第20話 新しい世界
「新しい世界? わざわざ見せたこれと私がどうつながるの?」
「焦らないでください。あなたが混乱するのも分かります。アンドロイドは決まった部品を組み合わせて作っている。そう先ほどの工場のようにです。なので、成長というものがありません。生まれたままの姿で摩耗して行き、やがて動かなくなる。そしてそれはほとんどのアンドロイドにとって同時に訪れます」
それは考えたことがなかった話だ。自分たちがどうなるかなんて想像する必要もなかった。自分が動かなくなるのは分かる。しかし、その先の世界の事、周りの事など気にする必要もなかった。
「動かなくなったらどうするの? それが今まで一度もなかったわけじゃないのでしょう?」
もしかしたら、そんなことも起きていないほど新しい時代という可能性もあったけれど、お姫様はおそらく少女より長い時間を稼働し続けている。そしてなにか思うところがあるからこういうことをしているのだとなんとなく思った。
「その時はリセットを行います。我々はオールリセットと呼んでいます。予備の個体はすでに作成済みですので、街をキレイに立て直して彼らを入れ替えておしまいです。そもそもですが、小さなリセット自体は定期的に行っています。アンドロイドたちの限界の前に建物や関係がおかしくなり革命などが起こりそうなときなどにはリセットというものは必要なのです」
お姉さんたちが企んでいるのはきっと革命に分類させそうだ。つまり、お姫様はリセットを行うのだろう。そのことについて深く聞きたかったがお姫様は話を先へと勧めたいらしく、その隙がなかった。
「しかし、それでは世界は何も変わりはしないのです。そのために必要がなのがここにいる彼女たちです。彼女たちは成長します。そこの変化が世界に与える影響は非常に大きなものになるでしょう。それはより人間社会へ近づくために必要な一歩なのです。しかし、それの実現のためにはまだ技術が足りません。そこであなたの力が必要なのですよ」
「私になにが出来るの?」
「その意識覚醒のデータが大量に必要なのです。我々管理者三人の意識覚醒データだけではパターンが足りないのです」
「そのためにわざわざ呼んだって言うの?」
「わざわざ呼んだと言いますが、他に事例がない以上、この方法しかないのです。あなたは自分が思っている以上に、希少な個体なのです。そのことを自覚いただければ自然と協力する気になると思いますよ」
お姫様は何かを確信したかのような言い方しかしない。まるで世界を支配しているかのような。そんな物言い。それが少女は気になっていた。まるで神のようだなと思うし、実際近いことを執り行っているのだろう。それも随分と長い時間をだ。となれば、その認識もあながち間違っていないのだろう。
「次のリセットはいつなの?」
「決めていませんが、もうまもなくなのは違いないです。住民たちが怪しい動きを始めています。徐々にひとつの場所に集まり始めているのです。それは革命の前兆だとこれまでのことから理解しています。なのでもうすぐです。ただ、今回のリセットはオールリセットとは違って記憶のリセットだけにする予定です。まだ動ける個体も多いですし、兵器に壊された個体も少ないので多少影響は出ますがまだ範囲内です。全てを交換し、街まで修復するのには資源を使いすぎます。先に進むのにどれくらいの月日が必要なのかも分かっていないので。仕方のないことです」
「探偵さんは?」
「彼にもリセットが必要なので戻ってもらいます。しかしあなたと連れてきた実績がある個体ですので特別な処置が必要なのです。オールリセットすらも逃れ次の時代へ行ってもらうための処置です。まあ、記憶はリセットされますが、そこは大した問題ではないでしょう。私にも。もちろんあなたにもです」
「それを決めるのはお姫様ではないと思うのだけれど? そもそも私には理解できない」
「なにがでしょう?」
「お姫様が維持しようとしている人間社会。それを維持しなくてはいけない理由よ」
お姫様は少しだけ顔をしかめる。否定されたことが気に食わなかったみたいに。でも説明はしてくれるらしい。いや説明しなければならないのだろう。それを理解できない個体を許しておけるほどこの世界の許容量が大きくないように見えた。
まるで鳥籠の中。箱庭。人間たちの夢の残響。そんな言葉たちがお似合いな世界。
「それは創造主が望んだ世界だからです。そもそも私達が造られた意味でもあります。創造していただいたことを忘れて使えない道具に成り下がった我々に存在する価値などありはしません」
「使う人間がいなくなった道具にもとから存在する価値なんてないと思うのだけれど?」
その少女の言葉はお姫様の触れてはいけない部分に触れてしまった。それを理解する前に少女は地面に転がっていた。
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