第11話、熱血全力少年と見賢思斉の弟、その好奇心に危険はあるか




降り立った駅は馴染みの駅、と言えばそうだったろう。

里帰りする時は、一つ前の新幹線駅で降りてローカル線に乗るか、ここからローカル線に乗り換えていくわけだが。

駅の周辺は都心に及ばずとも中々賑わっているので、何度か降りたことがあったからだ。


「二人ともこっちこっち」


改札を出ると、大きな通りの丁字に差し掛かる。

目に入る看板には三輪ランドがどちらなのかは書いてないからどっちに行けばいいのかって迷ってたんだろう。

オレは二人を促すように、そんな事を言う。


「あ、そっか、雄太くん地元だっけ」

「あー、隣町だけどね。遊びには結構来てたんだ」


オレたちは、そんなやり取りをしつつ。

どちらかと言えば賑わっている方へと進路を取る。

何故ならばそちらにバス停があるからだ。


「さすが、リーダーに選ばれただけはあるわね」


進む足に迷いのないオレに、感心したように中司さんが言うから、少し得意げになっていたオレだったけれど。


やっぱり、そううまくはいかないらしい。

バスは三輪ランドの閉鎖とともに廃止になってしまったらしいことが分かって。

三輪ランドがある山(そう、三輪ランドは山の頂上付近にあるのだ)の麓までで、オレたちはバスを降りる破目になってしまった。


「感心した側から、いまいちツメが甘いわね」

「面目ない」


そんな事言われたってしょうがないじゃないかっ。

などとは怖くて言えるはずもなく。


三輪ランドは駅に降りてバスに乗り、三十分くらいの所にあるらしいのだが。

バスはだいぶ前に廃止されていて、結果、長い山道を二時間強ほど歩く羽目になってしまった。

歩きということで、中司さんあたりが不満をこぼすんじゃないかって思ってたんだけど、しかし彼女は思っていたよりもタフだった。

楽しそうな快君と競うように、ずんずんと先へ進んでいってしまう。

むしろオレが置いていかれそうな、二人の張り切りぶりだった。


地方都市と呼ばれるだけあって、街の中心部から離れればすぐに周りの状況は一変する。

運良く見つけた『この先、三輪ランド』という古ぼけた看板が見えてくる頃には民家などもまばらになり、車通りもほとんど無くなっていて。


正真正銘の山道に入ったのだろう。

ただ、全く車が通らなかったわけではなかった。

大きなバスが一台、オレたちを追い越していったのだ。

観光用の背の高いやつで窓には紺色の日よけがあり、中を伺い知ることは出来なかったが。


「あれ? 大きなバスだったね。遊園地、お客さんまだ入ってるのかな?」

「そんなわけないでしょ。路線バスが廃止になってるのに。きっと山の反対側にでも通じているのよ」


中司さんの言うことはもっともだったが。

しかしそれ以降、オレたちを追い抜く車の姿はなかった。


ただ、同じようなバスが進行方向からすれ違っていっただけで。

さらに、中司さんに意見を否定するかのように、山の頂上まで続いていた道を、遮るかのように巨大な鈍色のアーチが出迎えてくれる。


行き止まりだ。

まぁ、もしかしたら反対側まで歩けば抜けられるのかもしれないけれど。

でんと構えるそのアーチには、『ようこそ!三輪ランドへ!』の文字。

それをくぐると、同じく灰色をした物々しい錠前のついた扉と、寂れた券買所があった。



「うーん、門、閉まってるね。やっぱり入れないのかな?」

「それじゃあ、さっきのバスはなんなの? たぶんだけど、あのバスはここに人を降ろして帰っていったんじゃないかしら」


快君が少し眉を寄せてそう言うと、すぐに中司さんが言葉を返す。


「えっと……あ、ほんとだ。さっきまでここにたくさんの人達がいたって言う形跡があるよ。まだ新しい足跡、しかもかなりの人数だな」


券買所の脇の辺りがやわらかい砂状の土になっていて、そこに多くの足跡があるのが、遠目からも分かった。


それは、閉ざされている門の方へと続いている。

公園の砂というよりは、海岸近くの波風にさらわれ、古いレンガ倉庫の隅にたまっているような砂だった。

そう言えば、大昔はここも海だったんだっけって思いながら、オレも中司さんの意見を肯定する。


「それじゃ、中に入れるかな?」


快君がオレたちの言葉を受けて、券買所のカウンターを覗き込む。

中司さんもそれに倣い、同じように大きな門の側を調べ始めたので。

オレも、どこか他に裏道が無いものかと見回してみる。


前方には、到底上れそうもない白塗りの壁、背後には今来たばかり道が当然広がっていて、左右……その周りには、鬱蒼とした木々が茂っている。

その木々は、まだ紅葉の時期ではないのか、それともそういった種類のものではないのか、黒いという表現してもいいくらい、青々としていて。



(さすがに、この森の中、行くのはなあ……)


仮に他に裏口があったとしても、できれば足を踏み入れたくない。

そんな漠然とした気持ちが、オレの中にはあった。


それは珍しいことでもある。

オレは山登りが大好きなのに、どうしてそう思うのかと。

そんな、霊感めいたものはオレにはないはずなのに。


とはいえ、正規の入り口から入れないならそこから行くしかないのだろう。

オレが、そう考えを纏めた時。



「あれ、なんかあるよ? よいしょっと」


カチッ。

カウンターを覗き込むようにして前かがみになっていた快君がふいに声をあげたかと思ったら。

何かスイッチでも押したかのような小さな音がして……。



突然大きな歯車が稼動するかのような音と軋みがして。

大きな錠前がゆっくりと開いていく!


「じ、地震っ?」


思わずそう叫んでしまったほどに、豪快な揺れだった。


「ちょっと、何をしたのっ?」

「えーっと、カウンターの裏側のところに、いかにも押してくださいって感じのスイッチがあったから押しちゃった」


開いた扉のおかげで盛大に舞った砂埃を払いのけながら、中司さんがあっけにとられ、驚いてそう叫ぶ。

一方の快君は「結構ボクってすごい?」って感じで、誤魔化し笑いをした。


何というか、悪びれないな。

オレも昔、地下道とかにある自動階段のスイッチを好奇心に負けて押したこととかあるけど、そのとたん馬鹿デカイ音量で機械が騒ぎ出して、あの時は焦ったんもんだよなぁ、なんて思い出す。


「さすが快君、抜け目ないな。それじゃとっとと中に入っちゃおうか。人が来たら面倒だし」


ひょっとしたら、何の収穫もないままここでとんぼ返りかもなんて思っていたオレとしては願ったり叶ったりだ。

その先にある世界への好奇心を抑えきれずに、そう言って二人を急かす。


「ま、もともとそのために来たんだし」

「うん! じゃあ早速入ろっ」


案の定二人も乗り気で、躊躇無く中に入る事となったのだった……。



   (第12話につづく)






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