親友に彼女を寝取られて死のうとしてたら、異世界の森に飛ばされました。~集団転移からはぐれたらしいが、魔法を極めて最高のエルフ嫁と楽しくサバイバルしてるので平気です~
第54話 異世界人、十余人、何も起きないはずがなく。
第54話 異世界人、十余人、何も起きないはずがなく。
時は遡り、黒ポンチョ共の手によって鴎外が街の外に放逐された頃。
まだ陽も昇り切らない時間に、女子たち全員がとある場所に集まっていた。
そこは商業通りの一角、小さいながらも大通りに面した店の中。
開店前の店内は明かりもついておらず、少し薄暗い。
「聞いた? 昨日から葛西君が行方不明だって」
「まじ? え、私たち探しに行かなくていいの?」
「でも、男子たちを胴体真っ二つにしたあの葛西君だよ? 私たちが行くだけ足手まといじゃ……」
女子たちの話題は、今朝方メアによって告げられた葛西鴎外行方不明事件で持ち切りだ。
みんな心配しつつも、どう動くべきかを決めかねている様子だ。
――というのも、今日は彼女たちにとってもまた重要な日だったから。
「みんなちゅうもーくっ!」
そんな女子たちの前に、いつものハイテンションで現れたのは石紅未来だ。
その後ろには、やさぐれOLこと八坂静と、地雷系ツインテヤンキーこと三宮のあの二人、鴎外の弟子コンビが控えている。
「えっと……とりあえず、全員揃ってる?」
何か重要な話が始まる、と全員が身構える中、未来は気の抜けた声でそう尋ねた。
「えっと……一応、浅海さんがいないけど……」
先生〇〇さんがいません、みたいな感じでおずおずとそう報告したのは、読書狂いこと仁科夕夏だ。
「あー、多分一人で葛西の事探しに行っちゃったかなぁ……ま、奏ちゃんはだいじょぶ! そもそも頭数に入れてないし!」
奏の奔放さに苦笑しつつも、未来はそのまま話を進める。
決してみそっかす扱いをしているわけではなく、純粋に奏はこの計画の準備に最初から関わっていないのだ。
「さて! 遂に待ちに待ったこの日がやってきました! みんな、よく頑張って準備してきたね!」
優しい笑みを向ける未来に、女子たちはどこか誇らしげな表情を向ける。
「なんか葛西が変な事になってるみたいだけど、向こうは自力で何とかするだろうから一旦気にしなくて良し! それよりもみんなは、今出来ることを精いっぱいやろう! その方が、むしろ葛西の為になると思うしね」
恩人である鴎外のことは、この場の全員が心配している。
だが同時に、女子たちは絶望の淵から救い出してくれた彼の強さに、存在に、どこか信仰めいた想いを抱いていた。
恩義、と言い換えてもいい。
だからこそ、ラスダン攻略という試練を控えた彼に自分たちのことで迷惑をかけたくない。
全てはそんな思いから、この計画が始まったのだ。
「……という訳で、私はここで交代! 後の事は、これからみんなを率いていく二人にお願いするよ」
そう言って未来は、不意にすっと後ろに身を引いた。
代わりに静とのあが前に出る。
「未来、ここまでよくやったよ。てめえの力はあたしも認めてる。だから、後は安心してあたしらに任せな」
男気たっぷりにそう言って、のあが薄く微笑む。
「そうね。未来ちゃんは凄く優秀だったわ。元の世界でもあなたが上司だったらどんなに良かった事か……まあでも、あなたが居なくなっても何とかしてみせるわ。三日泊まり込みして朝帰り定時出社のクソ企業よりは遥かにマシな環境だもの」
静の方は若干本音が漏れつつも、大人の頼もしさを感じさせる。
「ちょ、ちょっと待って!? そんなお別れみたいなこと言わないでよっ! 指揮を執らないってだけで、まだしばらくは私も手伝うんだからね!?」
突然のしんみりとした空気に動揺し、未来がツッコミを入れる。
だが、それを笑う者は一人もいなかった。
代わりに全員が背筋を正し、小さな礼を彼女に向ける。
今日までずっと、この集団の指揮を執り続けて来たのは未来だ。
