第22話 秀頼 対馬に現る
空想時代小説
今までのあらすじ
天下が治まり、日の本は諸大名の元、安寧の世の中になると思われた。
朝廷より武家監察取締役に任じられた秀頼は真田大助と上田で知り合った僧兵の義慶それに影の存在である草の者の太一と元山賊の春馬を伴って諸国巡見の旅にでた。越後からは身請けをしたお糸もいっしょで、駿府からは徳川家光も同行している。
秀頼らが諸国巡見を始めて4年目の春となった。秀頼28才、大助21才、家光17才、義慶23才、春馬26才、太一20才、そしてお糸は16才となっている。
春になり、秀頼らは黒田藩の軍船で対馬に渡った。船長は井上大膳の長子井上小弥太である。30才を過ぎた壮健な武将だ。ただ戦の経験はないという。初めての航海で緊張が見られたが、天候に恵まれ無事に対馬の厳原(いずはら)の港についた。
島主、宗義成(むね よしなり)が出迎えてくれた。義成は宗義智(よしとし)の長子だが若くして島主となっており、家康からは朝鮮との窓口役を任されていた。徳川家なき後も、九州探題である加藤清正は宗家にその役を任せていた。
館で義成に話を聞くことになった。義成は16才の少年武将であるが、どこかひ弱さを感じるところもあった。大助が義成に尋ねる。
「義成殿、海賊が横行していると聞いてまいったが、いかがかな?」
「はっ、一年ほど前から出現しはじめ、対馬近海の島々を荒し始めました。その度に駆逐していたのですが、神出鬼没で追い払ってもまた出てまいります。それで、島の人々が島を離れていき、無人島化してしまい、そこが海賊の巣になるという始末。今では西のはずれの海栗島が海賊の本部となっております」
「海賊は100艘ほどの船をもっているというが・・」
「はっきりとは分かっておりませぬ。ただ、それぐらいはいると思っております」
「大きな船は?」
「多くても10艘ほどかと・・海栗島には常時5艘は滞留しております。小島の陰にもいると思われます」
「して、海賊の数は?」
「はっきりとはわかりませぬ。海栗島だけで200はいると思います。小島もいれたら1000はいくかと・・・」
「相当な数だな。こちらの勢力は?」
「わが藩の者で1000。今回応援に来ていただいた黒田藩が200。ほぼ同数と思われます」
「となると、戦略が必要だな。海栗島に力攻めをしたらどうなる?」
「他の小島から応援がきて、囲まれまする」
「だろうな。小島をひとつずつつぶすのは?」
「すぐに逃げられます。われらが引き揚げたら、またやってきます」
「ふんだりけったりだな」
しばし沈黙の時が過ぎた。そこに、井上小弥太が口を開いた。
「われら黒田藩が海栗島に攻め込みます。新式大砲を積んでおりますし、ある程度やれると思います。海賊どもに囲まれたら宗藩の方々でそこを突破していただきたい。うまくいけば、それで海賊を負かすことができると思います」
またもや沈黙が続いた。黒田藩は海賊に慣れていない。大砲を撃ったところで、小舟で囲まれたら太刀打ちできるかどうか分からぬからだ。大助が口を開く。
「むしろ、宗藩の大型船がきりこみ、それが囲まれたら黒田藩の大砲でやっつけるというのはどうですか」
そこにいる皆がうなずいた。秀頼が
「その方が無難だな。義成殿には先陣をお願いすることになるが、いかがかな」
「わが藩のこと。かって出ても先陣をお引き受けいたします」
数日後、海栗島への攻撃が始まった。夜明けとともに宗藩の大型船2艘が切り込む。不意をつかれた海賊側は右往左往していたが、やがて小型船がウンカのごとくくり出していた。大砲でねらってもなかなかあたらない。せいぜい衝撃の波で転覆させるのが関の山で。その内に海賊の大型船4艘がやってきた。こちらも大砲を積んでおり、砲撃戦が始まった。宗藩の2艘が苦戦している。そこに黒田藩の大型船2艘が島影からやってくる。新式大砲は射程距離が長い。運よく、海賊の船に命中する。1艘が沈むと敵は散り散りになり始めた。しかし、宗藩の大型船には海賊が乗り込んできて、斬りあいが始まっている。その内の1艘には大助・家光・義慶・春馬・太一が乗り込んでいる。家光は、
「この日のために新兵訓練をしてきたのじゃ。えーい、相手せい!」
とどなりながら刀を振り回している。なかなかの奮戦ぶりだ。大助は舵場を死守している。義慶と春馬は船に上ってくる海賊を上からたたき落としている。太一の手裏剣が効果的だ。
しかし、宗義成が乗った船が火をだした。引き揚げの合図が鳴った。海賊も大型船1艘を失ったので、引き揚げていった。初日は引き分けに終わった。
厳原の港までもどってきて、船の修理とけが人の手当を行った。大助が腕に傷を負っている。舵を守ることに集中していて、矢を受けてしまったのだ。お糸が甲斐甲斐しく手当をしている。
次の戦いの準備をしているところに、井上小弥太から提案があった。
「正面攻撃をしていたら、今回のような犠牲がでるのは目に見えています。そこで、島の裏から上陸部隊をあげて海賊の本部をおそわせます。その混乱に乗じて、大型船が攻撃をしかけます」
「それでは船の大砲が使えないではないか」
「上陸部隊は決死隊でござる。わが藩の半数がこれにあたります」
秀頼はしばらく考えて
「それはならぬな。無駄死にはさせたくない。ましてや、味方の砲撃で死ぬなどもってのほかじゃ。むしろ大型船の攻撃を先にさせて、海賊を海に呼び出したところを上陸部隊に襲わせてはどうか?」
それを聞いた井上小弥太は、
「秀頼公のお考え見事でござる。それならば死ぬ者は少なくすみます。それでは船の修理が終わったら早速攻撃しましょう」
ということで、火災をだした船の修理が終わった数日後、またもや海栗島に向かった。今度は闇にまぎれ進み、100人ほどが上陸した。この中には大助ら5人も入っている。家光はやる気まんまんである。
夜があけて4艘の大型船で攻撃をかける。横一列になって大砲を撃つ。横に長いので海賊たちは船を取り囲むのが難しくなった。大型船が出てきたが、黒田藩の新式大砲の餌食になる。小型船がやってくるが、弓矢や種子島の的になるだけだった。その内に海賊の本部で火がでた。上陸部隊が焼き討ちをかけたのだ。それを見た海賊どもは散り散りに去っていった。
宗義成の船で「エイエイオー!」が聞こえる。それに応じて井上小弥太の船でも歓声があがる。
海栗島にいた海賊の残党は全員がつかまった。その数、100。死んだ者もいれれば200は減った計算だ。まだ800ほどの海賊が残っているが、後は小島の部落だけだし、多くの者が朝鮮本土にもどっていったようだ。
厳原の港にもどってきて話し合いをし、残党狩りは宗藩と黒田藩の大型船1艘があたることになった。秀頼らは井上小弥太の船で小倉にもどることになった。黒田長政が危篤という知らせがきたからだ。
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