143:ギャルの親友が忙しかった

 翌日。僕の部屋に女子二人がやって来た。ちなみに重井さんはパス。あんまりこういうの興味ないのかなと凹みかけた所に、星架さんが、


「おやつが無いと来ないよ」


 とド直球な真理を教えてくれた。いや、それもどうなんだろう、とは思うけど。


 テーブルの上には既にちぎり絵に必要な材料が一式そろえてあり、それを見ると洞口さんは目を輝かせた。と言っても、台紙と色和紙、折り紙、でんぷん糊くらいの簡単なセットだけど。


「これ、揃えてくれたん?」


「まあ。けど折り紙と色和紙、糊はもう家にありましたから。台紙だけ100均で」


 昨日、重井さんを送っていったついでに、モールに寄って買っておいたんだ。色和紙も糊も普通に家にあったし、折り紙にしてもノブエルのキノコを作った時の残りをリサイクルできた。


「お! もう作りかけてんじゃん」


 星架さんが目敏く見つけた台紙。見本にするために先に少しだけ貼ってある。

 茶色の折り紙を千切ってトグロ状に並べておいた。二人がドン引きしたような顔をする。


「これ……アンタ」


「隣に可愛らしいクマの下絵もあるんだが?」


 中央に茶色のトグロ。端にデフォルメしたクマの絵。


「クマは洞口さんに貼ってもらう為に描いてます。まあさしずめ、コラボってところでしょうか」


「ウチ的にはコラボっつーか、コラ、ボケ! って感じなんだが」


「あはは」


 僕は取り合わず、小麦色の折り紙を千切って、少しずつトグロの下に置いていく。


「ん? あれ?」


 少しだけ濃い色の紙にハサミを入れ、ライン状に切り出す。それを先程の小麦色のピースの間を横断するように置いた。コーンの陰影を表している。そしてそこまで繋げると、ようやく二人も全貌が分かったらしい。


「そ、ソフトクリームか」


「驚かせんなよ~」


 二人とも、まんまと引っ掛かってくれた。


「まさか皆で楽しもうという場で、僕がそんな変なモノ作るワケないじゃないですか」


「……」


「……」


 あれ? 同意が返ってくると思ったんだけど? まあ、いいか。


「モールデートで星架さんが食べてたチョコ味のソフトクリームですね。この横にさらに星架さん本人も作ります」


 ほう、と洞口さん。


「あともう一人、重井さんも星架さんの後ろに」


「それ、アタシのソフトクリームを直接狙える距離じゃね?」


 まあ、ご本人なら確実に狙ってくると思う。


「前方にクマがいて後ろから雛乃が狙ってる状態とか……余さず食われる未来図しか浮かばねえんだが?」


「てかクッツーは? いねえの?」


「僕はこの空の辺り、白黒のバスト写真的な」


「先に食われて死んでんじゃねーか!? 遺影だろ、それ?」


「まあ、星架さんだけ逝かせるワケにはいきませんから」


「康生……!」


「ちょっと喜んでんじゃねえよ、星架も!」


「あはは。洞口さん、元気ですね」


「誰のせいだ!」


 一通りツッコミ終わると、ゼーハーと肩で息をする洞口さん。なんか大変そう。


「つーかマジでそれ作んの?」


 星架さんのマジトーン。僕は苦笑して首を横に振る。


「流石に初めて作るのに人物画は少々キツイかと。あくまでこういう感じで作るんですよって言うサンプルですね。あと、軽いドッキリ目的?」


 けどダダ滑っちゃった。女の子相手に不潔なネタはやっぱりダメだね。今後は控えよう。

 取り敢えず、僕はスマホを操作して、あらかじめネットで拾っておいた画像を拡大して見せようとするけど、


「やっぱクマか」


 洞口さんは難色。


「イヤでした?」


「イヤじゃねえけど……なんかウチ=クマみたいな図式が固定化されそうで、それが微妙」


「う~ん」


 分かるような分からないような。


「でも最初はデフォルメされた動物とか、花とか、そこら辺から始めた方が良いと思いますよ?」


「いや、それはそうなんだろうけど……例えば風景画とかはダメか?」


 ああ、そっか。自然も好きって話だもんね。しかし風景画かあ。


「色が複雑になりますからねえ……どういうのが良いとかあるんですか?」


「母方のばあちゃんがさ、農業やってんだけど、夕方になると真っ赤な太陽が田んぼをサーっと染めてさ」


「おお、良い感じですね! 日本の原風景だ!」


「分かってくれるか! エモいよな、田んぼと夕陽!」


「僕もそういう系、いつだったか箱庭というかジオラマというか、そういうの作りましたよ」


「うわ、箱庭かあ! ウチが不器用すぎてプラモ腐らせてるヤツ!」


「え、勿体無い。今度持って来て下さいよ。出来るまで丁寧に教えますから、一緒にやりましょう」


「……っ! う、うん」


 と何故か照れたように下向き加減になって、小さな声で返事する洞口さん。

 ん? なんだ? と思ったら、今度は星架さんが僕と洞口さんの間に体を入れて、僕たちの肩をぐっと押して、距離を離してしまう。


「ど、どうしたんですか? 星架さん」


「……近すぎ」


 ブスッとした声でそう言ったかと思うと、間髪入れずに、僕の鎖骨の辺りに頭突きをしてくる。ゴツゴツ。割と執拗で、地味に痛い。

 堪らず僕は「お茶のお代わり入れてきます」と理由をつけて、階下へ一時避難する羽目になった。

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