死神の地図
ライカ
第1話 絶望からのはじまり。
私には3歳年上の夫がいる。今日は最近にしては珍しく早く仕事が終わったので足早に家に帰っている。
夫とは結婚して4年何不自由ない平凡な日々を過ごしている。私は久々に家に帰れるのでウキウキしながら玄関についた。
『ただいまー今日は仕事が早く終わって…………え!?』
玄関を開け足早にリビングに来た時だった。
目の前には全裸の夫と見知らぬ裸の女がいた。
『嘘、なにこれ?』
『おい、月子、これは』
『何?この婆さん、阿良、これが奥さん?』
知らない女が私を馬鹿にするように見てくる。
『由紀!少し黙ってくれ』
『どういうこと?阿良?』
自分の声が震えているのがわかる。
『落ち着け、月子、これはただの知り合いだよ……』
阿良は焦りながらも平静を装おうとしている。
『何これ』
何もわからない。頭ない真っ白。
『夕食作らなきゃ……』
そんな場合じゃないのに、
私はゆらゆらとキッチンに向かう。
(かちゃ)
私は包丁を持っていた。
『おい!月子!何してる!』
阿良が私の方に急いできた。初めて出会った時みたいに情熱的に。
『包丁なんて持つな!やめろ!』
私の手を力強く掴んで包丁を奪おうとしてくる。
『やめて!離して!触らないで!』
私は泣きながら訴えた。すごく悲しい。すごく苦しい。辛い。痛い。
『おい!離せよ!』
『嫌ーー!!』
(ズボ)
『痛!』
包丁が肉に刺さる感触と包丁が刺さる音がした。
私は阿良の腹に包丁を刺していた。
『痛、痛えよ、てめえ、よくも、よくも』
阿良は自身に刺さった包丁を抜き私に襲いかかった。
(ズボ、ガシャ、ズボ、ズボ)
恐怖で倒れた私に阿良は容赦無く包丁を何回も何回も刺してくる。怖い。
『痛い!痛い!やめて!やめて!』
全身が痛い。体が暑い。辛い。
『お前が悪い!お前が!お前が!』
どんどん意識が消えていく。
最後に見たのは阿良の憎悪と悪意に満ちた顔だけだった。
今思えば阿良との生活は冷めていたのかもしれない。私が仕事で家に帰るのが遅いから気づかなかっただけだった。家に帰っても彼は先に寝ている。起きるのもバラバラ、デートだってもう一年はしていない。私も悪いけどいつも今日みたいに早く仕事が終われば頑張って早く家に帰って彼のために手料理とか作った。そもそも仕事だってフリーターになってしまった彼のために頑張って……
最悪な人生。もう、いや
……天国?地獄?……
『やあ、君たちこんにちは僕は神様だよ』
気づいたら私の前に変な服の変な男がいた。
『君は夫に刺されて死んだんだよーわかる?』
『なんで?私生きてるの……』
最悪、いたくない。
『はーみんな若いのに死んじゃうなんて勿体無いよね。と、いうことで僕は考えました!君たちにはやり直してもらいます!!』
変な男がそう言うと
変な男の斜め後ろの左右に阿良、とリビングにいた女がいた。
『はい!この男の人は阿良くん、そして君が月子くん、そして君が由紀くんね。これから君たちは同じ世界に転生してもらって人生やり直ししてもらうね』
さっきから何が起きてるかわからない。
『あ!阿良くんの古い方の奥さんじゃんwww。なんでこんなとこにいるの?』
『月子なぜ、お前が……てか、なんで由紀も』
『知らないわよ、あ!阿良くん!助けてーおばさんが私のこと睨んでくるー♡』
『離れてよ!阿良くんから!』
『月子、お前よくも俺のこと刺したよな』
『え』
『そんな奴に名前呼ばれたくないんだけど』
阿良が私のことを軽蔑する目で見てくる。
『はい!みんな静かに!んーとそこの阿良くんはルミナス王国のハリス領地の領主の息子で、月子くんはルミナス王国のルート領地にすむ探偵の娘、由紀くんはアナ法王国の貴族アルデバランの娘ね』
自称神が変なことを言っている、けど不思議と本当のことのように思う。
『あはははは、何それ!おばあちゃんさ!私たちは偉そうな身分だけど、あんた探偵の娘て笑える!バカみたい!』
なんで不倫したあいつらがいい身分なのかわからない。なんでよ!
