161:陰キャと汚い一番星を見た
<星架サイド>
コート上、ショーケースに顔を突っ込み、尻を振り続ける4人の少年。「テカリン、テカリン、テカリン」という呪文のような掛け声も四重奏。その状態で、気付けば3分近く経過している。
ふ、と隣に座る康生の様子が気になり、顔を向けると、彼はスマホの画面をずっと見ていた。
「結構、投げ銭飛んでますね」
気になって、アタシも画面を覗き込む。千佳と莉亜も身を乗り出して反対側から首を伸ばした。
画面の中、アタシたちの反対側から捉えてるあの大きなカメラの映像だろう、コートが大画面で映し出されていた。コメント欄のヘッダーには直近の投げ銭が履歴として残っているけど、赤が4つ並んでる。高額投げ銭だ。
『こんなんで国体が保てるの? この国』
『なんでこんなのがスポーツのカテゴリに入ってるんだよ。冒涜だろ』
『就活頑張ろう』
『やっぱり10代の尻は良いですね。捗ります』
『生きてて恥ずかしくないの?』
『受験頑張ろう』
『この子たちはまだ若いけど、競技者のボリュームゾーンは40代だからな。こんな事してても生きていける。正直、励みになるよね』
『ああはなりたくない』
コメント欄も様々な反応だけど、この惨状を見て自分の人生に対して活力を得ているコメントも散見される。下には下がいる。自分もまだまだ捨てたモンではない、という感じか。
「人に勇気を与える……と一口で言っても方法は様々」
康生が開始前に言っていた言葉を、改めてなぞる。アタシたち3人は「なるほど」と心底から得心がいった。だから続いてるんか。この投げ銭の正体は、自分より確実に下等と思える存在を見せてくれたことへのお礼、自分の人生の発奮材料と出来たことへのお礼。
「考え得る限り最悪のビジネスモデル……父さんの総括です」
だろうね。アタシも完全に同意だわ。芳樹さんがマトモな感性の人で良かった。
と、そこで。マイクを持った先程の女性が、
「残り5秒、4、3」
とカウントダウンを始める。
「2、1」
今度こそ彼女は笛を手に取り、口元へ持っていく。ゼロのタイミングで、
ブーーーーと映画館で聞くようなブザーが鳴った。施設の音響設備だ。もう笛は捨てろよ。
「テカリワン!」
「テ、テカリツー!」
「テカリツー!」
「テ、テカリワン……」
ショーケースから一斉に顔を引き抜いた選手たちが、今度は大きな声で謎の呪文を唱えた。それと同時、片手を挙げた。その手の先、指が1本ないし2本立てられている。ワンとかツーとか言ってたし、あれで数字を示してるのか?
「クッツー?」
「アレはテカ順申告ですね。競技時間が終わると、すぐに自分が4人の中で何番目にテカってるかを申告するんです」
「お、おう」
「で、当たってたらポイント。かつ申告の速さでもポイントが加算されます。そして勿論、一番テカってる人、モスト・テカリスト・プレイヤー、MTPが一番加点が大きい。つまり……MTPが一番早く正確に申告すれば、最大ポイントもらえるという寸法です」
なるほど。
「けど何の判断材料もないんじゃ、みんなダメ元で一番を名乗るんじゃないの?」
莉亜の疑問は尤もだ。康生はコート上を指さす。
「ショーケースの中に幾つか鏡が入ってるんです。で、自分の鼻の頭が他の3人に見えるようになってる。逆も然り。つまり、ポーカーと同じで、相手の顔を見て、自分のテカリティと比べて、申告をするんです」
「ポーカーに謝った方が良いと思うよ」
「明らかに自分よりテカってる人が1人でも居たら、もうワンは諦めてツー狙い、スリー狙いに切り替えるという戦法ですね」
早く正確に申告したら、それでもポイントが貰えるから、そういう戦法も取れるというワケか。カスみたいな競技なのに、意外と戦略性があるな。
「お、審判みたいな人が出て来たぞ? スタッフも」
最初に油取り紙で選手の鼻を拭いていたスタッフが、今度は黒くてゴツイ機器を片手に、コート中央まで走ってくる。
「テカウターで、実際のテカリティを計測するんですよ」
「テカウター……」
「一応は輝度計を使っているとは言ってますが、製造元や規格などは非公表。多分、運営は八百長をしてると思いますよ」
半笑いでとんでもねえこと言い出したぞ、アタシのカレシ。
「テカリワン、
審判が黒瀧の手を掴んで、掲げる。ボクシングの判定みたいな……あ、いや、アタシもボクシングに謝った方が良いな。
「あれ、クッツーに仕事押し付けやがったヤツだろう? すげえじゃん、今日初めて参加したのに」
「才能があったんでしょうね」
嫌な才能だなあ。
「……でも彼って一番最後に、テカリワン申告してたでしょう? じゃあ正答ではあるけど、スピード点みたいなのは貰えないってこと?」
「そうなりますね。ただ代わりに、はにかみポイントが入ってるハズです。恥ずかしそうにしてたんで」
なんやねん、もう。マトモに理解しようとしたら頭おかしくなるな、これ。
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