第2話 秘めやかなる出逢い

シュンはカフェの常連である。


彼にとってこの場所は、仕事のストレスを忘れる隠れ家のようなものだった。


一方、ジュンコはこの街に越してきてから、ふと見つけたこのカフェを気に入り、たまの休日に一人で訪れるようになっていた。


ある金曜日の夕刻、シュンはいつもの窓際の席に座り、ノートパソコンを開いていた。


彼は週末のプレゼンテーションに向けて、最後の調整をしているところだ。


カフェは穏やかなクラシック音楽で満たされ、静かな集中を促していた。


外は徐々に暗くなり、店内の灯りが街の灯りと混ざり合って、ぼんやりとした温かみを放っている。


そんな雰囲気の中、ジュンコが店に入ってきた。彼女は柔らかな笑顔を浮かべながら店員に挨拶を交わし、シュンの隣の席に腰を下ろした。


シュンはジュンコの存在に気づいたが、特に意識することもなく作業に戻った。


一方のジュンコは、カフェラテを一口飲みながら、手に取った小説に目を落としていた。


彼女は物語の世界に浸りながらも、時折カフェの静けさに耳を澄ませ、周囲の空気を感じていた。


しばらくすると、シュンのノートパソコンのバッテリーが切れてしまった。


「ちっ」と小さく舌打ちをしながら、彼はコンセントを探したが、残念ながら手の届く範囲にはなかった。


そんな彼を見て、ジュンコは自分の席の近くにあるコンセントを指さし、「こちらをお使いになってはどうですか?」と静かに声をかけた。


シュンは少し驚きながらも、「お言葉に甘えて」と応じた。


彼はノートパソコンのコードをコンセントに差し込み、礼を言うと、ジュンコに「ありがとうございます」と言った。


ジュンコは微笑を返し、「いえ、どういたしまして」と答えた。その日はそれ以上の会話はなかったが、二人の間にはほんのわずかながらの絆が生まれたようだった。


翌週、シュンはまたそのカフェを訪れた。彼が注文をして席に着くと、ほどなくしてジュンコもやって来た。


彼女はシュンに気づくと、先週と同じように隣の席に座り、挨拶を交わした。


シュンは「またお会いしましたね」と話しかけ、ジュンコは「はい、たまたまですね」と応じた。


二人は自然と会話を始め、共通の趣味や興味について語り合った。


その日から、二人の関係は徐々に親密さを増していった。


プロローグで示唆された静かなる嵐の前触れは、こうして少しずつ形を成していくのだった。


彼らの対話は、日常の些細な出来事から始まり、やがて深い哲学的な話題にまで及んだ。


ジュンコは美術館が好きだと語り、シュンは自然を歩くことの静けさについて熱く語った。


二人の間には、言葉を超えた理解と、言葉にできないほどの信頼が芽生えていた。


彼らは互いの存在に対する感謝を心の中で感じながら、その場を後にした。


日々は過ぎ、季節は移り変わる。会うたびに、二人の間には見えない糸が紡がれていった。


彼らは自分たちの感情を自覚しながらも、それを隠し続けた。


二人の関係はあくまで友情という名の下に続いていたが、心の奥底では、もっと強い絆が結ばれていることを彼らは知っていた。


カフェでの出会いは偶然かもしれないが、彼らが繋がり続けることは運命のように感じられた。


ジュンコはいつも通りカフェラテを飲みながら、シュンの話に耳を傾ける。


シュンはジュンコの穏やかな表情を見ながら、彼女が話す言葉に心を寄せた。


彼らはそれぞれの生活に戻るが、心のどこかで次の出会いを待ち望んでいる。


そして、彼らの周りには秘密が渦巻いていた。


二人にはそれぞれ家庭があり、社会的な立場がある。


彼らの関係が表面化すれば、周囲を巻き込んで大きな波紋を広げることになるだろう。


しかし、この静かなる嵐は、二人だけの秘めやかな世界で静かに、しかし確実に力を増していた。

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