——3

 見ていたスマホの画面がブレて、ほんの僅かな間……意識がなくなっていた感じがした。ぼーっと思考が遅延する。

 スキルレベルが低く、どんな効果になるかわからないが確実に催眠作用がつく(※俺の能力が影響し、絶対につく)自作ポーションを飲んだ時のような——?


 俺の能力が————⁉︎



「そっ——⁉︎」



 ——能力のせいで⁉︎ 心臓が急激に破裂しそうな鼓動を始めた。俺は、緋花の肩を抱いて胸を鷲掴みにしながらキスしていた。


「あ、あああっあんたの思い出なんてしっっらないんだからぁあああ! あたしはっ——こうしたいのっ‼︎ 誰が何と言おうとっ」

「——⁉︎」


 触れていた唇が離れると、真っ直ぐ見れない視界の片隅できらっとしたツインテが光った。はあっ、と吐息が首筋にかかり自分じゃない心臓の鼓動が、密着して伝わってくる——自分のよりずっとドキドキしたそれは。

 ……能力は、まだ生きていた。つまり緋花の持っている俺の能力は。咲は寂しげに微笑むと、フッと姿を消して退場し、俺は——


「……あたしっ、あたしはっ〜〜あぁっ⁉︎ あのっ、っ⁉︎」

「待てッ‼︎⁉︎」


 ——。拘束状態ではスキルが発動していなかったから、さっきまでは冷静になってたのだ。


「——違うッ、俺じゃないッ!」


 ……けれど、能力ではない思いが俺を突き動かしていた。伝えないといけなかった。緋花が間近にいて、その言葉で、目が覚めた思いだった——俺が伝えたかった。突き放すように身を離して、すぐに消えてしまいそうだった緋花の前に回り込んでブレーキし、俺は言った(※勢いをつけたことで一瞬、怯ませられたのがわかった)。


「俺のことを、ずっと覚えてくれていてありがとう! だよな⁉︎ 俺だもんなッ——⁉︎ けど俺じゃないんだッ、特別なのは俺じゃない!」


 だって、そうだろ? 俺は続けて、さらに言った。自分でも何に祈っているのかわからなかったが、推しに祈りながら。


「あの時俺がおまえを見つけられたのはッ、俺じゃなくて! おまえが特別だったからだ。御調緋花だったから、俺は見つけられたんだ‼︎」

「⁉︎ ——あ」


 ——



「なのにッ——今は……拗らせた陰キャのツンデレみたくなってるからっ。負のオーラが強くて元の、原型が」



 ……自分の言ったことに、オチをつけようとして俺は必死だった。目先のことに集中していれば他の何もかもを気にしなくていいというライフハック。

 だが——再び意識が飛んだ感触がした次の瞬間、視界から消えた緋花を驚いて探すと、足元で泣き崩れるようにしていた……。


「ッ⁉︎」

「——今日はっ、もう帰るから!」


 ——緋花は半歩退きながら立ち上がり、俯き加減に身を堅くすると、泣き腫らした目だけ動かして俺を見た。直後、俺は戦争を挑まれた気がした。


「予約しといたからっ」

「何を……⁉︎」


 ……今、盗られたのか? 緋花が俺のスマホを持っていて、画面を見せてきた。画面には、あのテーマパークのチケット予約が映っていた。

 パンッ、と小気味良い音を立てて俺はスマホが投げ返されたのをキャッチした。


「絶対、もう一度推させてやるんだから……——!」


 ——終わった。完結した、という感じがした。俺の物語はここまでだ。ガブリエルも、俺の教えたロリ好きなVTuberの配信の時間があるからと通知を残し、見るために帰っていた。

 これでよかったのか……?

 一人、取り残されて思う。もっと上手にできたのではないか、と。


 しかし、——



「スイくん。——」



 ——え?

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