第5話「うふふ、味方になって貰うのよ」

親友のはるかから全面協力を申し入れて貰い、私はお礼を言う。


「本当にありがとう、遥」


「うふふ、どういたしまして」


という事となったが……

これからどうして良いのか、超が付く恋愛初心者の私は途方に暮れた。


「でも、遥。勇気を出せって言われても、どうしたらいいの? 私、颯真君そうまくんへ、アプローチする方法が全然分からないのよ」


すると遥は、笑顔でポンと胸を叩く。


「あはは、ノープロブレム! 心配ご無用! この遥さまに、まっかせなさ~い! 早速、りんの家へ行って作戦会議よ!」


え?

何、それ?


「わ、私の家? ……へ行くの?」


「そうよ!」


「で、でもさ、お母さんも居るし……」


「じゃあさ、凜はカフェとかファミレスで、周囲に他人が居るのに、バンバン、オープンに話したい? 私は同じクラスの颯真君が大好きで~すって!」


「そ、それは……まずいし、ちょっと、恥ずかしい……かな」


「でしょ? かといって声を潜めて、ひそひそ内緒話をするのも周囲の人から怪しまれるし、こういう話は私たちの自宅の部屋で、ふたりきりで、こっそりが良いのよ」


「りょ、了解! わ、分かった!」


恋の作戦会議は、ふたりっきりで、こっそりって事?

……という事で、私の自宅へ移動。


私の自宅は学校からすぐの場所、徒歩5分のマンションである。

それゆえ、隣駅から通うはるかは、彼氏とのデートが無い時、

学校帰り、良くウチへ遊びに来る。


思えば遥とは、小学校の1年生の時からだから、約10年来の付き合い。

ショッピングモールで、颯真君に助けて貰った直後くらいに、

彼女とは、ひょんな事から知り合い、仲良くなったのだ。


10年来の付き合いだから、当然、遥はウチの両親とも顔なじみ。

私も遥のウチへ良く遊びに行く。

だから、彼女の両親とも顔なじみである。


数回、2組の家族一緒に出かけた事もあった。

つまり家族ぐるみの付き合いってやつ。


出迎えたお母さんへ遥が挨拶。


「ちゃーす! 彩乃あやのママ、またお邪魔しま~す」


「あらあら、はるかちゃん、いらっしゃい」


笑顔のお母さんに見送られ、遥と一緒に私の部屋へ。


しばし経つと、お母さんが温かい紅茶と焼き菓子を持って来てくれた。


香ばしい焼き菓子はお母さんの自家製である。


とっても美味しい。


いつか習おうと思っていたが、恋に本気になった今が、ベストタイミングかも。


手作りのお菓子を焼いて、彼にプレゼントなんて、ポイント高いと思うもの。


「じゃあ、遥ちゃん、ゆっくりしていってね」


紅茶と焼き菓子を置いて、お母さんが去り、私と遥は再び、ふたりきりとなった。


お母さんの作る焼き菓子は遥の大好物。

なので、遥が遊びに来るとお母さんが焼き菓子を出すのは『お約束』なのだ。


早速、手を伸ばした遥。

焼き菓子を口へ、かぷ!


「おいし~ねえ! 相変わらず彩乃あやのママの焼き菓子サイコ~! これで良い考えが浮かぶわ~」


と言い、悪だくみをする外道悪人のように、にんまりと笑う。


「うわ、遥、すっごくヤバくて悪い顔、邪悪さが満ちあふれてる」


「こら、凜! 何が、すっごくヤバくて悪い顔よ、何が邪悪さが満ちあふれているよ、失礼な!」


「ぶつよ♡」とポーズを取る遥。

女子から見ても、彼女は本当に可愛い。


こんな仕草にも、男子は胸キュンするのだろう。

でも、私も……颯真君に対し、自然に、そんなポーズが取れるようになりたい……

彼ともしも付き合えたら、可愛い彼女だって思われたい。


と考えていたら、遥が「ねえ、ひとつ提案」などと言い出した。


何か、良いアイディアを出してくれるのだろうか?


