第20話「凛ちゃんと遥ちゃんに悪い事をしたな。心配かけてごめん」
下校後、親友の遥と途中で別れ、自宅に向かう私に、
一生忘れられない衝撃の事件が起きた。
かといって、とんでもない犯罪に巻き込まれたとか、事故でケガをしたとか、
そういう悪い事ではない。
……話を戻そう。
学校から、私の自宅へ、帰路の途中に公園がある。
芝生が一面に植えられた緑地を備える、そこそこ広い公園であり、
道路に面した公園の片隅には、バスケットのコートがある。
時刻は、午後4時を回っていた……
夕日で真っ赤に染まったバスケットボールのコートが美しい。
私は、バスケットボールの事はあまり知らない。
でも、絵になる光景で、凄く素敵だと思った。
後で聞いたら、このコートは、3×3用。
「スリー・バイ・スリー」や「スリー・オン・スリー」というみたいだけど、
つまり、少人数で行うバスケットボールのコートがある。
周囲をネットで囲まれているが、自由に使う事が可能なようだ。
いつもは子供たちを始め、多くの人でいっぱいなのだが、今日は……
その「スリー・バイ・スリー」のバスケットボールのコートで、
トレーニングウエア姿の長身男子がたったひとり、
……何度もシュートを放っていた。
見ていると、長身男子は相当な腕らしく、立て続けにシュートを決めている。
いつもならば、「ああ、練習してるのね」とスルーし、
そのまま興味なく、通りすぎる私なのだが……
夕日に染まったバスケットボールのコート。
その中で、ひたすらシュートを投じる男子が素敵な絵になって、感動し、
しばらく、じ~っと見つめていた。
でもでも!
改めてシュートを投じる男子をよ~く見やれば、そのシルエットに見覚えがあった。
え!?
後ろ姿に、見覚えがある!
も、もしかして!?
そ、
あの人は、颯真君じゃないの!?
でもでも!
体調不良で、学校を早退したはずの颯真君がなぜ!?
こんなところで、バスケットボールをしているの!?
時間だって、結構経っているはずなのに。
気付かれないように、そ~っと近づいて、再度、目を凝らし、
バスケットボール男子を見つめた私……
間違いない!
私は、隣の席に座った颯真君を何度も見ている。
確信した私は、こぶしを握り締め、脱兎のごとく駆けだしていた。
そして男子へ近寄ると、
「颯真君!」
と大きな声で叫んだ。
「うわ!」
と、颯真君は叫び、一瞬固まった。
そして振り返ると、
「り、凛ちゃん!」
と、驚いたように再び叫んだ。
「ど、どうして……ここに……」
と、力なく声を発する颯真君へ、私は思わず、
こっちが聞きたい! とばかりに、質問には答えず、
「心配したんだよ!」
と大きな声で叫んでいた。
すると、「心配したんだよ!」
と叫んだ私に対し、颯真君は一気に脱力。
緊張感が解けたのか、大きく息を吐き、ふにゃっとなった。
いつのものクールさとは違う。
結構なギャップを感じ、どきどきときめく私。
やっぱり私は『ギャップ萌え』に弱い女子……
心からそう思う。
じいっと見つめる私に対し、ばつが悪そうな颯真君。
「見つかっちゃったな」
と、照れくさそうに笑った。
「いきなり帰っちゃうから!」
と、私は言い、
「心配したんだよ!」
と、もう1回!
叫んだ。
一体、どうなっているの?
聞きたい事、知りたい事がいっぱいある。
公園には他に誰も居ない。
ふたりっきりで、話す事が出来そうだ。
「颯真君、時間ある? ちょっと話そうよ」
「あ、ああ……良いよ」
そんな会話を交わし、
バスケットボールコートを出て……
公園内の自販機で、颯真君はスポーツドリンク、私は缶コーヒーを買い、
ふたりで、公園のベンチに座った。
「この公園、自宅の帰り道の途中にあるの」
「ああ、そうなんだ。俺もそうさ。一旦、自宅へ戻り、着替えてからボールを持ち、出て来たんだ」
「そうだったの」
「ああ」
「あのね、颯真君」
「うん」
「私、あれから、遥とふたりで学校の中をあちこち捜したの。そうしたら、先生から颯真君が早退したって聞いて心配だった。身体の具合は? 体調はどうなの?」
元気にバスケットボールをしていたくらいだから、多分大丈夫!
と、確信しながらも、私は尋ねずにはいられなかった。
「ああ、大丈夫さ」
と颯真君は笑い、
「凛ちゃんと遥ちゃんに悪い事をしたな。心配かけてごめん」
と謝ってくれた。
そして、
「ずるして早退したの、ばれちゃったな」
と、いたずらっぽく笑ったのである。
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