鯉とカエルの恋物語……

黒兎 ネコマタ

日常と出会い

「ほら、朝ごはんだよ〜」


そんな声と共に水面に落ちてきたのはエサ。毎朝毎晩落ちてくるこのエサは決して高級なものではない。まるで裕福とも貧乏とも言えないような飼い主の家を表しているかのようなエサ……


ボクはそれをいつも通りパクパクと食べた。何も思わない。美味しいとも、飽きたとも。そりゃそうだ。こうしてエサを食べ泳ぎ寝るだけの毎日を続けて早数年……飽きた、と思うことにさえ飽きてしまった。この感覚は人間には分からないだろうな。


目の前でボクの食べる様を眺めているのは人間の少女。小学生になった云々、4ヶ月程前に言っていたのでそのくらいの年齢なんだろう……あまり人間の年齢については詳しくない。ボクより長生きするってのは昔、誰かに聞いたけど。


まぁ、ボクの毎日ってのはこうして人間の少女に朝晩エサを貰い泳ぐことで時間を潰し夜に寝る。それの繰り返しなんだ。そして、これからもそれが続くんだって思ってた。そう、彼女が訪れるまでは……


 ◇ ◇ ◇


「こんにちは、いい天気ね」


頭上から降ってきたのはそんな声だ。視線を上げると

こちらを覗く小さい影があった。


「あ、えーと……」


ずっと一人で暮らしていたボクは初めて声をかけてきた相手に何と返せばいいのか分からなかった。そうですね、とでも返せば良かっただろうか……確かに今日は雲ひとつない快晴だ。水温も結構高い。


「私はアマガエル。あちこちを旅しているの」


アマガエル……。アマガエルは毎年人間が田植えをし始める時期に現れてはこの池に卵を産み付ける奴らだ。今年も産み付けて行ったので美味しく頂いた。毎年お世話になってます。


「た、食べるの……?」


さっきまで強気だったアマガエルが少し怯えたような気がした。あ、そっか。アマガエルからしたらボクは同族が食った危険人物なのか……


「別に嫌なら食べないよ……どーせエサは貰えるから」


ボクの口癖は「どーせ」だ。何に対しても、どーせどーせ言ってる。だってこの池の毎日は変わらない。何かあってもどーせ元通りに、いつも通りになるだろう?


「あなた、退屈そうね」


アマガエルはそう言った。退屈……確かにそうだ。ボクは退屈している。この変化のない毎日に。実際、感情なんてものは殆どなくなってしまっていると思う。


「アタシを食べないって約束してくれるなら別に話し相手になってあげてもいいわよ?」


アマガエル──カエルは高飛車な感じに言ってくる。それに対してボクが返す言葉は簡単だ。


「別にどうでもいい」


ちょっと冷たいかな、と思ったりはした。けどボクは別に変化を求めてない。退屈だけどこの狭い檻の中でなら不自由なく暮らせる……どーせボクがここから出られないのは変わらないからね。


「分かったわ。アタシの話が聞きたいのね。照れなく

てもいいのよ♪」


いつの間にかボクの隣に泳いできていたカエルは上機嫌だ。何をどう勘違いしたらそうなるんだろう……


「外の世界はスゴイのよ」


ボクの沈黙をどう受け取ったのか知らないがカエルが語りだす。外の世界、か……ボクには何も関係ない話だな。そう結論付けたボクは左から右へとカエルの話を聞き流し続けるのだった。

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