ローズちゃんのゼロから始める最強無双〜薔薇の騎士が紡ぐ、闘う乙女たちの物語〜

生後三時間が経ちました。

　母上様のボインに貪りついて食欲を満たした後、その大いなる柔らかさを、まん丸ほっぺでボインボインと夢中になっていたら、いつの間にやら私は寝ていた。

　この身体はいかんせん睡眠を欲する。

　油断すると直ぐに寝落ちだ。

　そして、燃費が悪いのか、直ぐに腹が空いて目が覚めてしまう。

　腹が空いてはおぎゃり、満足しては気絶したように眠り姫と化し、またはシッコ漏らしては気持ちが悪いのでおぎゃり、オシメを変えてもらって気分が上々の中でおやすみなさいだ。

　忙しく、小まめに寝るとおぎゃると腹を満たす事を繰り返し、そして、気づいたら、生後三時間が経過していた。

　そろそろおぎゃるのも面倒だな、ボインの上でモミモミチュパチュパしながら寝ていた方が良いんじゃないか、と邪な事を考えていると。

　扉の外から。

「テレスティアー！」

　母上様の名を叫ぶ男の声と共に、ドタバタとした足音が近づいてきて。

　バーン！と扉が勢いよく開き。

「テレスティアー！無事なのか！」

「あ、ラルフ」

　イケメンパパ登場だ。

　凄い勢いで入室して来るが。

　あ、ステーンと盛大にすっ転んだよ。

　運動神経が悪いという事が一目で分かる、そんな転び方だった。

「いてて」

「ラルフ、大丈夫？」

「面目ない」

　パパはテヘペロ顔で母上様を労った後、ベビーベッドの私を覗き見る。

「おお、ローズちゃん。初めまして、私がパパだよ。

　無事に産まれてくれてありがとう」

　まぁ、一回死んだんだけどな。

　喋れないからスルーするとしよう。ショック受けそうだしな。

　良し、ここは一つ、エンジェルスマイルをプレゼントしてあげようではないか。

「きゃっきゃっきゃ」

「うんうん、可愛いね。元気そうで何よりだよ」

　パパは頷きながら見事な顎髭を撫で撫でと、それを至近距離で見たローズちゃんは、その顎髭に釘付けとなった。

　お、おお。

　これは、

　なんとも立派なお髭である。

　なんかこう、お腹の辺りをサワサワとして貰いたい、そんな欲求を加速させる見事なお髭だ。

　考えただけで全身がゾクゾクと打ち震える、なんとも気持ちが良さそうではないか。

　母上様は見事なボインを、この見事なお髭でサワサワとさせてそうだ。

　いいなー、それ。

　是非に、未来の旦那には、立派なお髭を蓄えて貰おうではないか。

　それに、カッコいいな、パパ。

　正直、惚れたわ。男性部門の初恋だわ。

　シュッとしてて、若いながらも髭の似合う、なんともダンディな男よ。

　母上様の美貌にも見劣りしないではないか。

　まぁ細くて超絶に弱そうだが。

　戦闘能力は１だな。

　赤子の私でも余裕で勝てる。

　魔法を使えるし、電撃飛ばせば瞬殺だよ。

　そんな事は絶対にしないがな。

「テレスティアにそっくりだね。強くて美人な娘になりそうだ」

「はあ？」

　母上様は何言ってんだって顔で、さも当然のように言う。

「強くて美人になるのは当然にして自然の摂理よ。私の娘なのだから」

　まあ、それは間違いない。

　確信している。

　超絶美形の二人の娘だ。美形しか産まれないだろう。

　しっかし、だ。それにしても、だ。

　母上様は化け物みたいに強いな。

　私が超人スペックなのも納得である。

　強者のオーラが滲み出ているし、肉体強度が人族のそれでは無いな。

　この神眼は全てを見透せるのだ。

　一目見ただけで、強さとか、敵意とか好意とか、虚言も看破出来る。

　目を閉じていても、見える。

　此処ではない、凄い遠くの場所も覗けるし。

　どこでも覗き放題だよ。

　しないけどね。犯罪行為はダメよ、絶対。

