第2話 異世界の都
「シャドが見える・・・よし!」
扉をくぐると、まるで己が虫になったかのような大きな草原が広がり、草が光に照らされ風になびいていた。
その草原の向こうに大きな建物が見えた。
「行きましょう!」
「はい・・・お主普通にしゃべってるぞ!?」
この世界に来て突然この女が普通にしゃべり出した。
「あっ違うんです!さっきまでは頑張って虎吉さまの国の言葉を話してましたが、わたし今あなたの国の言葉をしゃべってはおりません!」
「いや、今現にしゃべっておる!」
「それはですね、この世界に入ると魔法にかかってどこの国の言葉でも自分の国の言葉で聞こえるようになりまして・・・えっと、いま虎吉さまのしゃべっているあなたの国の言葉はわたしの耳にはわたしの国の言葉に聞こえます!」
「はい?」
何を言っているのだこの女は。
「ただし全て訳してくれるわけではないので時々、わからないことがあります」
今の説明がすでにわからん。魔術とやらで、異国の者の言葉が分かるようになるだと。
「申し遅れました。わたし、セレーネ国の魔術師、ルナと申します」
ルナどのとやらが丁寧に頭を下げた。
「虎吉だ」
某も頭を下げた。
「先ほどのリザードマンを倒したのは凄かったです。刀を抜いた時なんてわたし見えませんでした。さすが『強者の試金薬』を飲んでも平気なだけあります!」
「強者の試金薬?先ほどお主が某に飲ませたあの水か?」
「はい、とある偉大な魔術師が作った薬でして、その薬を飲んで耐えらるのであれば強者、絶えられないのならば弱者とわかる薬です!」
自分の世界に戻ってきたからなのだろうか、先ほどの震えた声ではなく堂々と、笑顔で話してくる。
「ところでもし某が弱者だったら、その薬を飲んだらどうなるのだ?」
「死にます。虎吉さまを信じて飲ませました。ごめんなさい!」
ルナどのは苦笑いして答えた。この女、初めて会った者になんて怖い物を飲ませるんだ。
わからん世界に突然来てしまったので分からん事だらけだ。
まずルナどのが何者か知ろう。
女というのを全く知らぬ訳では無いが、このルナともうす女子は同い年であろうが、高貴な雰囲気を感じながら下級武士の某に頭を下げた。
「そなたの生業である魔術師とは何だ?いったいどのような事をしてそして高貴な身分なのか卑しい身分なのか?」
「え・・・っと魔術師というのは魔法を駆使して共に戦う者の側について力を与える者です。身分は決して卑しくはありません!」
ルナどのが僧侶や女が旅をするときに使う杖の先に宝石が付いている不思議な杖を某に見せた。
先ほどルナどのが何かを申すと、その宝石が光り出し、この世界へと通じる扉が開いた。
ルナどのはこの不思議な杖を持って呪文を唱えて魔術を操ることができるのか。
「ルナどのは陰陽師のような者か!?」
「おんみょうじ?」
今度はルナどのが分からないようだ。
陰陽師は占いや呪術を駆使して都を災いから守り、身分は上から下まである。
我ら武士が時々、魔物退治をするように陰陽師もまた魔物退治をしている。
魔物は異界より参ると聞いたが、ここが異界か。
「まぁ、似たようなもんですね。とにかくシャドまで行きましょう!」
「あっはい・・・」
ルナどのと共に目の前に見える巨大な建物まで歩き出した。
「パーセを・・・」
城門で2人の兵が虎吉達のパーセを確認しようとした。
「パーセとは何だ?」
パーセを兵に尋ねると、兵は怪訝な顔をした。尋ねただけなのに何の不満があるのか。
「パーセです。こちらの方はまだ持っていないのですが、わたしのがあります」
ルナどのが腰に下げた袋から手のひらほどの大きさの黒くて月の絵が描かれた薄いものを取り出し兵に見せた。
それを見ると急に兵の腰が低くなった。
「今お開けします!」
兵はルナどのに一礼すると扉を開けた。
「ここはノム国の王都シャドです!」
「異国の都・・・」
扉の向こうに巨大な世界がある。
石できた道の両端に大きくて高い建物が立ち並ぶ都を人間だけではない色々な魔物たちが色々な格好をして歩いていた。
道や建物に色々と何か文字が書かれていた。
(Umbrella Shop(傘屋)か・・・)
(Gym(じむ)・・・何のことだ?)
