水の泡

美池蘭十郎

第1話

 その日、渋江恭介は朝刊を見て血の気が失せるような恐怖を感じた。新聞をめくり、目をやると、社会面の小さな記事に、知り合いの男が――東尋坊から飛び降り自殺した――と、報じられていた。恭介は、それに衝撃を受けていた。

 知り合いの男は、不動産会社の有能な社員だった。男は、恭介と会ったときは、いつも明るく振る舞い、よく冗談を口にした。先月、会ったときには、将来の夢を語っていたにもかかわらず、十日ほど前から行方不明になり――事件に巻き込まれたのではないか……、愛人と逃避行しているのではないか――と、周辺ではささやかれていた。

 記事によると、遺書が見つかったため、捜査当局は事件性なしと判断した――と、書かれていた。恭介の勤める信託銀行と、男の勤めていた不動産会社とは、長年の取引があったため、何かと情報が入ってきた。男のライバルたちが吹聴していた――愛人云々の話も、デマだと分かった。

 恭介は、明るくて、有能で――と、上司や取引先から高く評価され、人当たりのいい男が、東尋坊の二十五mもある断崖から、身を躍らせて自分の命を捨てるまでに、どんな心の移ろいがあったのかと想像した。彼は――人の心の深奥にある闇の深さに、身震いした。

 自殺した男は、不動産会社では販売部の課長職を務め、分譲マンションのマーケティング、広告戦略、営業手法、モデル・ルームのレイアウトに至るまで、若手社員に指導し、陣頭指揮に立って、驚くほどの利益を会社にもたらしていた。

「彼を失ったことが、わが社にとって最大の損失です」との社長の弔辞は、真実味をもって、葬儀会場に参列する関係者には、受け止められていた。

 人は誰でも、一寸先が分からず、闇の中を手探りしながら歩いている。自然災害も、重病を患うかどうかも、予測不能のままに、明日への一縷の望みをよりどころにして生きて行く。望みの命綱が、いかに細くて頼りないものでも、それ以外に手立てはなかった。

 恭介は、一つの国の内幕を洞察するには――いかに国民が裕福に暮らしているか、人々の安全が守られ安心して過ごせるか、健康に恵まれて長寿なのか――が、重要な指標になると考えていた。恭介が調べたところ、日本はいずれの点でも他国に比較すると、優れていた。

 しかしながら、日本国民に「あなたは今、幸せですか?」と、尋ねたとしても「私は幸せです。あらゆる面で恵まれているので、満足しています」と、素直に答えるものは、僅かしか存在しなかった。それは、各種のアンケート結果に反映されていて、容易に確認できた。良く言うと――現状に満足しない向上心――ともとれるが、悪く言うと――ひねくれていて、小賢しい――反応にも、思えた。

 学生時代は、受験に関係のない副教科の勉強にも力を入れ、本を多読していた恭介は、戦略ミスで志望校に入学できず、私立の中堅クラスの大学を卒業していた。インテリが多い行内では、随分と見劣りしていた。失点を回復するため、入行後の恭介は資格試験の勉強に力を入れて取り組んできた。

 恭介は、信託銀行に入社して二年目になり、不動産鑑定部の主任に就任していた。宅建は大学在学中に合格し、一年目に不動産鑑定士の資格も取得し、現在は税理士資格にチャレンジしていた。銀行内で評価され、周辺にも恵まれた恭介は、着々と仕事に必要な知識やスキルを身につけていた。

 この年、つまり……、一九八五年九月の下旬の新聞の紙面には――ニューヨークのプラザホテルに先進国五カ国(日本・アメリカ・イギリス・西ドイツ・フランス=G5)の大蔵大臣(アメリカは財務長官)と中央銀行総裁が集まり、会議の席上で開催主要国はドル高を是正することで一致した――と報じられていた。合意は――基軸通貨であるドルに対して、参加各国の通貨を一律十~十二%幅で切り上げ、そのための方法として、参加各国は外国為替市場で協調介入を行う――との方向を示した。会議には、各国の大臣が出席し、日本の竹下登蔵相も出ていた。