　正義の心を宿しているのだから。

　正々堂々、合意の上で脱がせるのが良いのだよ。

　あ、思い出した。

　母上様の半生も経験してたわ。

　テレスティア・アルファ・ザッツバーグ

　この国、アルファ王国の女王陛下の双子の妹である。

　元第二王女にして現大公爵閣下様だ。

　炎の姫騎士殿下という二つ名を持つ、うちの国でぶっちぎりのNo. 1。

　二十メートルを超える竜を、単独で討伐した女傑だったわ。

　すげーな、私の母上様。デカメロンを装備した超絶な美貌だし、その上、とんでもなく強いなんて。

　正直、神眼を持ってしてもその強さは計り知れない。

　え？本当に人族なのか？

　まぁでも、うちの国の王家は色々と秘密があるみたいだし、後で詳しく記憶を探っておくとするか。

　色々な記憶が混ざっているから、大変なんだよな。

　パズルを組み合わせる作業に似ているのだ。

　正直、面倒くさい。

　母上様と同様に脳筋だからな、私。

　しばし。

　ボケーっとイチャつく二人を眺めながら、そこに自分が混ざっているという邪な妄想をしていると、唐突に、真面目な話が始まった。

　母上様が神妙な顔つきとなり、それでと切り出す。

　虚を突かれたローズちゃんは、その凛々しい横顔を見て、ポッと頬を林檎色に染めた。

　改めて惚れ直したのだ。

「魔族との戦争はどうなったの？」

「うん。三年前と同じところで開戦したみたいだよ。

　ライトニア王国の北、魔族領との国境いの荒地で。

　悪魔に不死の魔王が参戦してきて、激戦になっているみたいなんだ」

「悪魔に不死の魔王？」

「うん、魔族の始祖と言われる悪魔が今回の魔王軍の主力みたいだね。

　それが不死の魔王を蘇らせて、今のところ劣勢みたいなんだ。

　各国の援軍を急がせるみたいだよ」

「なるほど、わかった。明日、出陣するわ」

「ええっ！」

　私もええっ！だよ。行くのかよ！

「止めないでね、ラルフ。

　びっくりするくらいの安産だったんだから。

　今日一日休めば、完全に回復しているわ」

　いや。危うく死産だったんだけど、言わないけど。

「いやいや、いくらなんでも。

　ウチは今回は物資の援助で貢献出来るように調整中なんだけど？」

「いいえ、行くわ。

　無事にローズも産まれたし、後顧の憂いは無いわ。

　それに、ウチは私が行かないと条約違反になっちゃうでしょう？」

「それはそうだけど、流石に事情があるのだから」

「大丈夫。私は強いから。勇者にだって負けない自信があるわ」

　知ってる。

　母上様は歴代の勇者にも引けを取らない強さだ。

　女神の聖剣というハンデを負っての互角だ。

　武器無しの殴り合いなら普通に勝っちゃうだろう。

　最早超人である。

　美人でカッコいいし、本物のスーパーヒーローだよ。

　女王陛下の言うことも碌に聞かない、自由気ままな性格で脳筋だけど。

　まぁそれも魅力か。

　でもな、うちの国、母上様しか強い人いないからな。

　足手まといばかりをゾロゾロと連れていってもな。　

　ああ、心配だ。

　流石に母上様の命がかかっているとなれば、呑気に成長を待っていられなくなった。

　今の私に出来る事はないか？

　少し真面目に考えるとしよう。

　えーと、明日出発するとして、王城にある転移魔法陣での移動を考えると、半日というところか。

　タイムリミットは明日の夕方頃かな。

　それまでに叡智の記憶を探るなりして考えておくとしよう。

「ふぁぁ」

　というところで、大欠伸をするローズちゃんは、眠気がピークを迎えて寝た。

　夢を見た。　

　剣聖リュウキと大魔法使いリュークの兄弟の夢を。

　大悪魔を前にしても、勇敢に立ち向かった姿は勇ましかった。

　私の神眼で覗いた悪魔との戦力差は明白だった。

