第四話 アントン・カスケードの愚行 ①
「ははは、ようやくあのデカ女を追い出せて清々した!」
アントン・カスケードこと僕は、自室の高級ソファに深々と身を預けながら高らかに笑った。
「おめでとうございます、アントンさま。本当に今まであの姉の態度にご苦労されていたでしょう」
僕の隣には新たな婚約者であるミーシャが座っている。
「まったく……王家のしきたりとはいえ、あんな女と婚約していたことは僕の人生の汚点だ。ミーシャ、本当に君が防病魔法を発現してくれてよかった」
僕はミーシャの身体を引き寄せると、自分の胸の中に身体ごと埋めさせた。
それでもミーシャはまったく拒むようなことはしない。
うふふ、と嬉しそうに笑いながら僕に笑みを向けてくる。
本当にアメリアとは大違いだ。
あのアメリアは少しばかり特別な魔法で病気を予防していただけのくせに、僕がどれだけ誘おうともまったく乗ってこなかった。
――私は〈防国姫〉として国と国民を守る使命があります。
などと僕よりも民草程度の存在を守ることに専念するとほざいたのだ。
〈防国姫〉という存在も民草から税を徴収するための口実にすぎず、その程度もわかっていないのに僕の誘いを断るなど不快以外の何物でもなかった。
それでも半年前に先代の〈防国姫〉だった母上が事故で亡くなると、防病魔法を発現させていたアリシが次の〈防国姫〉として選ばれ、そして僕はアメリアとの婚約を国王である父上から申しつけられた。
しかし、そんな父上も風呂上がりに心臓発作で突然に他界した。
そして僕がこのカスケード王国の若き国王となったのである。
やがて僕を見下ろすほどの身長のアメリアに対しても、この国の未来を国王として仕方なく婚約に応じた。
ところがアメリアは僕との身分の差があるにもかかわらず、僕との営みよりも〈防国姫〉としての仕事を最優先として王宮内で活動するようになった。
王宮内の蔵書室や医療施設に足しげく通ったり、王宮を抜け出して市井の病院に出かけたりと、婚約者であり国王である僕を何度となく馬鹿にするような行動を取ったのだ。
今思い出しても本当に腹が立つ。
だが、そんな日々の行動以上に僕がアメリアを嫌っていたのはあの身長の高さだった。
女のくせに男の僕よりも頭2つ分は背が高く、アメリアと話すときには常に僕はアメリアに見下ろされて僕が見上げるということをしなくてはならかったのだ。
こんな我慢がずっと続くのか。
僕はあまりのストレスに自慢の金髪が禿げそうになるのを心配していると、そこにアメリアの妹であるミーシャが僕に折り入って話があると王宮内にやってきた。
婚約したときにアメリアを始めとしたフィンドラル家の親戚縁者をすべて王宮内に招いていたのと、僕と同じ背丈で僕の好みの顔だったミーシャの存在は前もって知っていた。
そして最初は暇なこともあって軽い気持ちで会ってみると、ミーシャは開口一番に「私にもお姉さまと同じく防病魔法が発現しました」と申し出てきたのだ。
あのときの衝撃は今でも忘れない。
その後、僕はすぐさまミーシャを結界部屋と連れて行った。
もちろん、ミーシャの言っていることが真実かどうか確かめるためだ。
念のため王宮魔導士を数人引き連れ、結界部屋に置かれている魔力水晶石の前にミーシャを立たせると、ミーシャは魔力水晶石に両手をかざして何やら呪文を唱え始めた。
するとどうだろう。
ミーシャの呪文に魔力水晶石が呼応し、全体が緑色に輝き始めたのだ。
これには王宮魔導士たちも驚き、ミーシャの力は本物だという判断が下された。
だとしたらアメリアを〈防国姫〉にしている理由はなくなる。
王宮魔導士たちはミーシャをアメリアの補佐にしたらどうかと提案したが、そんなものは当然の如く僕は却下した。
あのときの僕はアメリアよりもミーシャを選んだ。
王宮騎士団並みの背丈があったアメリアよりも、僕と同じぐらいの背丈のミーシャのほうが断然いい。
ミーシャならば僕と横に並んでも身長が同じぐらいなので見栄えがいいのだから。
そんなことを考えていると、ミーシャはさらに強く僕に抱き着いてきた。
「アントンさま、これから私は正式な〈防国姫〉として国を守って見せます。ですので、これから末永く私だけを愛してくださいね」
「もちろんだとも。きっと君はアメリアよりも優れた〈防国姫〉になる。この僕がそう思っているのだからな」
「本当ですか、アントンさま。そう言いながらも、実はまだ姉に未練があるのでは?」
「おいおい、そんなものあるわけがないだろう。今の僕はアメリアのことなんてどうでもいい。そればかりか、少しでもあんな女と婚約関係を結んでいたことが腹立たしいぐらいだ。だから、あの女がこの王宮ばかりか王都にもいられないぐらいのことをした。この王都からいなくなれば僕はすっきりするからな」
僕は得意気な顔でアメリアにしたことを教えると、ミーシャは「何てひどい御方」と言葉とは裏腹に嬉しそうに微笑んだ。
おそらく、ミーシャも幼少の頃からあのアメリアと比べられて人知れず苦汁を飲まされていたのだろう。
「まあ、あんな女のことはさておき……ミーシャ、今は君が〈防国姫〉だ。そしてこれから僕の妻として一緒に人生を歩んでくれよ」
そう言って僕は愛の証とばかりにミーシャへ熱烈なキスをすると、ミーシャは僕の首に両手を回して力強く応えてくれた。
そうして僕とミーシャは2人だけの愛を自室で育んだ。
アメリアの存在を綺麗さっぱりと忘れるほどいつまでも――。
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