 水面下では、会議は形式的なものなので――ドル高の是正は、実務者レベルの協議ですでに決定している――と、ささやかれていた。プラザ合意の狙いは、アメリカがドル安によって輸出競争力を高め、貿易赤字を減らす目論見にあるのは明白だった。

 日銀は国の内外の圧力を受けて、長期にわたる金融緩和を余儀なくされた。当然ながら、日本経済への影響が懸念される展開となった。

 恭介は、大学在学中に、アメリカの社会学者エズラ・ヴォ―ゲルの著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(一九七九)を読み、日本がいかにして戦後、経済大国になったのか――を改めて、思い出していた。ヴォ―ゲルは、本の中で日本的な経営や通産省や大蔵省の優秀さが高度経済成長をもたらしたと分析していた。

 今も、自宅のデスクの上には、三冊の本が置いてあった。ヒューム『経済論集』(一七五二)、アダム・スミス『国富論』(一七七六)、デヴィッド・リカード『経済学および課税の原理』(一八一七)で、いずれも経済学の古典的名著とされていた。

 恭介は、経済学の入門書に触れるだけではなく、これらの古典的名著を繰り返し読んで、経済の現状を深く理解しようと考えていた。この三冊では、資本主義社会での投下労働価値説を唱えるリカードの説に共鳴していた。

 彼は、所用で東京に出かけたときに、歓楽街に出向くと片言の日本語で話す、フィリピン人女性たちと出くわした。歌舞伎町周辺を歩いていると、何度か「お兄さん、ちょっと、寄って行かない?」と、洋服の袖を引かれた。

 日本は戦後四〇年間で、目覚ましい復興を遂げていて、十分に豊かな国になっていた。週刊誌を読むと『ジャパゆきさん』と題する記事で――日本経済が大きく伸長し、他国との格差が大幅に拡大したため、日本で働くのに憧れた東南アジアの出稼ぎ労働の女性たちが、押し寄せてきている――と、書かれていた。

 記事の内容を詳しく読むと、不法滞在、暴力団の介入による売春強要、給与の不払い――のひどい実態が記されていた。ジャパゆきさんたちの中には、日本に来ると短期間で豊かになれる幻想を抱きながら、騙されて、傷ついて帰国する者も大勢いた。

 経済大国日本――栄光を意味するこの言葉が、いつの間にか独り歩きし、日本人に誇りを与えただけではなく、鼻持ちならない傲慢な存在に変えてもいた。恭介は世紀末的な世相を見て、何か大きな変化のうねりに飲み込まれそうな気がしていた。

 一九八六年十二月に不動産会社U社の若手社員と合同で忘年会を催した。参加者はU社の亀山、茶谷、野林と、銀行からは恭介と如月が出席した。居酒屋の店内では有線放送で、おニャン子クラブのヒット曲『セーラー服を脱がさないで』が流されていた。

「新田恵利ちゃん、おニャン子クラブ……、脱退しちゃったな」

 茶谷がしみじみと呟くと、亀山は「残念だな……」と、同調し

「でも、僕は……、今年新メンバーになった会員番号四〇番の生稲晃子ちゃんがいいな」と明かし、反応を確認するように、そこにいた全員の顔を見た。

 恭介は平日、午後五時から一時間放送されている『夕やけニャンニャン』を見たことがなく、おニャン子クラブのメンバーの実情もよく知らなかった。テレビではニュース番組だけを見て、音楽はクラシックが好きで、本は純文学などを読んでいた。社交性を高めるには、テレビ番組や週刊誌による情報収集は、必須と言っても良かった。

 マス・メディアでは、従来と異なる価値観や感性を持ち、行動する若者たちを――新人類――と呼んでいた。恭介は、時代のムードに乗り遅れるのを恐れ、旧人類から新人類への脱皮を図る計画を立てた。

