第3話「優しくて、気配りが出来て、夢を持って生きている子…… それが颯真君の好きな女子のタイプ」

うっそお!?

どうしてえ!?

なんでなんで、山脇が岡林颯真君おかばやし・そうまくんと知り合いなの!!??

という女子たちのざわめきが、悲鳴に混じって聞こえて来る。


おいおい!

聞いたか!

転入生の岡林おかばやしが、山脇と知り合いらしいぞ!

という男子たちの声も。


どよめき、ざわざわする教室の中で、


私、山脇凛やまわき・りんと彼、岡林颯真君おかばやし・そうま君は、

まっすぐに立ちながら見つめ合っていた。


あれだけ待ち焦がれた初恋の相手。


べたで少女趣味って言われそうだけど、改めて心の中で言おう。


岡林颯真君おかばやし・そうま君は、

……幼い頃、迷子になった私を助けてくれた、小さな白馬の王子様……


とまで言うのは、凄く大げさで乙女チックかもしれないけど。


目の前に立っている颯真君が、成長した、その人だと知った時、

私の世界はがらりと変わった。


10年前から持ち続けた私の夢がようやく叶う。

きっぱりとけじめがつけられるから。


私の持ち続けた夢……

あの時、言えなかったひと言が……助けてくれたお礼が言える。


嬉しい!! 嬉しくてたまらない!!


「お、お、お、岡林颯真おかばやし・そうま君! た、た、た、助けてくれて……あ、あ、あ、ありがとう!!」


うわ!

恥ずかしい!

何とかお礼を言えたけど、思いっきり嚙んじゃったよ。


颯真そうま君、こんな私を、どう思っているだろうか?


何だか、すっごく恥ずかしい。


顔が、かあっと熱い。

赤くなるのが、見えないのに、はっきりと分かる。


対して、颯真君はにかっと笑い、


「おう! 任せろ! お安い御用だ。また何かあったら、助けてやるよ!」


見た目のクールさとは正反対。

そんなギャップ萌えもあり……

颯真君の温かく優しい言葉に、私の胸は「きゅん!」

いわゆる『胸キュン』となってしまった。


自然と、目には喜びの涙がいっぱいにあふれた。


私の初恋の相手、岡林颯真おかばやし・そうま君との運命の再会。


だが……

10年ぶり、感動の『颯真君との再会』も、

担任の里谷先生の、「ぱんぱんぱ~ん!」と手を叩く音、

そして「静かに!」という大声でとりあえず、

「お開き」となってしまった。


そんな波乱のホームルームが終わって、

『休み時間』となり、私と颯真君の席の周囲には人だかりが出来た。


……まあ、多分そうなるとは思ったけれど。


クラスメート達は全員、

私と転入生の颯真君が、なぜ知り合いなのか、

絶対に知りたいのだから!


でも……

人だかりが多いのは断然、颯真君の方である。

まあ、当然だろうし、仕方がない。


クラスのほとんどの女子達が、颯真君へ身を乗り出すくらいに、

ぐいぐいと詰め寄っていた。


その光景を見て、苦笑した颯真君。

すぐに優しい笑顔を私へ向け、


「みんな気になっているみたいだから、事情を……君との出会いを話していいかい? りんちゃん」


うわ!

10年ぶりに会ったのに、いきなりフレンドリーだ。

下の名前で、それも『ちゃん付け』で呼ばれた!


初恋の相手だからかもしれない。


けど、心がときめいてしまった。


思いっきりクールな颯真君から、優しくフレンドリーに温かくされるのが、

つまり『ギャップ萌え』が、『私の弱点』みたい……


「え、ええ……か、構わないわ」


ただただ、私はそう、言うしかなかった。


私の初恋……は、さすがに内緒だけど、

ふたりが出会った経緯、

10年前のほほえましい『迷子事件』が颯真君から語られた。


クラスメート達、特に颯真君に関心アリアリの女子達は……

『事件』を聞き、いくつもの反応に分かれた。


単純に、「ほほえましい」「運命的な再会で素敵」

と、思ってくれたロマンティック派。


ジェラシーありありの、

「そんな昔の事、無視、無視! 子供の頃の話でしょ? 今は関係ないわ!」

と、のたまうライバル宣言派。


そのライバル宣言派達は、嫉妬に燃え、凄い目で私をにらんでいた。

女子の怨念って、凄すぎる。

さすがに身体が震える。

心も折れそうになる。


ここで早速、颯真君が約束を守ってくれた。

不穏な空気を読み、手をさっと挙げたのだ。


「念の為、言っておくけど……俺はこのクラスの新参者。皆と仲良くしたい」


ひどく真剣な颯真君の口調。

クラスメート達は、全員黙って聞いている。


「………………………………」


「だが、凛ちゃんとの思い出は特別であり、凄く大事だ。それでもしも、何やかんや文句を言う奴がいたら、俺は絶対に言い返す。断固抗議するよ」


「………………………………」


「もしも、ある事無い事、陰口を言ったり、凛ちゃんへ因縁をつけたり、無視したり、どうこうしたら、俺は絶対黙っていないし、そいつを大嫌いになるだろう」


すると、颯真君の話を黙って聞いていたクラスメートたちの中で、ひとりの女子が、


「ねえ岡林君、もしかしてそれって、山脇へ告ったって事? 彼女宣言なの?」


と、いきなり直球を投げ込んだ。

対して、颯真君は、


「いやいや、凛ちゃんへ告るとか、彼女宣言とか、違うって!」


と、大きな声で否定した。


あううっ!


ショック!

いえ、大ショック!!

心が折れそうになる!!


怯えた『わんこ』のように小さく唸る私。


運命的とも言える、衝撃の再会をして、

私と颯真君は、小説のカップルみたいに相思相愛じゃないの?と思ってしまった。


同級生たちは、颯真君と私を交互に見た。


女子たちは、皆、ホッとしていた。


颯真君は更に話を続ける。


「俺さ、親の転勤で、久々にこの街へ戻って来て、もしかしたら凛ちゃんに会えるかと思っていたら、願いが叶ったんだ」


「願いが?」


「ああ、でもしょせんは子供の頃の話だ。凄く懐かしいし、凛ちゃんは大人になって、更に可愛くなっていたけど、それはそれだろ」


すると今度は違う女子が、


「それはそれって……じゃあ、岡林君はどういう女子がタイプなの?」


おお、またも『ど』が付く直球!


対して、颯真君は


「う~ん、そうだなあ。俺が好きな女子のタイプは、優しくて、気配りが出来て、夢を持って生きている子……だな」


優しくて、気配りが出来て、夢を持って生きている子……

それが颯真君の好きな女子のタイプ。


……騒ぎは収まり、場はなごやかになった。

そんな中、私は『ある決意』をしていたのである。

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