第3話 蒼、本領発揮
葵「おそくない? 大丈夫??」
蒼「ごめん、少しトラブっちゃって遅れる」
とだけメッセージを飛ばして、足を引き摺りながら人気の少ない庭に来た。
「それでなんの話を?」
美優さんのお母さんは僕に尋ねる。
「申し訳ありませんが、美優さんのために言わせてもらいます」
「?」
美優さんのお母さんははて?とでも言いたい顔をする。
そんなことを気にせず僕は続ける。
「正直、やりすぎだと思います。美優さんが可哀想で見てられません」
「と、言いますと?」
「あなたのやり方は無理強いを押し付けているだけです。彼女は彼女なりに頑張っているんだと僕はさっきの対応を見て感じました」
「何が無理強いなのかしら?」
美優さんのお母さんも言いたいことが少し分かってきたのか、反抗の意を見せてくる。
「無理やり敬語を使わせたりするところとかですね」
「接客業をしてるんだから、そんなこと誰でもできて当然でしょ?」
「彼女はそもそも接客業を自らやりたいと望んだのですか? 話はそこからです」
そういうと、美優さんのお母さんは
「いいえ、望んでないですね。美優は一人っ子でこの旅館を引き継がせるために練習させているんです」
はぁ、聞いてて呆れるな…。
正直三日月(美優)さんが可哀想。と言う感想しか出てこない。
「やっぱりそうですよね。高校生ぐらいですよね? 美優さん。そんな若い子をあんなに怒鳴って、無理やり自分の考えを押し付けて、理想の娘を押し付けて! 美優さんが可哀想でなりません」
そう言っていると、美優さんのお母さんが割り込んでくる。
「うちは! ずっと三日月家がおかみを務めないといけないの! じゃないと私のおばあちゃんたちから受け継がれてきた伝統が!」
「そんなのどうでもいいでしょ! それは自分の娘の人生よりも大事なものなんですか! そんなくだらない伝統なんかで、そんな大事な時期の時間を奪わないであげてほしいんですよ。自分の好きなことを見つけて好きなことをやる、そして、仕事にするような大好きなことを見つける。そんな大事な時期なんですよ? 本当にあなたは美優さんの人生を奪うつもりですか?」
「確かにそうかもしれない。でも、おばあちゃんたちが頑張って夢を叶えたこの三日月旅館を私の代で潰すわけには行かないわ!
「それは美優さんより大事なものなんですか?」
「えぇ、美優より大事よ」
「そうですか」
「えぇ、話は終わりかしら?」
「……人として終わってますね」
僕は誰にも聞こえないような小さな声で言った。
「え? なんか言った?」
僕の言ったことが聞こえたのか、思わず素が出てしまったようだ。
「だから、人として終わってますねって言ったんですよ!」
「どこが終わってるって言うのよ!?」
美優さんのお母さんは思ったより声を荒げて言う。
「だいたい、自分の娘を第一に考えれない親がどこにいますか?? そこがかけてる時点で僕は親失格だと思うんですけどね。それに、美優さん泣いてたですよね? 外に聞こえるぐらい大泣きさせて、なんとも思わないんですか? それも、親失格のポイントだと思うんですけど」
そう言うと、美優さんのお母さんは
「私は親失格なんかじゃない! 私は! 私は! 自分がされたように娘を育ててるだけなの! 私のお母さんの考え方まで否定しないで!!」
そういうと、美優さんのお母さんは泣き出してしまった。
「…ごめんなさい、今日はここまでしましょう…」
「…わかりました」
まあ泣き出されてしまったら冷静に話できないしね。明日話せる時間あったらと言うか、絶対時間作って話してやる。あの子の笑顔のために。
僕は自分の胸にこう誓うのだった。
※
それから僕は自分の部屋に戻ると、
「おそいぃぃー」
葵姉さんが寝っ転がりながらこっちを見ていた。ドアを開けた瞬間に目があった。もしかして少し心配しててくれた? いいとこあるじゃん。
「ごめん、葵姉さん」
「いや、いいんだけどさ、その足の絆創膏含め、何があったん?」
僕が持って帰ってきたフルーツ牛乳を飲みながら家族全員が耳を澄ます。
美優さんとの出会い、そして、お母さんの態度の悪さから言い争うまでの事態になったこと、家族みんな黙って冷静に聞いてくれた。
「あんた、すごいことしたわね…」
葵姉さんが感嘆したような声をあげる。
葵姉さんがすごいだなんて珍しいこともあるもんだなぁ…
「いや姉さんに同感」
真凛も同じような感じだ。
いや、まさかの真凛まで、なんだ?まさかみんなフルーツ牛乳飲んで酔ってるのか?
「まさか、あんだけ初対面の人と喋ることに抵抗があったあんたがそんなことをするなんてね…」
母さんもかなり驚いている様子だ。
「蒼もすごいやつになったなぁ!」
はっはっは!と笑いながら肩を叩いてくる。
いや、その普通に痛いからやめてよ。そんなことより家族みんなに褒められてるのなんか意外なんだけど。
「そう? なんか知らないけどありがとう」
とりあえず褒め言葉として受け取っておくことにした。
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