『それじゃバイバイ!頑張ってね』
文句も言えぬまままた意識が消えていく。
……ルミナス王国ルートの都市……
『うわ!』
目が覚めた。
私は知らないベットで寝ていた。小鳥の囀りが聞こえる。
『ん?起きたの?ライナ?よかった。あなた3日間寝込んでいたのよ。あ、熱ない?』
目の前に生前の母と同じ面影の女性がいた。
『キャ!、やめて、触らないで!』
怖い、あの笑顔の裏に何か隠していそう。怖い。
『どうしたの?んー混乱しているのね、わかったわ、お母さん下で朝食作っているわ』
少しショックそうに私を見ながら彼女は部屋を出ていった。
『あの顔はお母様と同じ』
前世で散々私を身も心も拘束した母と同じ顔だった。嫌な思いが蘇る。起きたばかりなのに気分が悪い。
『ん!』
急に頭痛がした。それと同時に見覚えのない記憶が頭の中に入り混んでくる。すごく痛い。
『はあはあはあ』
ようやく、私は思い出したというかわかったというか。今の自分の事が少しわかった。
私はライナ、ルイ。探偵ライカ、ルイの一人娘。ただの平民。そんな娘の記憶の全てが入ってきた。
(ゆらゆらゆら)
ベットで頭を抑えていると窓から一枚のB3サイズの紙が入ってきた。
『何これ?』
私は紙を手にとる。
<死神の地図>
触れたものの未来、過去のどちらかの足取りを地図に書き示す。
そう、紙の真ん中に書かれていた。とても変で気持ち悪い。
『ライナちゃん!いらしゃいー!』
さっきの私が起きた時に近くにいたお母さん(ライカさん)が私を呼ぶ声が聞こえた。他人なのに、だけど、温もりを感じる。不思議。
『え?あ、わかりました!今行きます』
何故だか昔からここで生活していた様な感じがする。でも、居心地が悪い。
ふと窓の外を見れば、私は本当に転生したのだと実感した。家の前を通るのは自動車ではなく馬車ばかり。
それに何よりし下に降りてテーブルに行くと見つけた食事がそれぽい。蒸したジャガイモ、黒く固い肉、パサついた固いパン。
『ライナ。元気になった見たいだね。さあ、食べ終わった溜まってた仕事しに行くよ』
『あ、わかりました。お母様』
前世とは違うてわかるけど母親という存在を目の前で見るのは怖い。また、殴られたり罵声を浴びないか怖い。
『なに?ライトちゃんそんな改まって……お母さんのこと揶揄ってる?……ま、いいことね。それぐらいの余裕があるなら大丈夫よね』
なんだか距離感が掴めない。怖いような、安心できるような。
……都市の外の村……
食事をし終えてライカさんと外に出た。馬車に乗り二時間ぐらい経って。私たちは民家が十数件程度の村にきた。
この村は農業と畜産業をしている。だけど最近ここの近くに盗賊が住むようになったそうで、毎晩何頭かの動物が盗まれてしまうそう。村の人も夜の巡回を増やしているそうだけど、家畜部屋が多くて対応し切れないそう。だから私たちに盗賊の居場所を調べて欲しいと依頼してきた。そう、私に流れ込んだ記憶ではなっている。
前世の私ならこんなこと知ってもやる気が出なかったけど。今は何故か村の問題を解決しようと思い出してる。
ライカさんに村人らしき男性が話しかけてきた。
『おはようございます。ライカ先生。今日こそ盗賊どもの棲家を見つけてください。毎日毎日、家畜を取られるのは参っちゃいますよ』
『そうですね。頑張りますね』
今、ライカさんと話しているのは村の住人のパトリオットさん。一応この村の剣士だそうだ。
