第2話
町の静けさが、そばにあった。
山の麓を走って行く車の音が、街のいちばん低いところを走っていた。
急いでたんだ。
その日たまたま起きるのが遅くて、朝のホームルームに間に合うか間に合わないかの所だった。
昨晩降った雨の影響か、道路がまだ湿ってた。
濡れた地面にタイヤが掬われて、ハンドルがガクンッてなったんだ。
気がついたら世界が反転してた。
青い空が、回転する視界のそばに見えた。
ガサガサッ
という音と一緒に、全身に激痛が走って。
しばらく起き上がれなかった。
自転車でずっこけたことは何度かあったが、転けた先が、掘りの深い田んぼの上にある畦道だった。
斜面が急すぎるせいで勢いよく下に落っこちていく感覚が、頭の中を駆け巡った。
相当高かったんだと思う。
一瞬死んだかと思ったんだ。
あまりの衝撃で、自転車のフレームがひん曲がってたし。
カラカラと車輪が鳴る音。
変な方向にひしゃげてしまったカゴ。
カロリーメイトとか教科書とか、勢いのあまり中身の飛び出たカバン。
イテテ…
すりむいたおでこをさすっていると、「おーい」と呼んでくる声が聞こえた。
声!?
ここらへんは潮崎のおばちゃんくらいしかいなくないか…?
田植えの時期でもないのに、朝から人がいるなんてことが…
見上げた視線の先にいたのは、“女の子”だった。
俺の認識が正しければ90%くらいの確率で。
なんで“100%”じゃないのかって言うと、ひとつだけおかしいフォルムがあったからだ。
見たこともないフォルムが。
頭部から突き出ている得体の知れない物体。
…なんだあれ?
…ツノ?
いや、仮装の時期じゃないよな?
文化祭だって、こんな時期にやってるわけがない
でも制服を着てるってことは…
制服はうちの学校のものだったが、ここらへんに住んでいる女子高生なんていなかった。
綺麗な髪。
袖の下から見えるニットカーディガン。
すらっと伸びた足に、白いパン…
…いやいや!
別に見ようと思って見たわけじゃないッ!
声がした方向を見たら、たまたまその角度だったわけであり…
って、ええ!?
不可抗力で視界に映ったものを頭の中から消そうとしていると、タンッと、その女子高生が飛び降りてきた。
…嘘だろ?
かなり高い場所だったんだが…?
「何してんの?」
鋭い視線を感じた。
冷え切った目というか、どこか、殺気を帯びたような瞳。
…いやッ、だから、見ようと思って見たわけじゃないんだ!!
大体君誰!?
なんでこんな場所にいるんだ??
それにその…、頭から生えてるものは…?
目の前の女子高生は、スッと近づいてきた。
俺は弁解しようと必死だった。
持ち上げた手を顔に近づけようとしてきたから、絶対に殴られると思い。
「違う違う!誤解だって!!」
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