 恭介の自己改造計画では、一年で人並みに世間的な知識を身に着け、歓楽街にも繰り出して、大人の男らしく遊び、人としても幅を広げようと考えていた。それは、恭介の胸の内では修行のように感じていた。U社の二人は、恭介の友人であるとともに先生でもあった。

「タケちゃんマン、とうとう、やっちゃったねえ」

「ああ、大変な事をしでかしたな。タケちゃん、どうなるのかなあ」

 ビートたけしと同じ、明治大学の機械工学科出身――の不動産会社の社員、茶谷が言うと、彼の同僚の亀山も同調した。

「何かあったのですか?」恭介は、何の話なのか分からずに尋ねた。

「ビートたけしのフライデー襲撃事件の話だよ」

 ビートたけし率いるたけし軍団の十二人が、写真週刊誌『フライデー』の編集部を襲撃した事件だ。スキャンダルを暴こうとした記者が、ビートたけしの交際相手の女性に怪我をさせたのが発端で、思わぬ方向に展開していた。

 茶谷は事件に衝撃を受けていたが、酒席に合わない重苦しい話題になりそうなので、恭介は話題を変えた。

「他に何か、面白い話はないですか?」

「そうだなあ。僕が気になるのは、今年の有馬記念ですね」

「まだ、出走馬が確定していないだろ?」

「早く決まれば、良いのにな」

「僕は、ヘビー級のチャンピオンのマイク・タイソンが、どこまで勝ち進むか興味津々ですね」

 一九八六年十一月に、タイソンはトレバー・バービックに二RTKO勝利し、WBC世界ヘビー級王座を獲得していた。しかも、テレビのニュースでは、史上最年少の二十歳での世界ヘビー級チャンピオンとして紹介され、並々ならぬ資質が称賛されていた。

 タイソンは、圧倒的なスピードとテクニックで相手選手をKOしていた。恭介は彼の野性的な勘の良さと、身のこなし、精悍な顔立ちに自分にないものを見つけて憧れていた。

 午後十時三十分を過ぎて野林が退席すると、かなり酔いが回っていた。徐々に暗い話題になり、亀山がU社の現状について不満をぶちまけた。

 亀山は、U社の現状を――有能な課長が自殺して以来、指針を失って、糸の切れた凧のようにふらふらと迷走している――と、明かした。このままでは、将来が危ぶまれると嘆息していた。

       ※

 人類の歴史の中で、大きな紛争がなく、人々が自分の幸福だけを追い求められる時代が存在したのか? 愚直な疑問でありながら、そういう時代を探し出すのは、恭介には不可能に思えていた。

 一九八七年の正月、中国では北京の天安門広場で学生数百人がデモを行う様子が、テレビで報道されていた。学生たちは民主化を求めて、十万人ものデモ隊を組織して中国政府に対抗していたが、軍隊に鎮圧され大勢の死傷者を出す結果になった。

 恭介が考えていたのは、騒動の大きさや鎮圧されたデモ隊の痛みと出血の事態ではなかった。学生たちの熱望に触れたので、恭介は自分の現状に引き戻されていた。彼らに比べれば、あまりにも恵まれた環境で学生生活を送り、日々を楽しんでいた。

 行内の一回り上の上司は、昼食休憩中に「学生運動を思い出すな。今の日本の学生にはポリシーも何もない」「日本人はおとなしくなった」等と語り合っていた。しかし、対岸の火事を見る人と同じく、どこか日和見的に聞こえていた。民主化――が、恭介にはそれが当然の権利であり、人の権利を侵害する国があって、学生たちが暴動を起こしているのが奇異なものに見えていた。

 一九八七年三月、美術品市場で日本の安田火災海上保険がゴッホの『ひまわり』をオークションで、二四七五万ポンド(五十八億円内外)で競り落とした出来事が、注目を集めた。銀行勤務を続けていると、札束が紙切れに見え始め、商品として扱うようになる。だが、一幅の絵画が、数十億円で取引されているのに行員たちも驚いていた。彼らは、桁違いの取引に耳目を傾けると、保険会社が……ではなく、日本の底力の凄さを喜んで見せた。

