39:ギャルが容赦なかった
声の主、宮坂は明らかにビビっているようで、星架さんの怒気に、一歩、二歩と後ろに下がった。
「2三振、4失点のヤツが何を偉そうな事ほざいてんだ? ああ!?」
援護してもらってる僕まですくみ上がってしまいそうな啖呵だ。
「もう少し足が速ければ、だあ? じゃあこっちも思ってても言わないでやったこと言ってやろうか? オマエがチャンスで打ってたらな、もう少し点取られなかったらなって。大戦犯だなって」
まあそれは、うん。途中から諦めてたけどね。このキノコ、たぶん使えないって。
「な、なにマジになってんだよ? たかが体育祭だろ?」
「だっせえな、オマエ。そのたかが体育祭に張り切って、クリーンナップと先発ピッチャー買って出たのは自分だろ。ボロクソにされた途端、頑張ってませんアピールか?」
「いや、それは……」
宮坂は口ごもり、そして僕の方を見た。
「なんでそんな地味でパッとしないヤツ庇うんだよ」
パパッと点取られてたヤツに言われるとは。
「オマエ、本当に人を見た目でしか判断できないのな。こ、沓澤クンは幼い頃から技術を磨いて手に職つけて、戦国武将とかメッチャ面白い物作って、それ売って、自分で金稼いでるぞ? もうプロだよ。進む道見つけてんだ」
「な、それが何だよ。そんなもん作れたって……」
「オマエ、たかが体育祭に全力になれないってんなら、他に真剣に取り組んでることあんのか? アタシには持って生まれた容姿の恩恵に甘えて生きてるアタシやオマエみたいなヤツより、沓澤クンみたく本当に好きな事、全力でやってるヤツの方が断然パッとしてるし輝いて見えるよ」
「……」
「沓澤クン、前な、興味ない事は頑張りたくないって言ってたよ。けど今日は頑張ってたよな。確かに足は遅いし、守備の動きも良くはない。言っちゃ悪いけど、野球のセンスはないと思うわ」
うわ、事実陳列罪だ。
「けどさ、オマエと違ってチームに迷惑かけないように出来る限り頑張ってた。結局、頑張ってもアウトだったけど、言い訳の一つもしなかったよな。本業でも嫌なことでも頑張れる沓澤クンに比べてオマエはなんだ? 失敗したら言い訳してスカして……クソだせえヤツが、不格好でも頑張ってるヤツをバカにしてんじゃねえよ」
星架さんの言葉に、誰も何も口を挟めずに聞いてる。
「頑張っても失敗することが怖くて、頑張らないヤツで溢れ返ってる世の中、その内の一人がオマエ。地味でパッとしねえのはオマエだよ。どこにでも居る。オマエみたいなヤツ」
そこで星架さんの口上は終わった。
「私も……もし今フリーだったら付き合いたいって思うのは沓澤クンの方かな~」
園田さんが少しのんびりした口調で星架さんの援護に加わる。けど援護の仕方が。妖艶な流し目が刺激的な感じで、ドギマギしてしまう。
「いやいや、沓澤クンはアンタみたいなのは苦手でしょ。ウチが貰ってやるよ、仕方ないから」
洞口さんも悪ノリ。ニヤリと口端を歪めて、僕を見てくる。
「こらこら、アンタら! ダメだかんな!」
星架さんが慌てた感じで二人を止めてくれる。女性慣れしてない僕が恥かく前にと、機敏に助け船を出してくれたみたい。
他のクラスの面々も概ね、僕の味方(というか星架さんの味方)のようで、無言で非難がましい目を宮坂に向けている。旗色の悪さを悟ったのか、彼は視線を泳がせ、
「……ふ、ふん。溝口がそんなヤツだとは思わなかったよ。げ、幻滅したわ」
そんな捨て台詞のようなことを言った。
「それはどうも。オマエの都合の良い幻影なんか演じるつもりもないし、そういう勝手な押し付けしない人と一緒に居る方が楽しいし」
そこで星架さんは僕を見て、不敵に笑った。電機屋のポイントカードの件を思い出す。
「……」
もう反論も思い浮かばないのか、宮坂はクラスの輪から外れ、どこかへ歩き去る。誰も彼を追いかけることはしなかった。
「……その、ありがとうございます。本当は僕が何か言わなきゃいけなかったんでしょうけど」
波風を立てるのがイヤで、争いたくなくて、自分が我慢すればと考えた。だけどいざ、彼女が代わりに言い返してくれて、とてつもなく嬉しかった。そんな風に思っててくれたんだ、って。
僕はなおも言い募ろうとして、
「溝口さんカッケー!」
「星架さん、凄すぎ! マジでスカッとした!」
男女問わず、クラスメイトたちに囲まれてしまう星架さん。僕は弾き出されてしまった。残念にも思うけど、一旦、僕も頭冷やした方が良いか。危うくみんなの前で「星架さん」呼びしそうになってたし。
そっと輪を抜け、ちょうどお昼休憩も近いし、カバンを取りにロッカーへ向かった。
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