『ライト先生もよろしくお願いします』
そう言ってパトリオットさんはどこかへ行ってしまった。
『どうしようかね?んーライナちゃんなんか方法ない?お母さんを助けてー』
ライカさんが私に聞いてくれる。
『すみません。分からないです』
いきなり言われても何もわからない。さっきこの世界の記憶?が戻ったからって何もできない。
『そっか……んー。私は村長さんと話すからライナは好きにしてて。あとそろそろ揶揄うのやめてね。もうよそよそしいのいの嫌なの』
そうライカさんは言って村長の家の方へ行った。
私はなんとなく村の中を歩き回った。前世では見る事なんてなかった事がたくさんある。正直内心少し楽しい。
……家畜小屋……
(メエエ〜ー)
私は家畜の小屋に入った。
私はどの世界でも動物が好きなんだと思う。
なんとも家畜くさい。動物園みたいな匂いがする。
阿良と最初で最後の動物園デートしたのを思い出す。今でも鮮明に思い出せる。すごく楽しかった。での今は悲しい。
(メエエーー)
一頭の羊が悲しみに暮れて座る私の近くにきた。
『羊さん?』
なんだか慰めに来てくれている気がする。
『ありがとう』
私は羊さんの頭を抱きしめた。すごく暖かい。なんだか泣けてきた。わからないけど寂しいような悲しいような?
しばらくして落ち着いてきた。
私は羊と一緒に藁の上で寝転がった。臭いはずなのに安心する。だんだん落ち込んだ気分が薄れてくる。
『君も連れていかれちゃうのかな?どこに行っちゃうのかな』
ふとそう呟いた、この羊もいつか盗賊に盗まれてしまう。そう思うと寂しい。
『どこ行くかさえ分かればな』
私は隣の羊を眺めながら考えていた。
パッと思いついた。
『あ!あの変な紙なら!』
私はベットで拾った変な紙を広げる。
<死神の地図>
触れたものの未来、過去のどちらかの足取りを地図に書き示す。
触れたものの未来、ということは盗まれて盗賊の棲家に行く未来があるならその道どりがわかる。だったら盗賊の棲家の場所がわかるんじゃない?
(お願い。この羊さんの未来を見せて)
私は気づいたことはすぐにやりたがる性格ですぐに近くにいたさっきの羊に触れて念じてみた。
目を開けると紙は地図のようになっていた。
『これって』
よく見るとこの村の形どうりの地図になっている。
そして赤い線が一つの建物の中をぐるぐるしていた。本当に何かが起こったことに興奮してしまう。
(これってこの羊さんの行動を示した線?でも一箇所から動いてない……そっか!まだこの羊さんは捕まる未来がないのか)
ここまで来たのに結局何もできないのが悔しい。私は近くの藁にまた横たわって考えた。
……数分後……
『あ!』
(盗まれる未来がないなら未来を作ればいいんだ!)
今のあの羊はきちんと小屋で守られているが村の外に出して放置すれば今夜、盗賊が取るはず。そしたら未来が変わって地図の形が変わるかも。
考えがまとまった私は早速さっきの羊を連れて小屋を出た。
……村の外……
『ごめんね、羊さん』
村の周りは簡易的な柵で囲まれている。私は連れてきた羊の首輪とその柵をロープで繋げた。
(お願い。この羊さんの未来を見せて)
私はまたさっきの紙に念じた。
今度は村だけではなく遠くに見える山脈まで地図になって出てきた。
そして赤い線が山脈まで伸びてる。そしてそこにある小さな捨てられた古城で途切れていた。
『やった!』
(この赤い線が途切れているのが盗賊の棲家じゃない?)