不思議な事に初めて見るそれらの文字の半分は読めて、半分は読めなかった。
これも魔術の力か。
「先ほどの兵士、パーセなるものを見せたら、態度が豹変したな」
「わたしのパーセは特別ですから。早速虎吉さまのパーセも作らないと。そのためにギルドハウスに行きます。そしてそこで虎吉さまには冒険者になっていただきます!」
「ギルドハウス?ぼうけんしゃ?」
また知らぬ言葉が出てきた。
魔法とやらでルナどのの言葉が分かるようになったが、やはりこの世界は知らぬ世界だ。
「えっと冒険者というのは今から500年ほど前に、この世界の未知なる部分を知ろうと旅に出た人達の事を言うのですが、今では旅をしながら、各地の依頼をこなす者の事を冒険者と呼んでいます!」
「某は武士だ」
某は武士の世界で生まれたので武士だった。そして成長するとともに武士として武芸も磨いた。
地頭の館を飛び出して、この世界へやって来たが、それでも農民になる気は無いし冒険者なるものは初めて聞くのでなおさらだ。
「大丈夫です。武士の冒険者になればいいだけですから!」
「はい?」
「ぶっちゃけ、冒険者も本業やりながら副業で冒険者やったり、逆に本業冒険者で副業やってる人もいたりしますので。でも、それで勝手に冒険者と名乗って悪い事する奴もいるのよね~。虎吉さまは武士の冒険者!」
「・・・さよか・・・」
話を聞いて歩きながら初めて見るこの都を見渡した。
茶色の大きくて高い壁にドングリのような穴があって、透明なものがはめられている。
上のほうで会話を楽しんでいる2人の女がいれば、向こうでは道ばたで4人の男達が透明な入れ物に入ったものを飲みながら、手のひらに収まるくらいの大きさの紙で何かをしながら騒いでいた。
広場に出ると大勢の人間と魔物が集まって2人の男を見ていた。
「喧嘩か・・・」
2人の異人が刀で戦っていた。
1人は、昔見たことのある宋の者の格好をして剣を扱っている。もう1人は見たことない格好だが太刀に似た武器を扱っている。
あの者達も某と同じく、自分達が住んでいた世界からこの世界に来たのか。
「!?」
広場の地面に描かれた模様を見た時、信じられなかった。
描かれていたのは源氏の家紋、笹竜胆だった。
「あ!?」
ルナどのとはぐれてしまった。
来たばかりの見知らぬ世界の見知らぬ都でなんと迷子になってしまった。
ルナどのはどこだ。
ルナどのがいないと某はどうすれば良いのだ。
「だんな、これ買わないかい?」
ルナどのを探していたら、先ほど倒したトカゲの魔物と同族のものが某にものを売りつけようとした。
「お主、某の言葉が分かるのだな」
「あたりまえじゃないか?それよか見てくれよ。この滑らかな肌触りのローブを。最高の着心地だぜ」
トカゲの魔物がルナどのが着ているのと同じ着物を某に売りつけようとした。
「魔術師を見なかったか?」
「魔術師なんてそこら辺にたくさんいるじゃないか」
「ルナという女子だ」
「名前なんて知らねぇよ。それより、こいつは・・・」
「さらば」
この魔物とは付き合ってられぬ。話を終わらせて、再びルナどのを探した。
「武士を見るのは久しぶりだね。見たところ人を探しているのかい?」
今度は、かふぇとやらの商いをしている店の前で椅子に座っている老婆に話しかけられた。
「某をこの世界に連れてきてくれた魔術師を探しておる」
「その魔術師は、あんたを武士と知って連れてきたのかい?」
老女が穏やかで優しい、顔で某をまじまじと見つめた。
だがその瞳は、かなりの人生の深みを経験しているように思える。
「それは分からぬが日食みたいなものを見た後に、その魔術師に連れてこられた」
「日食?」
「ああ、だがその日食はまるで太陽と月が重なって輝いていた」
「・・・まさか・・・」
老女がその話を聞いて顔色を変えた。
「はやく見つかると良いね」
老婆はそう言うと、碗のような器に入っているものを飲んだ。
某はまた走り出した。
土地勘も分からず、大勢の魔物を含めた者達も初めて見る者達だ。時間だけが過ぎていった
「人を探している魔術師を知らんか?」
どうにもならぬので道ばたで商いをしている者に一か八か尋ねた。
「人を探している魔術師?ああそれなら確か、あそこに入っていったよ」
「まことか!?かたじけない!」
何という奇跡。
一か八か尋ねると見事教えてくれた。
某は全力で商人が指さした建物へと走った。戸の横に立て札があったが読むこと無く戸を開けて中に入った。
「あれ?」
建物の中は壁以外何も無かった。
「ん?」
ふと足下に視線を落とすと床が何かの模様の形になって光っていた。
「わあ!」
突然、床がなくなり、暗闇へと落とされた。
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