6話:※お風呂回なようです 1

 ◇


 ダンジョン攻略者のステータスには——〈危険予知〉という項目がある。特定の条件を満たした個人のスキルではなく、全員がもれなく持っている。

 これは予知や未来視といった超能力ではない。ダンジョン攻略を管理するシステムが行う——〈予測演算〉、常時行われるその結果がステータスの大小に応じてフィードバックされる。


「ここだ」

「へぇー……すごいっ、すごいっ」

「中は混浴で水着着用だけどな」

「風情があっていいねっ。僕もいつか入ってみようかな?」


 で——


 ——


 ——その日、俺は嫌な予感がしていた。ずっと何かを感じていた……。

 雛蜂とは依然として連絡がつかず失踪したままなので、『ああ、今日か』、『今日やってきて殺されるのか』と思って誰も巻き込まないため、ずっと一人でいたのだが意外と何事もなく一日が過ぎようとしていた。それで、夜になって近所の温泉施設に来たのだが。


「……ッ(やっぱり……ッ、何か感じる。何か俺のッ、想像も及ばない事態がここで待ち受けているような……ダンジョン攻略者を長く続けたことで、危機を感じられるようになった俺の感覚が告げているッ)」

「ん? どうしたんだい彗星くん。入口で立ち止まって」


 ——発端は、俺の家に妹の友達が来たこと。今日は泊まるらしい。俺がいると全員に能力が効いてしまう。

 ……こういうことがけっこうあるから、元の本部は俺が避難するための基地として持ってたんだよッ。ダンジョン攻略のために集合し話し合いとかするなら、ウェブでいいだろ! シャワーもないんじゃっ——。


「じゃあ僕はこれでっ」

「ああ……」


 天童墨華てんどうすみかは(※今日は珍しく、制服ではなく濃紺のミニスカートに、胸上までしかないセーラージャケットと小さなショルダーバッグをつけていて、露出度が高く……会った時ちょっとドキッとした)、偶然会って途中まで一緒に来ただけなので、通りを去っていった。


「しかしッ——起こるとすれば、何が起こるんだ……? 雛蜂は俺の顔を知らないから、最大限に悪い方に考えて、ここで待ち伏せているとしても誰が俺かはわからない」


 だが中に入ると、危機感はさらに強まった。単体では何でもない要素だが。


「見て見て……——っ♡」

「うわぁ……っ」

「あっち入っちゃおうかな——‼︎」

「あ、わたしもっ……」


 今日は銭湯の入口に部活帰りっぽい女の子たちや、みんなで遊びにきた感じの女の子がたくさんいた。


 受付を済ませて男子更衣室に入ると、そこで大きな犬が駆け出してきてぶつかりそうになり、慌てて避ける。

 すれ違い様に振り返ると、それは犬ではなくダンジョン原産——特定のスキルでテイムし、仲間にできる類の奴のようだった。


「何でこんなところに、っ。今日は随分混雑してるから誰か連れ込んだのかッ——」


 ガチャッ、と音を立てて着替えの個室のドアを開ける。


「⁉︎ ——」


 ◇


「引かれたかな……っ」


 家に帰ってきて自室、鏡の前に立つと天童墨華てんどうすみかは独り言を零した。鏡に映るは、胸下からローライズのスカートまでほんの気持ち程汗で艶がかったおなかを全部見せる服。するするとセーラージャケットを脱ぐと……。


「たまに私服を着たいと思った時にかぎって会うんだからっ。でも、どう思われても、これが僕の趣味だから仕方ないけどっ……——」




「——せっかくあそこまで行ったんだから、『一緒にどう?』って、誘ってくれたっていいじゃないかっ」



 ◇


「——なッ」

「病む……」


 いや、雛蜂ではなかった。雛蜂ではなかったのだが……!

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