　肉体スペックがまるで違う。

　分厚い防御障壁に、五体を破損しても復活するというチートな肉体。

　大魔導士であるリュークの十倍はあろうかという圧倒的な魔力量。

　初めから勝ち目などないのだ。

　それを彼らは逃げずに白旗を上げる事もせず、顔を下げる事なく前を見続けたまま、決して諦めずに。

　最後は躊躇なく、自身の魂を燃やし尽くして限界を超え、そして一矢報いていた。

　二人共、敗れはしたが、奇跡を巻き起こしたのだ。

　そのなんとも美しい姿に、私は感銘を受けた。

　そして誓った。偉大なる先人に敬意を込めて。

　――安心して。仇は必ず取ってみせるから。

　此処に、必殺を誓うよ。

　必ず、殺すから。

　絶対に地獄を見せてあげるから。

　傲慢な奴らに見せつけてあげるよ。

　人族の歴史を。

　努力して磨き上げた技術に、我が神域なる魔力が加わったとしたら、一体どんなケミストリーを巻き起こすのかを。

　まぁ、勇者が仇を取ってくれるかも知れないけど。

　ジークは歴代最強の勇者だ。大悪魔相手でも引けを取らないだろう。

　しかし、大魔王は無理だ。

　あれは神の領域に住まう人類を凌駕する超越者。

　水と闇の双子の女神でさえも怪しいところだ。

　アイツら弱すぎるだろう、まったく、ダメ女神め。

　此処はゼウスに託された救世主たるわたくしに任せなさい。

　それにしても、気になった事がある。

　聖女アニエスはモテモテだったな。

　勇者パーティ、ハーレム状態じゃないか。

　とんだ小悪魔な聖女様だ。

　とんでもねーな。

　なんて、羨ましい。見事な立ち回りだ。

　今後の参考にしようではないか。

　と、思ったところで目が覚めた。

　両親は居なかった。

　ちょっと離れたところで、チュッチュしてそうな気配を感じ取る。

　ヒゲとボインでサワサワしてるのかな？

　是非拝見したいところだが。

　まぁいい。

　夕日が差し込んでくるということは、もう夕方か？

　母上様が明日出陣となると悠長にしていられなくなった。

　今の内に出来る事を確認しておこう。

　まずは、身体の具合を確かめることにする。

　全身に力を込めて踏ん張ってみる。

　ふん！ほっ！

　プップとオナラ出た。失礼。

　改めまして。

　おおお！つおおおおっ！おおおおおお！

　だ、だめだ。

　寝返りも打てやしない。

　手をグーパーにするくらいしか出来ぬ。

　チョキは無理だった。

　まあ産まれて一日も経っていないのだ。

　母上様について行く事は叶わないのか。

　身体を動かす事は無理、と。

　直ぐに眠くなるし、戦場に赴くのは現実的ではないから諦めるとするか。

　だけど、魔法は使える。

　頭の中で魔法を思い浮かべると、目の前に魔法陣が出現する。

　これに魔力を注ぎ込んで念ずれば発動する、と。

　魔力は無尽蔵だ。馬鹿みたいにある。

　あらゆる種族を飛び越えて、既に神の領域にまで到達しているよ。

　今の時点で双子の女神と同じくらいだ。

　ここから成長するのだから、アイツらを抜くのは時間の問題、今日中に余裕だろう。

　まぁ、全知全能の神、ゼウスの魂が三分の一も混ざっているからな。

　死者を蘇らせるのには、それくらいのことをしなければならない。

　魔法でおいそれとは出来ないのである。

　ともあれ、次に使えるものは神眼か。

　ここではない遠くの場所を見る事が可能だ。

　例えば、今、魔王軍と戦っている戦場をも覗き見ることが出来る。

　場所を探らなければならないけどね。

　ん、まてよ。

　魔法に神眼。

　………

　そうか、コレをこうすれば戦場に介入出来るはず。

　ローズちゃんはイケるな、この方法なら、と、確信したところで、寝落ちした。