創造と破壊の双子の女神は、結婚を前提にスローライフを謳歌したい!  ~双子の最強ポンコツ女神のハートフル蹂躙冒険譚~

杏鈴よつば

第1部

―プロローグ― 『幸せ』の為の創造と破壊

 夜闇を美しく彩るのは、まるで透明感溢れるレッドエメラルドのように煌めく、幾千万もの光の星々――


 そして、見渡す限りの夜空一面を幾層にも渡って覆う光の星々に照らし出された地上もまた、宛ら日に翳した桜色のハーバリウムの如く美しく彩られていた。


 そんな幻想的な光景を創り出している光の星々は、まるで天と地とを光が結んでいるかのような残像を残しつつ、地上へと降り注ぎ続ける。


 それは宛ら、神罰を下すべく創造された幾千万もの神の光杖が無慈悲に振り翳されたかの如く、まさに圧巻の光景であった。


 想像を絶する程の魔素が圧縮されることによって生み出された光の星々たちは、地上に衝突すると同時に破壊の本流を巻き散らし、周囲に存在するもの全てを跡形も無く消し飛ばす。


 程なくして、見渡す限りの地上は全て奈落と化した――




 そんな光景を遥か上空から眺める少女が二柱。


 黄金色に近いプラチナブロンドを夜空に靡かせる少女と、その少女に抱きかかえられた乳白色に近いプラチナブロンドの少女――


 二柱が身に着けるネグリジェのような純白のキャミソールワンピースやヘッドドレスは星々に照らし出されて神秘的に煌めき、優雅に漂うシースルーの生地は夜空に透き通るような透明感を添える。


 そして周囲に漂う三対六枚の美しい光翼と頭上で浮遊する二重の光輪……何より、浮世離れした愛らしい顔立ちを持つその少女たちの姿を例えるならば、宛ら双子の精霊姫か――はたまた最高位の双女神のようでもある。


 そんな少女たちはというと――


「……だから、わたしたちは何回も……やめてねって言ったのに――」

「ねっ。やっぱり話が通じない相手ってのは、結局なに言ってもダメなんだね」

「……ねー……」


 ――眼下に広がる『つい先程までとある国の都が広がっていた場所』を見降ろしながら、仲睦まじげに会話を弾ませていた。

 しかし、眼下に広がる光景を見つめるその眼には、少なからず哀れみや怒りといった感情が滲み出している。




 そう、少女たちはこの『国』に対して何度も忠告してきたのだ。

 何度も何度も、「やめてほしい」という意志を伝えた。

 それでもやめてくれなかった。


 だったらもう、滅ぼすしかない。

 「やめてほしい」と伝えても尚やめてくれないのであれば、少女たちは過去の経験に基づいて、それら全てを敵と見なす。

 そして、『守るべき存在』を救うために、敵と見なした全てを殲滅する――




 ◇◇◇




 少女たちは非常に優しい心の持ち主だ。

 少女たちと敵対などせず、普通に接する機会があった者たちであれば、誰しもが皆そのような印象を抱くことだろう。


 貧富や身分の差を一切気にせず、誰に対しても分け隔てなく接する。

 種族差別というものと一切縁がない。

 困っている生き物を見つければ、それが『自分たちに危害を加えない存在』であれば積極的に手を差し伸べる。

 一部の例外的理由を除いて、相手に何かされない限り自分たちからは決して手を出さない。


 ただ、少し……ほんの少しだけ価値観や、それに伴うやる事なす事が浮世離れしていると感じる者も少なからずいるだろうが、それを差し引いたとしても、少女たちは本当に優しい心の持ち主なのだ。




