ご時世


 またカメラを持って変な奴が現れた。せっかくのんびり出来る場所が見つかったというのに、これではまた引っ越しせねばならなくなる。


 仲間に聞いたところ、おれ達をカメラで撮ってギャアギャア騒げば金になるとのことだ。


 昔から、姿を見ただけで怖がられるのも失礼な話だとは思っていたが、今は怖がるためにわざわざこうやって探しに来ている。しかもあのカメラとやらに映されると、おれ達はもうこの世界にはいられなくなる。


 千年以上この世界にいる長老に聞いたことがあるが、昔は鏡にさえ映らなければ大丈夫だったらしいが、今はいたる所にカメラが仕掛けられている。結局その長老もつい先日成仏してしまった。



「うわぁ、この部屋はなんか空気が重いですね。急に寒くなってきました」


 カメラを持った男が隣の部屋に入ってきた。空気が重いとかおまえの気のせいだろう。おれ達にはなんの力もない。


 出て行ってもらおうとドアノブをがちゃがちゃ鳴らした。男はぎゃあっと叫んでどこかへ逃げる。だがまだきっとどこかに潜んでいるだろう。


 同居人が壁から覗き込むようにして周囲を警戒していた、その時だった。


「うぎゃー! みなさん見ましたか!? 黒い影が今カメラに映りました!」



 しまったという表情をした同居人と目が合った。その体が徐々に足元から消えかけていた。そして悲しそうな顔でおれに手を振ると完全に消滅してしまった。



 わりと長く連れ添った相棒を見送り、おれはこの廃墟の出口へと向かった。カメラを持った男はまだ中をうろうろしている。それに見つからぬようおれは闇に紛れて逃げ出した。



 これでまた新しく住む所を見つけなければならない。廃校や廃病院などはさっきのような男がわんさか来てしまう。


「幽霊も居場所がなくなってきたな……」


 街を彷徨いながらおれは肩を落とした。






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