自分の考えがうまくいったことに嬉しい。
『ごめんね、羊さん、でも君のおかげでわかったよ。ありがとうね。これでもう大丈夫』
私はうまくいったことに興奮して連れてきた羊さんに感謝しつつ村の中心部の方へ走って戻った。
『あ!、パトリオットさん!盗賊の居場所がわかりました!』
走っているとパトリオットさんが見えたので話しかけた。
『え?どうゆう事だい?ライナさん?盗賊て……』
『えっとその最近家畜を襲う盗賊の棲家がわかったんです』
『本当か!?、それはどこなんだい?!』
パトリオットさんは急に私の肩を掴んで食い気味に聞いてきた。
『落ち着いてください。パトリオットさん。盗賊の棲家はあの山脈にある古城です』
『ん?……古城?あ、そうか、なるほど。ありがとうライナさん。早速調査しよう』
『え、でも、確証は』
あの紙が本当に未来の道筋を表しているのかわからないし、何よりあんな方法で合ってるのかわからない。わかった喜びの勢いだけでここまできたけど心配になってきてしまった。
『いいよ、確証なんて、どうせこっちは何一つ考え無かったんだし』
そう言ってパトリオットさんはどこかへ行ってしまった。
もし、今のが間違っていたら村のみんなに怒られるのかな?そんな心配が頭をよぎる。勢いで伝えたことに今更後悔し始めてしまった。
怖い、間違ってないか。
私は心配になりながらさっきもさっきの羊を元の小屋に戻そうときた道を戻った。
間違っていた時のことを考えているととても怖い。阿良のために作った夕食に彼の嫌いなものを間違えて入れてしまい怒られた時みたいにならないか心配になってくる。せめて殴られたりとかしないか怖い。
(メエエーー)
羊を置いて行ったところまで戻った。
『ごめんね、羊さん』
羊を柵から外し家畜小屋へと連れて行った。
……家畜小屋……
『じゃーね』
羊を出会った時みたいに小屋に入れて私は小屋の扉を閉めた。
『あ!ライナちゃん!聞いたよ!盗賊の棲家の目星がついたんだね。すごいよ!さすが自慢の娘ね!』
ライカさんが私の方へ駆け寄ってくる。何もされないのがわかってても怖くて身構えてしまう。前世の母親とは別人だけどやってしまう。
『あ、うん』
『あ、それでねパトリオットさんがね今日のうちにそこに行って盗賊を捕らえるらしいの。これで私たちの仕事も終わりかしらね』
『え』
(即日決行するの!?)
……村の出入り口……
『じゃ、みんな、行ってくるよ』
パトリオットさん、その他の剣とかを装備した男性たちが村をでて行った。
結局、私は彼ら達を止めることは出来なかった。間違ったらどうしようと常に考えてしまう。怖い。
『頑張ってね!みんなー!!』
村のみんなは私と違って嬉しそうに彼らを見送っている。
……夕方……
パトリオットさん達を見送って数時間が過ぎた。私は心配になり過ぎて頭が痛くなりベットで休むことにした。ライカさんはそんな私を気にかけてきたがそこまで絡みには来なかった。多分使えない娘はいらないだろうな。
……夜中……
『うおーやった!!!』
私は村の中心にある広場で歓声で起きた。
『何?』
まだ寝ぼけているけど窓の外は夜なのに明るい。
(ダダダダダダ、ガチャ)
『ライナ!!パトリオットさん達が盗賊団の人たちを捕らえたわよ!』
いきなり扉を開けてライカさんが入ってきた。
『え?』
『あんたのおかげで盗賊の人たちを捕らえられたわ!ほら!村のみんなに挨拶するよ!』
ライカさんは戸惑う私を無理やり連れて行った。
『お!ライナさんのご登場だぞ!』
『ライナさんだ!』
『よ!英雄!』
広場に来ると村人達が私を見て喜んでいる。
『お!ライナさんだ』
パトリオットさんが広場の中心でいた。
『おーーいみんな!ライナさんだ!この子のおかげで俺たちは盗賊を捕まえられた!』
その後のことはそこまで覚えていない。出されたワインを飲んだり、村の人のダンスパーティーに参加したりでとても楽しかったのを覚えている。
前世では誰かのためにしてもここまで感謝されることはなかった。し、むしろ失敗したらこっ酷く叱られた。けど、この世界はすごく感謝してくれる。すごく生きやすい。楽しい。
私は決心した。前世では奥手で人助けとかそこまで出来なかったけど、ここでは自分のできる精一杯をしようと。
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