「何よ、はるか。提案って」


と尋ねれば、遥は意味ありげに笑う。


「うふふ、味方になって貰うのよ」


?????


味方になって貰う?

主語がない遥のコメント。

意味不明。


何?

一体どういう事?


「へ? み、味方? だ、誰に?」


と、遥に尋ねれば、ふっと笑い、遥は言い放つ。


「当然! 彩乃あやのママよ!」


「えええ!? ウチのお母さん!? な、何それ?」


驚いた!

何と何と!


遥の提案とは、ウチのお母さんに『味方』となって貰う事だったのだ。


「だって! いつか、さ。りん颯真そうま君をこのウチへ、そしてこの部屋へも連れて来るでしょ?」


遥は、イフ、もしもの話をする。

私はぶんぶん!と、手を振った。


「はあっ!? そ、そ、そ、そんなの! まだまだ先だよっ! まだ付き合ってもいないし! 颯真君が私の事、どう思ってるか、わ、分からないし……」


「分からなくて良いの! 作戦はね、成功への着地点、到達点から、さかのぼって考えるのが、私の考えだもの」


「せ、成功への着地点、到達点から、さ、さかのぼって考える? 遥は難しい事言うね」


「いろいろ、イフ、もしもを考えてごらんって! もしもりんがさ、『この人、彼氏だよ』って、颯真君を呼んだ時、健太けんたパパは絶対にむかっとするでしょ?」


「そ、それは多分……」


むうう、納得。


私はひとりっ子。


お父さんは、私の事を溺愛できあい中。


もしも、颯真君に溺愛ポジションを取られたら……お父さん、すっごく怒るかも……


そんな私の心の中を見抜くように、遥は言う。


「眼に入れても痛くない溺愛娘を取られて、超、怒った健太パパをなだめられるのは、愛する妻である彩乃ママしか居ないよぉ」


「た、確かに……」


「それにさ、彩乃ママが最初から味方なら、さすがの健太パパも怒れないって」


「そ、そうかな?」


「絶対にそう! 経験者は語る! バイ、遥」


胸を張って言う遥。


私は思わず尋ねる。


「経験者って……遥、そうなんだ」


「うん! 私も先にママを仲間にして、共同作戦でパパに彼氏を公認して貰ったのよ」


「共同作戦……そっかあ……」


まさに論より証拠であった。

お母さんを味方にするって、

既に『成功例』がある作戦なんだ。


「それにお菓子マスター、彩乃ママから、直伝じきでんで凛がお菓子作り習ってさ。颯真君のハートを撃ち抜いちゃえ!」


遥め、鋭い!

私が考えていた事を読まれてる!


「どき! でも、お菓子で釣るなんて、ちょっと、ズルイ気もするけれど」


「関係ないって! ウチの彼氏も私の作ったお菓子を喜んで食べてるよ、まだ彩乃ママみたいに上手く作れないけどね」


「わ、分かった。でも、遥。ウチのお母さん、『仲間』になってくれるかな?」


「なるって! 絶対になる! なぜなら、凛のショッピングモール行方不明事件を、彩乃ママは、しっかりおぼえているでしょ?」


「まあ、忘れないと思うよ。何せ、我が子の暗黒歴史だから」


「だったらさ! 我が子の暗黒歴史を救った白馬の王子様、それも名乗らずに去って行ったなんて、最高にカッコいいじゃない! 彩乃ママ、颯真君の事、絶対、気に入ると思うよ」


「そっかあ……」


「そうだよ。白馬の王子様エピソードに加えて、颯真君イケメンでかっこいいし、ま、ウチの彼氏には負けるけどね」


「はあ、遥、最後はノロケ?」


「あはは、まあ、良いじゃない、凜。じゃあ、早速、彩乃ママを呼ぼう!」


という事で、説得された私は、遥の作戦に乗り、

「大事な話がある」と母を部屋へ呼んだのである。

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