矢面に立っていたのは鴎外だが、統率という面において上に立っていたのは、間違いなく未来だった。
そんな今日までの感謝が、彼女たちの所作には詰まっていた。
「……ありがとう。でも、今は私のことよりお店のことでしょ?」
未来から言われて、静とのあが動き、店内に明かりを灯して入り口の二枚扉を開ける。
ライトアップされた店内には、チョコやスナック菓子といった趣向品から、ハサミやボールペンといった事務用品等、見慣れた品々が綺麗に並べられていた。
そして、女子たちは全員が何故かアキバ系のヒラヒラのメイド服を着用していた。
「さあ、(異世界)道具屋KASAI、開店だよ!」
掛け声と共に、彼女たちの店はオープンしたのだった。
***
異世界の便利グッズやお菓子を再現した店を開く。
それこそが、この街に来て真に女子たちが取り組んできたことだった。
就職活動をしているというのは、下手に鴎外が協力してこないようにする為の方便だったのだ。
女子、と総称していたものの、全員が少女という訳ではなく、むしろ半数以上が静のような社会人であった為に、店舗運営や商品開発のノウハウは十分にあった。
そこに未来の異常な実行力と夕夏の知識量が加わり、この短期間で商品開発と店舗の開店にこぎつけた、というわけだ。
メアが同行していたのも、物権確保の交渉の為である。
開店直後は物見客程度しかいなかったものの、チラシやサンプルを配ったり、接客する者が制服を着たりと異世界の宣伝方法を存分に用いた店は、すぐに繁盛した。
そんな風に忙しく過ごして、開店から10日が経過した。
「この分なら、葛西君に活動資金くらいは渡してあげられそうだね。ああ、遂に私もママ活に手を出す時が来たのか……」
開店直後のまだ客のまばらな店内で、帳簿を眺めニヤニヤしながら静がそんなことを口走る。
「葛西の事だからお金は受け取らなさそうな気がするけど……それより、私は早く店名を教えたいなぁ。絶対顔真っ赤にしてワタワタするよ」
悪戯っぽく笑って未来が言う。
因みに道具屋KASAIとかいうふざけた名前は、女子たちによって付けられた。
未来が冗談で提案したところに、女子たちが満場一致で乗っかったのだ。
その心酔っぷりには、流石の未来もドン引きしていた。
尚、当然鴎外の許可など得てはいない。
「オウ兄の照れ顔……見たい……」
会計台の下からぴょこっと顔を出した久嶋空が、真剣な顔で言う。
「でも、お金を受け取ってくれないなら何か装備とかを贈るのはどうかな? オウ兄ありがとうーっ! ていうのは伝えたいし」
「それはいいかもね。葛西もプレゼントなら断り辛いでしょ」
空の提案に、彼女の頭を微笑ましげに撫でながら未来が乗っかる。
鴎外発見の報告はだいぶ前にメアから告げられているので、会話内容も呑気なものだ。
「じゃあ、早いうちに買いに行こうか。葛西君、いつまでここに居られるのか分からないし」
静の提案に、聞き耳を立てていた他の女子たちも「それいい……」「どうせならずっと身に着けてくれるものがいいよね」「こっそり髪の毛とか入れとく?」と、接客も忘れて賛同し始める。
その時だった。
「おい、やべえぞお前ら!」
バン! と大きな音を立てて扉が開き、息を切らした地雷系ツインテメイドがオラオラ口調で店内に入って来た。
買い出しと配達に出ていた三宮のあである。
「の、のあちゃん!? どうしたの!?」
慌てて駆け寄った未来を支えにのあは息を整え、
「葛西の奴、たった今街を出て行きやがった!!!」
ドスの効いたアニメ声で叫ばれたのは、唐突な別れ。
「そんな……」
「嘘……」
と、営業中なのを気にしてか女子たちは驚きながらも囁き合うに留める。
だが、そんなことに構っていられるほど余裕のない者が一人。
「え、ええええええええええええええええええっ!? なんで!? 私は!?」
店内の誰よりも驚いた未来の叫びが、近所中に響き渡った。
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