第17話 事情聴取
「まぁ、適当に座ってくれるかのぉ」
和室の座敷に案内された。トクラさんの前に4人が緊張気味に並んで座る。
すごい大きな部屋でトクラさんがランカーだということが分かったということもある。
「ふぉっふぉっ。 まぁ、固くならずにゆるりとしなさい」
「すみません! お気遣いありがとうございます!」
俺たちを代表してガントが礼を言った。
「それで、MPKされそうになっておった時は、どんな状況だったんじゃ?」
「それが、夢中で4人でレベル上げしてて、ドンドン奥に進んでいってたと思います。気付いたら、周りにモンスターが居なくなっていて。大群に巻き込まれたって感じです」
「そうだったんじゃなぁ。改めて、無事で何よりじゃ。良く耐えたのぉ。状況を見るに、狙われておったようじゃのう。フーマが初心者装備だったから、獲物にされたのかものぉ」
トクラさんはそう宙を見ながら話している。
状況的に考えてそう考えるのが妥当な所なのかもしれない。
あの狩場で初期装備はあまり良くなかったのかもしれない。俺はそこまで頭が回っていなかった。
「ってことは、おれのせいで……」
「そう悲観するでない。お主が悪い訳ではなかろう。悪いのはあのMPKerじゃ」
俺が思ったことを否定するように話を被せてくれたトクラさん。この人はホントにいい人なんだな。
「そうだぞ! 誰もフーマのせいだなんて思ってねぇよ!」
「そうよ! またゲームでも辛気臭い顔してんじゃないわよ!」
「フーマは。悪くない。」
三人とも……ありがたいな。
こんな情けない俺を励ましてくれて。いつもコイツらには励まされてばっかりだ。
有難いよ。
「いい仲間を持っておるのぉ。羨ましいわい」
「じいさんには、私がいるじゃないかい」
奥からお茶を持ってきたのはテンカさんだった。着崩した着物が絶妙な所を隠していて、ゲームだからその辺は大丈夫なんだろうけど。
なんだか、目のやり場に困る姿だった。
「テンカは仲間ではない。家族じゃからのぉ。ちと違うではないか」
「なんだい? 寂しいねぇ」
トクラさんに対してこんな感じの言い方をできるのがすごいなとただただ、感心してしまう。実はリアルでは奥さんとかなんだろうか。
ゲームだからそれだって有り得るだろう。見た目はどうにだってできるんだから。
「ゲーム内では同じクランメンバーじゃから、仲間でも間違いではないけどのぉ」
白い髭を撫でながらトクラさんが呟いた。
でも、自分の中で何か違うところがあるんだろうな。そういうのは他人では分からないところではある。
「MPKerの話は、もういいじゃないのさ。それより、フーマって言ったかい?」
急にテンカさんが話を振ってきた。
その妖艶な姿と言い綺麗な顔といい、緊張してしまう。
「あっ、はい!」
「そんなに固くならなくてもいいじゃないのさ。別に取って食ったりしないよ」
また豪快に大きな口を開いてハッハッハと笑いながら肩を叩いてくる。
なんだか、フランクなのはいいんだけど、距離感と目のやり場に困るんだよな。
「あんた、見たところ武術士のようだけど、リアルでも何かやっているのかい?」
「はい。空手を小学校1年の時からやっています」
そういうと目を細めて俺の体を下から舐めまわすように眺めた。
「おっと、すまないね。リアルの詮索はマナー違反だったね」
「あっ、いえ、大丈夫です」
「歩き方を見て、もしかしてと思ってね。あんた。裏の道場でうちと手合わせしてみないかい?」
後ろを指さして挑戦的な笑みを浮かべてくる。
テンカさんは好戦的な人なんだな。
でも、ちょつとその提案にワクワクしている自分がいるが。
「テンカさんとですか?」
ちょっとこんな綺麗な人と戦えるだろうかと逡巡してしまった。
「なんだい? 女子供は殴れないとか言うんじゃないだろうねぇ」
胸を張って腰に手を置き、上から俺のことを見下ろしていた。
できることなら女の人を殴るようなことはしたくない。でも、テンカさんはそういう感じではない。
女の人と見るより、武術家として見たら戦うのは楽しそうだ。
少し手が震えてくる。
これは武者震いだ。
「相手によりますよ。テンカさんには手加減とかできなさそうです」
「当たり前さね、手加減なんてしたらデスペナ食らわすよ! さっ、こっちに来な!」
俺が了承したと見るやいなや、身を翻して道場の入口へと向かっていった。
テンカさんを先頭におれ達は道場へ向かった。
あの人と戦ったら、今の俺に足りない何かが見つかるかもしれない。
こんな機会をくれたトクラさん、テンカさんには感謝しかないな。
俺はいつも一人で練習していた。
組手となると分け合って雑念が入ってしまうから。
それが原因で負け続けていることは自分でもわかってるけど、それはどうしていいのかおられの中では分からないんだ。
それが、テンカさんとの戦いで光を見出すことができれば嬉しい。
試合前に胸が踊る感覚になるのはここ最近なかったことだった。
久しぶりの感覚に、気持ちが昂っていた。
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