57:陰キャの器が大きかった
<星架サイド>
「え!? 一体何がダメでした?」
「概ね全部?」
「そんな。チャリエル、すごく綺麗な天使だったのに……」
うぅ。例えイカれてても、アタシがモチーフであろうキャラが綺麗とか言われると。
「じゃ、じゃあチャリエルは採用で」
千佳が目を見開く。
「おま、正気か?」
「信長が部屋に居るよりは、まあ」
綺麗って言ってくれたし。
「いや、チャリエル単体でも相当なモンだぞ? キノコ轢き殺しながら、ニケツで沢見川に降りてくるんだろ? 明らかに情緒の発達段階で問題があったヤツだろ」
「しょ、しょうがないじゃん」
アタシを夢に見てくれたってのが、嬉しかったんだから。それに中身はどうあれ、見た目は天使にしてくれてるんだし。
「信長はイヤってことですか? 素直になってください。星架さん」
「これ以上なく素直だけど?」
「ツイスタにあげても良いですよ。仕事用のアカでも」
「これを!? アカウント乗っ取りを疑われるわ」
或いはフォロワーが千単位で減るか。
「おかしいな。武将、本音では好きなんでしょ?」
「えっと……まだ熱あったりする? 休んでた方が……」
「いや、熱はないですよ。むしろ冷静に星架さんの言動を振り返って考えてみた結果なんです」
「えぇ……」
「ほら、あの時。宮坂に」
ああ、やっぱり野球ん時のアレを
アタシは康生の誤解を解くべく、必死に弁明し、5分以上かけて、ようやっと理解を得られた。
「最初の案で良かったよ、普通に」
「無難すぎないですか?」
「難解の塊よりマシだから。モフモフで良いの、モフモフで」
「もののふ」
「モフモフだっつーの」
そこで千佳の笑い声が聞こえる。今のやり取りがツボったのか。
「面白えなあ。アンタら息ぴったりじゃん。もう結婚しなよ」
い!? いきなり援護射撃が強すぎだから。康生は……愛想笑いしてる。これはどうなんだ? ちょっとは想像してくれたんか?
「じゃあ、チャリエルと犬が戯れてる感じで作りましょうか。無念ですが」
「でもモフモフよりさ、自転車絡みの思い出を残すって話なら、アンタらが再会した時の場面を作ったら?」
正確に言えば、4月に教室で会ったのが再会ってことになるんだけど、ファーストコンタクトは、転倒事故未遂を助けてもらった5月のあの日だし、アタシ的にもあっちを再会の日としたい。
康生もその認識みたいで、
「自転車でコケそうになってた日ですよね」
と頷いた。
「でもチャリエルだと飛べるから……」
「やっぱチャリエルやめない? 前言撤回で申し訳ないけど」
アタシと康生が良い。
「でもそうなると僕の夢はどうなるんです?」
「人聞きが悪いわ。アタシが夢の邪魔したみたいに聞こえるから」
夢は夢でも風邪の時に見たガンギマリドリームの事だかんな。多分、カムトゥルーしない方が良いヤツ。
結局、やや不服そうにしながらも「星架さんの希望が一番ですから」と最後は折れてくれた。ただチャリエルと信長の方もかなり作ってるから、それは完成したら店で売るそうだ。絶対誰も買わないと思うけど、まあそれで康生の気が済むなら。
「しかし、やっぱり何事も話してみないと分からないものですね。僕はすっかり星架さんが隠れ歴女だとばかり」
決め打ちが過ぎるんよ。
けど、康生の言う事はもっともだ。何事も話してみないと分からない……ならアルバムの件も、話してみるべきだよね。だってさ、どう見ても康生だって今この時間を楽しんでくれてるとしか思えないよ。こんな車輪天使がどうとか言ってる裏で、アタシの顔色ばっか窺ってるなんて思えないし、思いたくない。
よ、よし。言おう。言うぞ。
「あ、あのさ」
「康生~、お茶とお菓子持ってきたから、ドア開けてくれる~?」
明菜さん、なんてタイミング!
「は~い」
康生が立ち上がり、部屋のドアを開ける。明菜さんがお盆を持って、慎重に入ってきた。アタシたちの前にも冷たい烏龍茶と、わらび餅が入った深いお皿。
アタシたちは揃ってお礼を言う。
「あ、そうそう。星架ちゃんって昔、康生と会ってるんですってね」
「え? あ、はい」
いきなり予想外の事を聞かれて軽くキョドってしまった。
「昨日、星架ちゃんが帰った後、春から聞いたんです」
「あ、なるほど」
「康生、それでアルバム漁ってたんだね?」
「うん、快気祝いにジオラマ作ろうと思ってて、それで何が良いかなって、昔の記憶をヒントにしたくてさ」
「すごい真剣だったもんね」
「うん。やっぱ喜んで欲しいからさ」
そ、そういう事だったんか……! アタシの地雷回避のために嫌々とかじゃなかった!
そこで明菜さんと話してた康生が不意にアタシの方を向く。優しい、本当に優しい笑顔だった。それを見た瞬間、思わず胸を押さえそうになる。息も苦しい。ヤバい。部屋で一人でいる時、康生のこと考えてキューッてなることはあるけど……今は千佳と明菜さん、何より本人の前なのに。抑えらんない。
アタシは気付いたら、康生の手を握ってた。
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