第29話「凜! おめでとう!」

お夕飯の後、行ったお母さんとふたりきりの『作戦会議』が終わった。


お母さんは娘の私の事を、

置かれている状況をしっかりと理解した上で、

凄く丁寧に深く深く『作戦』を考えてくれた。


私はひとりっ子で姉や妹は居ないけれど、

お母さんって、困った時に頼れるお姉さんみたいな感じだ。


本当に大感謝!


忘れないように、私は学校の授業を受ける時みたいに、

ノートに、お母さんの作戦、言葉をいろいろ書き写していた。


そしてお母さんに確認を取り、自分の感想、意見も伝えて、

最終形にした。


そこまでする?

と、ドン引きする人が居るかもしれない。


でも、先ほど後押ししてくれた遥のポリシー、


「自分が置かれた状況下で、可能な範囲内において、ベストを尽くせば良い!」


この言葉を大事にしたいと思う。


そう、私は自分の初恋を成就する為、ベストを尽くさなくてはならない。


お母さん、遥は応援してくれ、颯真君も私を助け、支えてくれるだろう。


でも私自身が、頑張らないといけない!

そんな気がした。


そして、作戦の遂行は、

学校のテスト以上に丁寧で慎重にしなければならないと、

私は決めたのだ。


作戦はいろいろな人の協力が必要。

周囲への気配りも凄く必要。


この作戦は6歳の時みたいに、絶対、失敗出来ないから。


私は「失敗しない!」と言い切れる女子が凄くうらやましかった。


でも今回、私も失敗しない!


そう自分へ言い切った。


さあ、準備完了。


私は数回、大きく深呼吸し、スマホの液晶で、はるかの電話番号を押した。


ぷるるるるるる……がちゃ!


呼び出し音1回で遥が出た。


お母さんの言葉がリフレインする。


りん、遥ちゃんは貴女の一番大事な親友よ。だから、彼女に負担をかけないよう気づかってあげて、心から誠意をもって相談してね」


……了解!

私はひたすらお願いする立場。

遥の彼氏、海斗君も巻き込むから、誠意をもって相談。


でも何かあったら、私だって必ず遥を支えるつもり!

改めてそう思う!


スマホから、遥の声が聞こえて来る。


「は~い! 凛! 大丈夫? 元気ぃ? 大丈夫ぅ?」


ひときわ明るい遥の声。

今日の『事件』で、私を気遣きづかってくれていると分かる。


私はまずお礼。

それと、遥がしばし通話可能か、確認する。


「ありがとう! 遥! 連絡と相談する事があるんだ。少し長くなるけれど、今、話しても大丈夫?」


「大丈夫! 大丈夫! OKだよぉ!」


「内緒話が結構あるけれど、遥の周りに人は居ない?」


「問題ナッシング、ノープロブレム! 私の部屋にひとりきりのぼっちだよぉ」


「あはは、ハイテンションだね、遥」


「うん! 私、絶好調!」


「あはは、という事で、まずは遥へ報告」


私は軽く息を吐く。


いきなり、颯真君との交際決定は告げない。


でも、長い前振りは不要だ。


「……私ね、遥と別れてから、全くの偶然に、家の近くの公園で、颯真君と逢った」


と、単刀直入に告げたら……一瞬の間。


さすがに遥は驚く。


「え~!? びっくり! 何それぇ!?」


朗報をすぐ、遥へ伝えたい!


でも、待て! 私!


順を追って話した方が良い!


冷静に、冷静に……


はやる心を押さえ、私は順を追って話して行く。


「それで……ふたりでいろいろと話したんだ……颯真君が学校を早退したの、体調不良じゃなかったの」


「わおっ! 体調不良じゃないって、それって素直に喜んでいいのか、どうなのか、全然分からないよ」


「うん、遥……実は……」


迷ったけれど、遥には颯真君の『事情』を話す事にした。

少しのろけが入っちゃうけれど……


という事で………………遥に話した。


10年ぶりに帰って来た故郷・この街に……

颯真君の持つ幼き頃の、思い出の場所が、

ほとんどなくなっていた事を……


そして唯一、変わっていなかったのが、

6歳の時出会った『泣き虫』の私・山脇凛である事も。


「再開発で変わってしまったこの街に……大切にしていた颯真君の思い出がなくなって……落ち込んで、いらいらしていた時に、6歳の時に逢った私に、再び逢えて嬉しかったって……言ってた」


「おお、そっかあ! じゃあ故郷ロスで、喪失感に陥った颯真君の心を、凜がいやしてあげたんだね」


「うん、何か、そういう事みたい」


「そういう事みたいじゃなく、間違いなくそうだって! で、その先は、どうなったの?」


「うん、相原さんが強引に、私を誘おうとするのを、颯真君は、何とか止めようとして、間に入ってくれたんだって」


「うん! それは分かるよ。以前、約束したのを守ってくれたんだよね ほら、……おう! 任せろ! お安い御用だ。また何かあったら、助けてやるよ! ……ってさ」


遥……私の為に、颯真君の約束もおぼえていてくれた。

ありがとう!


「うん、約束を守って、颯真君は、私を助けてくれた。でも……」


「でも?」


「後でね。凄く落ち込んだんだって」


「え? 凜を助けたのに、凄く落ち込んだの?」


「うん、私に対して余計な事をしたんじゃないかって、後悔したんだって……」


「え? 余計な事をして、後悔って、何それ?」


「止めに入って、私が相原さんと交際するのを邪魔しちゃったって……」


「うわ! 颯真君……えらい勘違い」


「それでね、そういう情けない自分が本当に嫌になって、颯真君、学校にそのまま居たくなくて、嘘ついて早退したって」


「わお、そうだったんだ……里谷先生が言ってた通りだったね。颯真君のメンタル面が原因だって……新しい環境に慣れないとかは、大はずれだったけど……」


「うん、そうだった」


「で、そう言われてさ、なんて言葉を返したの、凛は」


「ええっと……そんな事ないよって、言い返して……」


「そんな事ないよっって、言い返して? まあ当然だよね」


うう……恥ずかしいけど、遥には本当の事を言おう。

そう、決めたから。


「う、うん。あの、そして……私、颯真君の前で、大泣きしちゃった」


「え~!? 凜が!? 颯真君の前で、大泣きぃ!?」


「う、うん……あの、例の約束だけじゃなく、私を相原さんに取られるのが絶対に嫌で、止めに入ったって言われたから……」


「え? 相原さんに取られるのが絶対に嫌って!? うっわあ! そ、それって! 凛が! そ、颯真君にこくられたんだあ!」


「う、うん! そういう事になる……だから、お邪魔虫なんて絶対に違う! って言って、嬉しくて胸がいっぱいになって、……思わず泣いちゃった」


「嬉し泣きか! 分かるよ! それで、凛! その後、どうなったの!?」


「う、うん! 私から好きって言って……返事は……OKだった。颯真君、俺も好きだって言ってくれた!」


私が何とか報告をしたら、遥は大きな声で、


「凜! おめでとう!」


と、心のこもったお祝いの言葉を告げてくれたのである。

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