 一九八七年四月、アメリカのメジャー・リーグで活躍中のボブ・ホーナー選手が来日し、ヤクルトスワローズへの入団が内定した――と報じられた。年俸三億円の契約が、注目され話題になった。ゴールデン・ウイークの阪神戦では、五日、六日とホームランを放って、メジャーリーガーの貫録を見せつけていた。ホーナーは、デビュー四試合で六本塁打を放ち、赤鬼の異名で呼ばれ、黒船来航とも恐れられた。

 日本では金融市場、不動産市場が活況を呈するだけではなく、消費市場でも、エンタメ産業などの余暇市場も堅調に伸びていた。

 ところが、一九八七年十月十九日の月曜日、香港市場を発端とする株価の大暴落が始まり、アメリカやヨーロッパにも波及し、世界恐慌を引き起こした。エコノミストは――ブラック・マンデー――と名付け、経緯を見守っていた。当然ながら、日本経済へのダメージが懸念され始めた。

 恭介は、激動する時代の変化が、ドラマティックに感じられたので、新聞購読やテレビのニュース番組を見るのが楽しみになった。同僚の若手行員は、通勤時間を利用して、新聞、雑誌に目を通し、熱心に情報収集していた。一方で、休み時間になると、漫画雑誌の『週刊少年ジャンプ』が、たびたび話題になった。取引先でも同様で、U社の亀山は、落ち着いていて頼りになる自社の常務を「『北斗の拳』のトキのような人だ」とか、乱暴者で他人の話を聞かない部長を「わが社のラオウだ」と、表現した。

 U社では、東尋坊に優秀な社員が身を投げてから、亀山や茶谷は社運の低迷を予感していたにもかかわらず、同社の業績は驚くほど伸長し、彼らの不安が杞憂に過ぎなかったのが明らかになった。

 不動産市場が活況を呈する中で、地主や住民を恫喝して土地を買い漁り、転売して巨利をむさぼる地上げ屋が台頭して、社会問題化していた。それにもかかわらず、不動産会社の多くは――豊饒な海に、多くの魚がいる漁場で、釣り糸を垂れる漁師のように、魚を逃すまいと――、顧客の求めに応じて、物件を潤沢に供給するべく、地上げ屋を使って土地を買い漁り続けていた。

 次第に、不動産を投機対象として、安く買った土地を高く転売する――土地転がし――が目立ち始めた。深い悦びが日本国中を覆うと、すべての日本人を粉々に粉砕し、物欲の虜にしていた。

 好景気が続く中で、恭介は言い知れぬ違和感にとらわれていた。行内では――日本では地価は上昇し続ける――土地神話の信望者が存在していたが、恭介には、実体を乖離した地価の高騰が、いつまでも続くとは考えられなかった。

 一九八七年から、地価の高騰が懸念される中で、法改正が行われ監視区域制度による事前届出制が実施された。これにより、都道府県が規則で定める面積以上の土地取引には、届出書の提出が義務付けられた。

 恭介は、東京の本店と周辺市場の視察のために研修旅行に参加した。関西よりも活況を呈する関東の現状を見るのが目的だった。新幹線の中では、村上春樹の小説『ノルウェイの森』と、キングスレイ・ウォードの『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』を読んだ。著書の中で、キングスレイ・ウォードは息子への二通目の手紙で――事業はこわれやすい花瓶のようなもので、無傷であれば美しいが、割れるともとの形を取り戻すことがやたらに難しい――と、記しているのが目を引いた。

