78:ギャルと服の話をした

 食事を済ませると、僕の服を買いに行くことになった。せっかく現役モデルさんが居るんだから、アドバイスしてもらおう、と。


 やっぱり見た目にも、もう少し気を使わなきゃだよね。これから学校が夏休みに入ったら、星架さんと私服で歩くことになるんだし。その時にあまりにあまりな格好してたら、彼女にも恥をかかせてしまう。


 というようなことを話すと、


「別に康生、普通だけどね。紺色のTシャツに黒のカーゴパンツ」


 というお返事。


「普通すぎるかな、と。前の浮田さんのコスプレ? みたいな、ああいう」


「ん~、確かに康生のガタイだとアリ寄りのアリだけどさ。アンタ、ああいうの着たい?」


「脇がスースーするから、あんまり」


「そだよね。それに、オレはこういう格好したいんだっていう意思みたいなんがないと、ああいう系統はキマらんって言うか。もちろんアタシは女だから正確には言えんけど」


 ああ、やっぱりか。自分でもキャラじゃないなとは思ってたけど。まあ、一人称が「僕」の時点で無理だよね。


「やっぱ着たい服を着たいように着てるのが人間、一番よ」


 エスカレーターに先に乗った星架さんが、見下ろすように振り返る。


「アタシのこの格好も、正直言うと自信なかったんだけどさ、康生がメッチャ喜んでくれたから、今は着てきて良かったなって」


 そう改めて言われると恥ずかしい。けどそこは、リクエストした僕は受け止めないとだよね。


「その……ホントに可愛いと思います。似合ってます」


 待ち合わせの時は興奮して一気に言えたけど、改めて普通のテンションの時に誉めるの、中々に勇気が要る。なんか手汗かいてきたし。


「うん、ありがと」


 星架さんも、少しはにかんだ様子。


「まあ、康生が好きなタイプの服を重点的に見よっか。そん中でアタシがワンポイント提案するって感じで」


 その後、いくつか店舗を周った結果、Tシャツのレパートリーが増えた。

 あ、でもちょっと冒険して、パープルとかピンクとかも買った。僕でも何とかなりそうな絶妙な色合いと柄のを選んでくれた星架さんは流石にセンス◎だった。












 <星架サイド>



 康生の服選びも終わって、少し手持ち無沙汰になる。

彼が喜びそうなホビーショップを見付けて、城のプラモデルとか見ても良いよ、って言ってあげたんだけど、「もう全部作ったことあるんで」と返された。流石っす。


「4階にさ、ラウンジみたいになってる所あるから、そこ行こっか」


 やること思い付かないけど、まだ離れたくなくて。

 まったり喋るのなんか、放課後しょっちゅうやってるのにね。


 そこでふと気付いた。そっか、世のカップルたち、夫婦たちは、モールで一通り遊んだ後、家に帰ってイチャイチャするのか。

 

 いいなあ。デートを引き延ばさなくても、当たり前に一緒の時間が確約されてる間柄。


「4階か。レストラン街しか行ったことなかったです。そんなスペースがあるとは」


「地元なのに、あんま来ない系?」


「家族とたまに、ぐらい。星架さんの方が詳しそうですよね」


「うん。ママと時々。あと雛乃ひなの、近くに住んでるからさ。あの子としょっちゅう」


 小学校高学年、中学校と一緒だった友達だ。千佳の次に付き合い長い子。高校入学と同時に親の転職で沢見川に引っ越したけど、あの子の学力じゃウチには通えなかったという事情。つか引っ越し多いよな、アタシの周り。


「ああ、日曜よく遊んでるっていう」


 土曜は康生、日曜は雛乃と(たまに千佳も)遊ぶことが多い。


「てか、ツイスタにちょくちょく上げてるだろ。あんま見てねえな、さては」


 白い目を向けてやったけど、あはは、と愛想笑いで逃げられた。


「しかしそんだけ来てるなら、やっぱりイワンモールの習熟度では敵わないですね。もしかして信長の打棒も僕より遥かに?」


「遥かに興味ねえよ。あんなんあるの初めて知ったわ。詳しいっつっても、ゲーセンはプリ撮る時くらいしか寄らんし」


 そんな駄弁りをしながら歩いてたら、4階の端まで到着。円形に寄せたソファーが数セット。うち1つはチビッ子たちに占拠されてる。何が楽しいのか、よじ登っては飛び降りて、を繰り返してるみたいだ。親たちは少し離れた所でお喋りに夢中。


「奥、行こっか」


 その喧騒を嫌って一番奥へ。大窓から、街が一望できた。


「おお」


 康生は軽く仰け反った。


「ここ、好きなんよね」


「そうなんですか?」


「街、見渡せるじゃん? ほら、あっこ……アタシが入院してた病院」


「ああ、沢見川中央病院」


「そそ、あっこの7階」


「すいません、階数まではよく」


 康生が申し訳なさそうな顔をする。


「あ、大丈夫だよ。そんなんで怒ったりしないから」


「あ、そういうつもりじゃなくて……」


 一瞬で変な空気になってしまう。ああ、なんで階数の話なんかしちゃったかな。

 だけど、落ち込みかけたアタシの手を康生の方からキュッと握ってくれる。


「あ……」


 優しさが伝わってくる。康生としては、思い出してあげられなくてゴメンって意味だけで、他意はなかったのか。アタシの方が逆に負い目から意識しすぎてたらしい。こっちこそゴメンね、ありがとう。

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