第50話 膝枕する姉

~姉視点~


 今日で無事に全ての試験が終わった。いや~勉強会やって良かったなぁ。手ごたえめっちゃあったし、いい成績とれそう。みんなのお陰だ。成績発表は夏休みの終わりごろではあるけど、今から楽しみ。


 さて、そんな私は今、リビングのソファに座ってスマホで動画を見ている。しかし内容は全く頭に入っておらず、私は別のことを考えていた。


「な~んか違和感あったんだよなぁ…。」


 というのも、今日試験が終わって皆と合流してから、なんだか美優の様子に違和感があった。うまく言葉で言い表せないが、なんかいつもと違う気がした。なんだろ。


「私の勘違いかなぁ…。」


 この違和感の正体が分からない。何かあったかと他の二人に聞いても首を横に振られたし。


「う~む…なんだぁ…?」


「どうしましたか?」


「ん~?なんかね、今日美優の様子に違和感が……って美優!?」


 私がうんうん唸っていると、いつの間にか美優が近くにいた。


「はい、美優です。ところで私に違和感ってどういうことですか?」


「えっ?う~ん…あ~、ちょうどいいや。ちょっと隣座って。」


 どうせ一人で考えてても結論は出ないだろう。直接本人に聞くことにした。


「…?わかりました。」


 私に促され、美優が隣に腰をおろす。


「座ったね。じゃあちょっと失礼。よいしょっと。」


「わわっ。」


 肩を引き寄せ、頭が私の膝の上にのるように美優の体を倒す。いわゆる膝枕だ。やってから思ったが、恥ずかしいなこれ。お風呂はもう入ったから匂いは大丈夫だと思うけど…。ちょっと大胆過ぎたかも。


「ごめん、やっといてアレだけど恥ずかしいからあんまり匂い嗅がないで…。」


「は、はい。なにもしません。上を向いてます。」


 美優が体を強張らせて仰向けになり、私を見つめてくる。


 って、ん?なんか美優も緊張してる?もうちょっとこう、いつもみたいに小悪魔チックな返答をしてくると思ったのに。


「えっと、まぁそんな緊張しないで。リラックスリラックス。ちょっと聞きたいことがあるだけだから。」


「わ、分かりました。なんでも聞いてください。」


 ん~、まだ硬いけど、さっきよりはマシになったかな。


「うん、じゃあ聞くね。ん~と、今日なんかあった?」


「……なにもありませんでしたよ?」


「え~、ほんと?」


「…はい。」


「そっかぁ…。ん~、じゃあ私の勘違いだったのかなぁ…。」


 美優もこう言ってるし、私の思い過ごしなのかもしれない。でもなぁ…私のカンがなんか違うって言ってるんだよなぁ…。むむむ…。


「…ちなみに、どうしてそう思われたのですか?」


「え?ん~、本人に言うのもちょっとアレだけど、なんか今日の美優いつもと違うなって思って。緊張してるといえばいいのかな?なんか重い決断をした後みたいな雰囲気があるなって。だけど、サッパリした雰囲気もあるんだよね。…ちょっとよくわかんないよね、ごめん。」


 意外にも私が感じていた違和感の正体がすんなりと口から出てきたが、自分で言ってて何言ってるのかよくわからなかった。


「なる…ほど。……ふぅ。そうですね、正直に言いますと、実はちょっとありまして。」


「あ~、やっぱりそうだったんだ。なんかごめんね。無理に聞きだした感じになっちゃって。」


 もうちょっとこう、お姉ちゃんとしてスマートに聞きだしたかったんだけど、上手くいかなかった。


「いえ、問題ありませんので気にしないでください。……しかし、私に何かあったとなぜ分かったんですか?」


 あっやべっ、特に理由らしい理由なんて無いんだけど…。どうしよう、なんて言おう…。


 ポーカーフェイスで微笑みの顔を浮かべるが、冷や汗が垂れそうになる。


「…お姉さま?」


 正直に言っちゃうと、カンだ。でもこれ言ったら幻滅されない?私だったらカンでこんなにグイグイこられたらキレるよ…?美優はキレないでね?私泣いちゃうよ??


「…あ~、その…私のお姉ちゃんとしてのカン…です…。」


「お姉ちゃんとしてのカン…ですか。」


「ぴぇっ、謝るからキレないで!!」


 せめて叩くなら痕が残らないところにして!!お願い!!


「キレる…?何故ですか?」


「えっ?あっ、いやなんでもない。気にしないで。」


 なんかよくわからないけど、美優はキレてないらしい。なんか知らんが助かった…!


「分かりました?…それにしても、カンで分かってしまうとは…。ふふっ、やはりお姉さまにはかないませんね。」


 私の目を見つめて微笑む美優。うん可愛い。その可愛さプライスレス。


「実は私、数日後に人生最大の挑戦がありまして。それをすると決心したのが今日だったので、いつもとは雰囲気が違ったんだと思います。」


「あ~、なるほどねぇ。…ん~、でもそっかぁ。悪いことがあったわけじゃないならよかった。」


「はい。そこはご安心ください。」


「うん、よかったよかった。それと、何に挑戦するのかは分からないけど、私は全力で応援させてもらうね。」


 私も微笑みながら美優の頭を撫でる。美優は体の硬さがさらに抜け、完全にリラックスするようになった。


「…ありがとうございます。その応援が私に勇気をくれます。…私、この挑戦は絶対に成功させたいのです。その…ですから、お姉さまも私が成功することを祈ってくれますか…?」


「もちろん。美優なら絶対大丈夫。私の自慢の妹だもん。どんな挑戦であっても、美優なら絶対に成功するよ。お姉ちゃんが保証する。」


「…ふふっ、本当にありがとうございます。これで安心して挑戦できます。数日後を楽しみにしていて下さい。」


「うん、良い結果を楽しみにしてるよ。」


「はい。…もう少しこのままでも良いですか?」


「いいよ、気が済むまでこのままでいて。」


 私は美優の頭を撫で続けながら、可愛い妹の挑戦が成功するよう祈る。


 神様、この願いは絶対に聞き届けてくれ。私の可愛い可愛い妹の人生最大の挑戦なんだ。必ず成功させてくれ。頼むよ。




 美優の人生最大の挑戦…絶対に成功しますように…。

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