほう・・・ん、上の方にちゃんと描かれていない地があるぞ?」


 帝国のあるアシム大陸と、今我らがいるパール大陸の上の方に少ししか描いていない地があった。


「あの大陸はフェルディナンド・ガマが断念した暗黒大陸です」


「暗黒大陸?」


「あの大陸は常に黒い雲と荒れる海で守られ、挑んだ者は歴史上10人ほどです。皆、制覇することができず、暗黒大陸と呼ばれています」


「さよか・・・ところでその武士は冒険者になって国を創ったのか?」


「はい、冒険者の中には依頼をこなしていって仲間を集めて、国直々からの大きな依頼もこなし、国の有力者からそしてついに国を手に入れた者もいるんです」


「すると某も領地を手に入れることが出来るのか?」


「上手くいけばですけど・・・国が欲しいのですか?」


「欲しい!」


 突然、希望が芽生えた。

 蒙古の時にもらえなかった領地をここで手に入れることが出来る。


「・・・・・・」


「そこをどけ」


 突然見たことのない甲冑に身を包み、大きくて長い剣を持った茶色い髪の男が現れた。

 背が高く某を見下しているように見えた。


「なんだ貴様は?」


「我が名は、誇り高きナイト、ロベルト!その依頼は俺がやる。お前は別の依頼をやれ」


「ナイト?どこの馬の骨か知らんが、首飛ばされる前に消えろ」


 無礼な物言いに腹が立った。


「もう一度言う。その依頼は俺がやる」


 男は澄ました顔で持っていた大きな剣を某に向けた。

 この「自分は正しい」とでも思っているような顔つきが気に入らない。


「ロベルト、止めて下さい!」


 ナイトとかいう男の後ろからルナどのと同じように先端に大きな宝石をつけた大きな杖を持った女が現れた。

 見たところルナどのより少し年上の黒髪の日本人のような顔つきだった。


「アイネさま!?」


「ルナさんお久しぶりです。あなたも仲間を見つけたようですね」


「あれ、知り合い?」


「はい、こちらは第・・・わたしと同じ魔術師で冒険者です!アイネさま、こちらは虎吉さまと言いまして、武士です」


「まぁ、あの初代帝王と同じ武士!」


 アイネという魔術師が微笑みながら鎖骨くらいの長さの髪を耳にかき上げ奥で光っているかのような瞳で某を見た。


 その綺麗な瞳に思わず目をそらした。


 そらした先にナイトの鋭い目があった。


「どうやら貴様も譲らぬようだ。それならば、pojedynek(果たし合い)で勝負をつけよう!」


「果たし合い?」


 ロベルトが某に一対一の果たし合いを挑んできた。


「おもしれえ・・・」


「見つけたぞ!」


 ロベルトと話をしていたら突然、数名の魔物と人間どもらがやってきた。

 ルナどのとはぐれたときルナどのを拐かしていた者どもだ。


 だが、何かが違う。

 外見は変わってはいないが、あのときに比べて何かが強くなっているような気がした。


「ぐわ!」


 某が地面に叩きつけた豚の魔物が某を蹴り飛ばした。


 躱せるはずの動きだった。

 隙がある動きなのに、足を上げて、某に当てるまでが異様に速かった。

 某は起き上がると、豚の魔物に突進し顎に一撃を飛ばした。

 

「ぐっ!」


 それより速く豚の魔物の大ぶりの拳が某の鳩尾に入った。


 おかしい。


 豚の魔物の動きは隙だらけで入り込める余地はあるはずなのに、なんだあの速さは。

 気のせいか豚の身体からわずかに光りが見える。


「【疾風迅雷(ラピッドサンダーストーム)】!」


 後ろでルナどのの声がしたと同時に某の身体に変化を感じた。


「虎吉さま、これでそのオークを倒せます!」

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