第22話 彼女の実家

「家に招待するのが恥ずかしいなぁ・・・。」

ミレイユは突然そんな事をいいだした。


「家は普通の庶民だし、ツカサの家みたいに立派でも無いし・・・。」


「気にしなくていいよ。あ、泊まるところが無いとか?」


「確かに家は狭いから大勢は無理かも・・・。」


ぼくとミレイユだけだったら良かったのだが、護衛の人が2人、馬車を率いている人が1人いた。

あまり考えていなかった。

まあ、悪いけど野宿でもしてもらうかな。


田園風景が続く。

今は果実が実る季節だ。


キルル村に到着する。

村人が家から出てきた。

貴族が珍しいのかもしれない。


「貴族様が、こんな田舎に何をしに来なさったんで?」


クワを持った村人が馬車に近づく。

歓迎するという雰囲気では無さそうだ。


「わぁ、ちょっと待って!」


慌てて、馬車のドアを開けるミレイユ。


「私はミレイユ。何か誤解しているようだが、実家に帰ってきただけだから・・・。」


「何をお貴族様が・・ってえ?ミレイユじゃねえか!」


男はミレイユに親しげに話しかける。

「相変わらずだな、ソリン。よく考えてから行動したほうがいいぞ。」


ミレイユの知り合いのようだった。

「ツカサ、この人は幼馴染のソリンだ。荒っぽいけどまあ良い奴だから。」


ぼくとミレイユは馬車から降りた。

やはりこの村には泊まるところがないみたいで、他の人には悪いが野宿してもらうことにした。

歩いて、ミレイユの実家に向かう。

そういえば、結婚前とかに許可を貰いに行くのが普通じゃなかったっけ?

明らかに順番が逆である。


「ここが私の実家だよ。」


ミレイユはドアを開けた。

中を見ると、ぼくが住んでいた小屋に似ている気がした。

もう少し広いみたいだけど。


「帰ったよ、誰かいる?って・・。」


ミレイユに金髪の男の子が抱き着いてきた。


「アルフ何だ、そんなに寂しかったのか?」


男の子の頭を優しく撫でるミレイユ。

顔立ちが少し似ているので弟なのだろうか。


「お父さんとお母さんは居ないんだ。山行って、獣を狩ってくるって・・。」


「そっか。」


「この人は誰?」

アルフはぼくを指さした。


「ああ、私結婚したんだ。えと彼はツカサっていうんだ。」


10歳位だろうか。

じーっと見つめられる。


「ゆうしゃはどうしたの?」


「あ~お仕事はちゃんとやってきたよ。」


「誰か居るのか?」


低い男性の声がした。


「ミレイユか?どうしたんだその恰好!」


「ただいま、父さん。お母さんは?」


「すぐ、戻ってくるよ。」


ぼくはミレイユの父親にじろりと見られている。

居心地悪いなぁ。


ぼくとミレイユは客間に通された。


「えっと、それでただ帰ってきたって感じじゃなさそうだな?」


ミレイユの父親と母親の前で、ぼくは今までにないほど緊張していた。

変な汗が出てくる。


「・・実は私、結婚したんだ。」

ぼくが口を開くより早く、ミレイユが言葉を発した。



周りの音が消えたようだった。

時が止まったのだろうか。

ミレイユの父親が聞き返した。


「何だって?」


「だから、私この人ツカサと結婚したんだってば!」


ミレイユの父親の顔が青白くなり、床に倒れこんでしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る