第46話 妹と料理をする姉

〜姉視点〜


 今、私たちは萌ちゃんのお家のキッチンに立っている。美優は長い髪を萌ちゃんに借りたゴムで縛っており、普段は見えないうなじが見えてちょっとドキドキする。


 全員が手を洗い終えると、萌ちゃんが話し始めた。


「皆さんちゃんと手を洗いましたね!じゃあ早速作り始めましょう!…って言いたかったんですけど、何作りましょうか?うち的には夏野菜カレーなんかどうかな~って思っていたんですが…。」


「ほうほう、いいね!カレーなら初心者でも作りやすいし、ちょうどいいと思うよ。」


 カレーならそこまで難しくもないので、初心者でもある程度の味は保証される。それに、料理できる組の私と萌ちゃんが主導するんだから、万が一にも不味くはならないでしょ。多分。


「私も異論ありません。」


「アタシも。料理ができる組が難しくないって言うならそれを信じるしかないし。」


「じゃあ決まりですね!調理器具が人数分あるわけでもないので、2チームに分けて作りましょう!私と千咲先輩でご飯を炊いたり付け合わせを作ったりしますね!お姉さんと美優にはカレー作りをお願いしてもいいですか?」


 萌ちゃんがこっそりとウィンクをしてきた。…なるほど、ここでカッコよく料理を教えることで美優の好感度を稼げってことだね?まっかせんしゃい!ばっちりと頼れるところを見せようじゃないか!!


 ………ん?あれ?萌ちゃんに私が美優に恋しちゃったことって伝えたっけ?ん~?まぁ知ってるってことはどっかのタイミングで言ったんだろうな。


「ん、りょ〜かい。じゃあ野菜を切るところから始めようかな。使っていい野菜教えてくれる?」


 萌ちゃんに使っていい野菜を聞くと、冷蔵庫を開けて教えてくれた。


「はい!ここからここにあるものなら使って大丈夫です!カレーの用意お願いしますね!」


 なす、パプリカ、トマトなどなど…。これだけ種類あると、良い感じに具だくさんのカレーが作れそうだ。


「おっけ〜任せて。」


 そんなわけで、四人のカレー作りが始まった。


 …が、なにやら向こうのチームが騒がしい。聞き耳を立てると、どうやらちーちゃんがご飯を洗う際に洗剤を使おうとしているらしい。萌ちゃんが必死に止めている。がんばれ萌ちゃん…。


 てか本当に洗剤を使おうとする人っているんだ…。そうやって洗ったものを食べるの嫌じゃね??


「さ、さて美優、あっちは萌ちゃんに任せるとして、私たちはカレーを作ることになった訳だけど、包丁は使ったことある?」


「完全にゼロという訳ではありませんが、ほとんどありませんね。」


「おっけ~、なら一応最初から教えておこうか。お手本を見せながら教えるね。」


 先に下処理だけを終わらせたパプリカをまな板の上に置く。


「まず、包丁を使うときは左手を軽く握り、ネコちゃんの手にします。そうしないと指を切っちゃうからね。」


 左手を軽く握り、ネコの手を作る。


「猫の手ですね。こんな感じですか?」


「そうそう上手。これで私も美優もプロのネコちゃんだね。にゃ~にゃ~。」


 丸めた左手を招き猫のように振る。にゃ~。


「ん゛っ…。」


 なにやら急に悶えだした美優を不思議に思いながらも、左手をパプリカに添える。


「左手を野菜に添えたら、後は切るだけ。包丁は金属の部分を親指と人差し指で摘まむようにして使う感じでいいかな。これで奥から手前に引くように包丁を動かせば野菜が切れるはず。」


 パプリカがスーッと切れていく。


「後は高い場所から振り下ろそうとしたり、早くやろうとして指を切ったりしなければ大丈夫。最低限今言ったことを守ればちゃんと野菜が切れるはずだよ。じゃあやってみよう!」


 横に立つ美優に包丁を渡す。


「ありがとうございます。…その、一人でやるのは少々怖いので一緒にやってくれませんか?」


「一緒に?いいけど…どうやるの?」


 まな板は一枚しかないし、使える包丁も一本しかない。これで一緒に…ってどうすればいいんだ?


「決まってるじゃないですか。私の後ろに立って、私の手にお姉さまの手を重ねてください。」


「…ええ!?それ恥ずかしくない!?」


 美優に抱き着くような体勢になって、しかも私から手を重ねるなんてめっちゃ恥ずかしいじゃん!!


「そうですか?私は料理したいだけなので何とも思いませんよ?」


「うっ…。」


 それじゃあまるで私が変に意識してるみたいじゃないか。いやまぁそうなんだけど。


 …はぁ~~~~~、美優も私にドキドキしてくれないかなぁ…。


「早くしないと晩御飯が遅くなってしまいますよ?」


「むむむ……しょうがない。じゃあ後ろに立つからね?」


 美優の後ろに立ち、ほとんど抱き着くような体勢になる。美優の体温や匂いが感じられて顔が赤くなる。目の前のうなじに目が吸い込まれそうになるが、チラ見するだけでどうにか我慢する。


 この立ち位置だと赤くなった顔を美優に見られなくて済むけど、私の心臓のバクバクが伝わってないか不安になる。


「じゃあ一緒にやるよ?」


「はい、お願いします。」


 重ねた手に力を入れ、美優と一緒にパプリカを切っていく、そのまま一口サイズまで小さくしていくと、良い感じに食べやすそうな大きさになった。


 …よし、上手に切れた。なんだかんだ言っても美優に良いところは見せたい。これで少しはカッコいいって思ってもらえたかな?そうだといいな。


「うん、上手に切れたね。今みたいな感じでやっていけば一人でも―――」


「よく分からなかったので、もう一度お願いしてもいいですか?」


 これなら任せられると思って私は違う作業を始めようとしたが、美優に遮られてしまった。


「んん??いやでも綺麗に切れ―――」


「もう一度お願いします。」


「でも私がいなくても―――」


「もう一度お願いします。」


「……はい。」


 圧によってゴリ押しされた私は頷くしかなかった。そして、一つの野菜を切り終わるごとに詰め寄られ、結局全ての野菜を切り終わるまで、私が美優から離れることは出来なかった。


 ……ドキドキしっぱなしの私の身にもなってよ!!!


 そんなとこもあったが無事に夏野菜カレーが完成し、ちーちゃんと萌ちゃんが作ったあり合わせと共に晩御飯になった。四人で作った晩御飯は達成感もひとしおで、とっても美味しかった。……萌ちゃんがちーちゃんの手綱を握ってくれて本当に良かった。




 …それに、私は美優と料理するっていう良い経験ができた。こんな機会を作ってくれた萌ちゃんに感謝しないとね。

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