76:ギャルとゲーセンで遊んだ
「まずどこ行きましょうか?」
「んー、またゲーセン?」
「またプリ撮ります?」
「んーん。前はアタシが勢いで決めちゃったから、今度は康生がやりたいゲームしよ。あんまりヤバいチョイスだったら止めるけど」
と言われても。ゲーセンなんてほとんど来たことがないから、どのゲームが面白いかなんて、サッパリ分からない。
うーん、と唸りながら店内を見回す。
「あっ! 信長の希望がある!」
「いきなりか! ダメダメ。デート中に国取りシミュレーションやろうとするな」
ダメか。まあ確かに。シビアな気持ちになってテンション下がりそうだもんね。
「どうかつの森は……」
「それもやめえって。さっきと根本的なとこ変わらんだろ」
「そう考えると、人間って本当に度し難いですよね。400年経っても富や土地の奪い合い」
「ほら、テンション下がるじゃんかよぉ」
「あははは。じゃあ、まずはプリ撮りましょうか?」
「え?」
「折角の、デ、デート記念ですから」
「康生……」
嬉しそう。ホントは星架さんもプリ欲しかったのか。今日という日はやっぱり特別なんだ。
二人で照れ笑いを交わし、店の奥に向かった。
一緒にガーリーな筐体に入って、ワイワイと騒ぎながら撮影。中央に寄るとき、星架さんに抱かれた肘がムニュッとお胸に沈んで、幸せを感じた。
印刷を待って、出てきたプリを半分こする。
「前回のガンギマリ目とは大違いですね」
思い出して笑ってしまう。今回、二人とも顔を加工して遊ぶことはせず、銀の文字で軽くラクガキ(仲良しって書いた)するに留めた。どちらから言い出したワケでもないんだけど、そうした。
「アレは面白かったけど……今日は面白さとか要らないから。あ、フリちゃうぞ?」
「なぜ念押し?」
「いっつも予想外なオモシロ展開に巻き込むのは、どこの誰だよ」
そ、そんな評価なのか。心外な。
「じゃあ、そんな展開にならなそうな……」
「ダンスのヤツあるよ? アタシはこのサンダルだから無理だけど、康生やってみる?」
「カエルに負けるスタミナで? 終わる頃にはオタマジャクシになってますよ?」
「マジかよ!? すげえ生態だな。とりあえずアタシが悪かったわ」
僕はもう一度店の中を見回す。スポーツゲームをまとめたコーナーに目を惹く筐体を発見した。
「あ! 信長の
「信長ばっかりじぇねえか! どうなってんだ、このゲーセン!」
「僕、先やって良いですか?」
「後からだってやんねえよ、アタシは」
星架さんのお許しも出たので、僕は筐体に近づいていく。ラッキーなことに何故か「信長の打棒」の前にだけ誰もいない。待ち時間ゼロで出来るなんて。
早速、筐体のコイン投入口に百円玉を二枚入れる。追いついて来た星架さんは、しょうがないなあって顔してる。子供の頃、ガチャガチャにへばりつく僕を見ていた母さんも、あんな表情だった気がする。
『プレイボール』
筐体から野太い声が聞こえる。大河ドラマで信長役をやってた俳優さんが声を当ててるみたい。すごい。お金かかってるな。
一番バッターが出てくる。黒い着物にマロ眉の、恰幅の良いおじさんだ。『今川義元』とテロップが出る。
「星架さん! 義元ですよ、義元! 星架さんの推しの」
「大声出すな! 恥ずかしい。てかアタシがいつ推したよ?」
あ。そうこうしてるうちにピッチャーマウンドの武将がボールを投げてくる。てかアレって……
「投げてんの信長じゃね?」
「そうみたいですね」
思わずど真ん中を見逃してしまう。ワンストライクだ。
「打ってねえじゃん。なにが打棒だよ」
「ですね。どうも信長に酷い目にあわされた武将たちを操作して、ノックアウトするのが目的みたいです」
言いながら二球目に手を出す。バットの先端を掠めて、ボテボテのファーストゴロ。
「ああ……」
すると画面が切り替わり、義元が白装束で舞台に上がる。そしてそのまま、刀を逆手に持って、自分の腹へ……という所でホワイトアウト。流石に流血シーンは出さないか。
ホワイトアウトから画面が戻り、
『切☆腹(笑)』
とテロップが出た。
「なにわろとんねん」
星架さんのツッコミも置き去りに、次打者『浅井長政』が出てくる。初球を打ったがセンターフライ。二者連続切腹になってしまった。
「マズイですね。追い込まれました」
三番は『武田信玄』だ。彼が凡退すればゲームオーバー。手が少し汗ばむ。一球目は
「ここ!」
捉えた。ヒット性のライナーが右翼へ。キャラの能力値が高いのか、僕が感覚を掴んだからかは分からないけど、目の覚めるような当たりだ。
「いけいけ、回れ回れ!」
三塁を蹴って、ホームへ。ランニングホームランだ! と思った所でライトからの返球、中継のセカンドから完璧なボールが返って来て……
『切☆腹(笑)』
「ぐああああ!」
「思い出しダメージ!?」
傷心のままゲームをやめて店を出た。
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