第38話 新しい女官たち
女官たちの大半は名乗らず、私に平伏したりしながら仕事をしていた。もっとも、毎回そうされては私も気になってしまうので、うまく女主人ができていたかはわからない。正直、あんまり自信がない。
「ねえ、誰か話し相手になってくれないかしら。それとも、そういうのはダメだってあの人に言われているの?」
ぼんやりとした影の姿で掃除をしていた女たちが困ったように顔を見合わせた後、一人が前に進み出た。彼女が私の前にしっかりとした姿を現すと、それは少し年下の可愛らしい少女だった。
「こ、皇后陛下、お初にお目にかかります。
平伏した姿勢のままそう挨拶をしてきた彼女に顔を上げさせると、華やかではない顔立ちに少しほっとした。丸い目に軽く束ねられた髪はどちらも真っ黒で、女官の服にはまだ少し着られているといった様子は新人なのだろうか。正直、生前は歴戦の女官や貴族をしていたような、そういう高貴な人を相手に偉ぶれる気がしなかった。なので、本人には悪いかもしれないけれど安心してしまった。杏の花をあしらったかんざし以外、目立つ装飾品はつけていない。
「私だって皇后になってそんなに経っていないの。良くしてくれると嬉しいわ、よろしくね」
「光栄にございます!」
「あなたたちのこと、教えてほしいわ。さ、話して」
葉夫人に聞きそびれていたこともついでに聞いてしまおう、と、杏杏と話をすることにした。
女官たちは、というかこの世界で暮らしている幽霊たちは、その気になればいつでも姿を消したり現わしたりできる。私は肉体があるから――死んでいる
「その、私たちは服装も顔も姿も、その気になれば変えることができるって、聞いたことがあります。自分が思い入れのある若い時の姿で暮らしてる人も、見たことあります。死んだ後大人になってたら、とかは難しいらしいんですけど、過去を思い返すのはできるって。それから、服も好きに変えられるけど、しっかり想像できないとできないって、葉夫人が仰っておりました」
「そっか、ふわっと現れたり消えたりできるんだもの、服や顔も霞のようなものなのね……ちょっとうらやましいな、私も色々と姿を変えてみたりしたいわ」
ぶんぶんと彼女は首を横に振る。「こ、この体もいいことばっかりじゃないです。ぼんやり歩いてたら壁をすり抜けちまいますし……」と補足する彼女と、仲良くなりたいと思った。
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