第31話 魔法

ぼくとミレイユは今日も森に来ていた。

ミレイユは最初から乗り気だったようで・・。


「ツカサ悪い、うずうずしてきちゃった。ちょっと暴れてくる。」


物騒なセリフを残し、ミレイユは森の奥へ入った。

冒険者の方が元々性に合っていたのだろうか。

どうやらモンスターを倒すのが好きだったらしい。

嫌々勇者をしていたのかと思ってたけど、そうでもなかったのか。


「これで気兼ねなく、戦えるな。」


どうも人が見ているとやりづらくて仕方ない。

以前からそうなのだ。


「久しぶりに魔法使ってみるか。」


草むらからホーンラビットが顔をのぞかせた。

ぼくは氷の刃を出現させる。


「アイスランス」


ホーンラビットは飛んで跳ねたが、氷の刃はいとも簡単に命中する。

魔法で簡単にコントロール出来る為、どれだけ移動しても外す事はない。


「手ごたえが無さすぎる・・。」


冒険者ランクは上がるだろうけど・・。

もっと強いモンスターが出るところへ行かないと駄目かもな。

ホーンラビットの死骸をアイテムボックスに収納し、ぼくはミレイユの後を追った。

森の奥へ行くほどレベルが高いモンスターが生息していたりする。

この森も同様のようだった。


森の奥へ行くほど歩きにくくなる。

木の根とか滑りやすい、注意しないと。

ふかふかの落ち葉を踏みながら歩いていく。


何か聞こえてきた・・・。

まさか、苦戦してるのか?

苦しそうなミレイユの声が聞こえてくる。


「はぁはぁ・・少しの間にだいぶ腕が鈍ってしまったようだな。」


「ミレイユ?」


「ツカサ?来たのか!」


「ちょっと油断した・・。ブラックベアごときに情けない・・。」


ミレイユは木に寄りかかっていた。

右肩を怪我しているようだ。


ぼくは手のひらから魔法を打ち出す。


「ファイヤーアロー」


火の矢がブラックベアめがけて飛んでいく。

矢はブラックベアに当たり一瞬にして燃え広がった。

熊は生きたまま焼かれ絶命した。


「容赦ないな・・。助かったよ。」


ぼくはミレイユに近寄り、右肩に手をかざした。


「ヒール」


「え?回復魔法も使えるのか?」


攻撃魔法と回復魔法を使える人は滅多にいない。

ぼくは珍しくほとんどの魔法を使えるのだけど。

人前でもあまり使ったことは無い。


ミレイユは惚けていた。

「驚いた・・ツカサは賢者並みだな・・。本当のレベルはいくつだ?」


「さあ?計ったこと無いから分からない。」


ぼくは家族にさえ本当のレベルを明かしていないから。



****



いつ頃だっただろうか。

一番小さいころの記憶。

ぼくは庭で一人遊んでいた。


そこには居ないはずの小さいモンスターに襲われる。

ぼくはとっさに体を屈めた。

目をつぶったその時・・小さいモンスターは死んでいた。

訳が分からなかったけど、助かってほっとする。

後になって知ったことだが、ぼくが何らかの魔法を発動させたようだった。


それからぼくは魔法の力加減が出来なくなっていた。

屋敷のメイド達にも怪我を負わせてしまうくらいに。

大した怪我では無かったが、ぼくにとってはショックだった。


ぼくは自分の部屋に引きこもるようになる。


「怖い・・外に出たくない・・・。」


「ツカサ入るぞ。」

父が部屋に入ってきた。


「少し訓練したほうがいい。人に怪我を負わせたくないだろう?それから回復魔法も出来たら覚えようか?」


それから、ぼくと父の特訓が始まった。




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