 東京では、高級マンションの代名詞とされる渋谷区広尾にある『広尾ガーデンヒルズ』を見学した。行内では――景気はさらに浮揚し、億ションが当たり前の時代が来る――と、主張する論者が散見された。広尾ガーデンヒルズは、一九八七年二月に全体が完成されたばかりで、総戸数一一八一戸の大規模マンションだ。五つの区画は、イースト・ヒル、サウス・ヒル、センター・ヒル、ウエスト・ヒル、ノース・ヒルに分かれており、他の棟の中心に位置するセンター・ヒルには、一階にスーパーマーケット、銀行、レストラン、カフェなどが配置され、共用部分も豪華な造作が施されていた。

 日本では好況に背中を押されて、質素倹約や少欲知足よりも、奢侈三昧が美徳になりつつあるかに見えていた。そうした中で、世界に衝撃を与える出来事が注目された。

 一九八八年正月、ソビエト連邦のゴルバチョフ書記長がペレストロイカの開始を宣言した。ゴルバチョフは民主化の方向性を示し、従来の計画経済体制を絶対視する方針から、市場経済を導入する動きへと、明確な考えを示していた。ペレストロイカに合わせて、情報公開を進めるグラスノスチや、歴史の見直しなどの全面的な改革路線をスタートさせたため、西側諸国でも好意的に受け止めていた。

――何かの大きなうねりが起こり、驚天動地の変化につながるのではないか――と、恭介は思っていた。人は歴史的変化のただなかにあっても、大きな違いを肌で感じもせず、安穏と暮らしているが……、今起こりつつあるものは、明らかにそれとは異質な激動だ――と、感じないではいられなかった。

 一方、日本国内では、実体を乖離した好景気をエコノミストは――バブル景気――の言葉で表現し、マスコミでも戦後最大の好況を――バブル――と呼称し始めた。日本人の多くは、経済大国の日本に自信を持ち、まだまだ、好況が続き豊かになれるものと信じていた。

 日本国民は時間を忘れて働くが、それは常に金を貯めて豊かになる状態を欲していた。彼らは取引に強い関心を持ち、事業を行うのに専心した。それでいて、日々の愉楽に夢中になり、異性やゲームや酒を愛した。楽しみは休日のためにとっておき、平日は自分の時間を犠牲にして、蓄財のために働いていた。

 夜になり仕事が終わると、酒を飲みに集まるが、商談や親睦などのビジネスがらみの集まりなので、酔っていても心のどこかが冷めていた。若手の男性サラリーマンは、年長者に抗えずにため込んだ鬱憤をピンク・サロンやのぞき部屋で晴らし、年輩の上司たちは酒の席でも自分の不出来を年若い部下のせいだと公言して憚らなかった。

 この現象は我が国に限らず、先進国の都会のサラリーマンは同様で、それが現代の特徴と考えてもいい風に――、思えなくもない。だが、この国を支配するムードは、他のどこの国よりも熱狂的だ――と、恭介は感じ続けていた。

 今や、人々は時代の持つ熱狂的ムードが永遠に続き、夢見心地の幸いが消えてなくなりはしないと、確信しているかの様相だ。恭介はこの現象が、何かしら由々しき事態への導線にならないかと戦慄を感じつつも、享楽の毒の酒を呷りたい――、複雑な気分だった。掻きむしると心地いいが、傷跡を残し、化膿すると熱を帯びる変化であっても、不具合を幼児には予測できないのと、同じものではないかと危惧した。

 報道では、テーマ・パークはどこも満員で、入場口には長蛇の列ができていた。園内に入ると、人気のアトラクションの順番待ちに、一時間以上待たされるのは、稀な事態ではなかった。新聞によると、一九八八年四月に、開園五周年の東京ディズニーランドでは、同年六月に五五五五万五五五五人の入園者が来園した――と、報じられていた。

 新聞には、小説やテレビ・ドラマで扱う内容よりも、ドラマティックな出来事を取り上げていた。テレビのニュース番組でも同様で、久米宏が司会を担当する『ニュースステーション』は、二〇%前後の高視聴率の人気番組となっていた。しかし、新聞やテレビで取り上げられるニュースの大半は、美しい物語などではなく、生々しい事件や事故の人間模様が目立って多かった。

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