 しかし、そんな心優しい少女たちの逆鱗に触れる行為が存在する。

 それは――


『「やめてほしい」と伝えても尚危害を加えてくるもの』

『世界樹の大森林を脅かすもの』

『大切にしている存在家族に対して危害を及ぼすもの』


 ――という三つの行為だ。

 あえて一つに纏めるならば、『少女たちの幸せの邪魔をするもの』――と言い換えることもできるだろう。


 仮にそのいずれかを犯し、少女たちの逆鱗に触れてしまったのならば、その先に待つのは蹂躙と殲滅だ。


 そして、今しがた滅んでしまったこの『国』は、少女たちの逆鱗に触れた。

 触れてしまったのだから、滅ぼされたとて仕方が無い。




 ――いや、それ以前に、この『国』が存在していた場所自体、もともとは少女たちの所有する大切な土地だったのだ。


 少女たちが少しばかり睡眠を楽しんでいる間に、土地の外の者が勝手に開拓を行い、勝手に『国』を築き、勝手に土地の所有権を主張した。


 それでも優しい少女たちは、これ以上の害を成さないのであればと、その愚行にすら目を瞑ることにしたのだが――


 そんなことなど露知らず、せっかくの忠告すらも無下にして、『国』は尚も少女たちの幸せを害する行為を行った。


 これには流石の少女たちも、こう思わずにはいられなかった。


 『わたしたちの世界』の中に、こんな『国』いらない――

 私たちの大切な場所を返してもらおう――




 ◇◇◇




 そんなこんなで今、少女たちの眼下に広がっているのは、夜闇を美しく彩る幾千万もの光の星々ですら、決して照らし出すことが出来ない程に深い一面の奈落――


 少女たちの予定では、該当する全てを一度破壊し尽くしてから、この場所を本来あるべき姿に創造し直すつもりだった。

 しかし、どうやらそれが達成されるのは、もう少し先にずれ込むことになりそうだ。

 なぜなら――


「……おねえ…ちゃん……わたし……もう――」

「よく頑張って起きてたねっ。えらいえらいっ♪」

「……えへへ……」


 ――基本的に創造を司る乳白色の髪の少女がお眠になってしまったからだ。

 それも仕方がない。

 いつもだったら、とっくに一緒のベッドで幸せと温もりに包まれながら眠りに就いているところを、この時間帯まで頑張って起きていたのだから――


「でも無理しないで、眠っててもよかったんだよ?」

「……ううん……おねえちゃんの活躍……見てたかったから……」

「そっか。 私の【神ノ星杖ラグニエル】、どうだった?」

「……すごい……きれいだった……!」

「えへへっ、よかったよかった♪」


 乳白色の髪の少女は、眠気でとろんとした瞳を潤ませながら、いまだ空中に漂い続けている幾千万もの光の星々を見つめる。

 そんな愛らしい少女に褒められた黄金色の髪の少女は、ぴょこぴょことアホ毛を跳ねさせながら、嬉しそうに頬を緩ませた。


「それじゃあ、創り直すのはまた今度にして、今日の所はそろそろ帰ろっか」

「……うん……」


 黄金色の髪の少女は、とにかく早く帰って、眠気が限界に達しつつある乳白色の髪の少女のことをふかふかベッドで寝かせてあげたかった。

 そして一緒のベッドで横になり、早くその温もりに包まれたかった。


「この星たちは必要な時にまた創れば良いから……魔素循環へお帰り――――」


 黄金色の髪の少女がそう呟くと同時に、光の星々はその場で一斉に弾けて小さな光の粒子となり、魔素循環の流れによって徐々に星空の中へと溶けていく。

 同時に光翼と光輪も光の粒子となって霧散した。


「……ほわぁ……!」


 見渡す限りの無限の夜空に広がる、夢幻かと見間違えてしまう程に幻想的なその光景を見て、乳白色の髪の少女は感動のあまり可愛らしい声を漏らした。


「……きれい……だね――――」

「そうだねっ」




 少女たちのその会話を最後に、辺り一帯は静寂に包まれた。

 乳白色の髪の少女が、完全に眠りに落ちてしまったからだ。

 黄金色の髪の少女――アルムは、すやすやと可愛らしい寝息を奏でる少女――ラティナのことを優しくぎゅっと抱き寄せて頭をなでなでしながら、少女たちの家――ツリーハウスがある世界樹の大森林へと帰る準備に取り掛かる。


 普段であれば景色を楽しみながら飛んで――もしくは地上を歩いて帰るところであるが、今はラティナのことをベッドまで運ぶのが最優先。


 というわけで、アルムはラティナを更に抱き寄せ、そして空いた右手で空間を軽くノックする。

 すると空間に亀裂が生じて、やがて二人が通り抜けられる程度の次元断層が出現した。

 二人が『生活魔法モドキ――次元収納』と呼んでいるその権能はまさに遣いようで、この次元断層を通り抜けた先はツリーハウスへと繋がっている。


 アルムはもうすぐ訪れる、ラティナの温もりに包まれながら一緒にベッドで眠る――という幸せな時間に胸を弾ませつつ、軽い足取りで次元断層を潜り抜けた。




 少女たちが去り、やがて次元断層が消滅したその場所に残されたのは、見渡す限りの全てに広がる奈落の闇と、周囲の光源が全て消滅したことによって美しい輝きを取り戻した、夜空一面に広がる星海の澄んだ煌めきだけだった――

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