第11話 実は…。

「ちょっといいでしょうか。」

執事のトステルが真剣な表情で声をかけてきた。


「ツカサ様お話したいことがあるのですが・・・。」


「あ、うん。ちょっと待って。」


今、ミレイユとお茶をしていた。

フカフカの椅子に座って、優雅に紅茶を飲みながらクッキーをつまんでいたところだ。

のんびりくつろいでいたところにトステルから声がかけられた。

口の中のクッキーを食べ切る。


「隣のお部屋に・・。」


別に場所を移さなくてもいいじゃんか。

ぼくは少し機嫌が悪くなる。

面倒くさい。

場所を移して隣の部屋に来てドアを閉めた。

もしかして聞かれるとまずい話なのだろうか。


「坊ちゃま勘違いをなさってるようなので、伝えておこうと思いまして・・・。」


「どうしたの?」


立ちながら話を聞く。


「旦那様が亡くなられましたが・・爵位しゃくいはツカサ様に引き継がれます。」


「・・そうなんだ。知らなかった。」


実は少し前に知った。

少し前・・父が残した魔法のメッセージのお陰で知っていたのだ。

昨日の事だったけどね。

ぼくは全く興味が無かったので、トステルに聞きもしなかったのだけど。


「とは言っても・・まだお若いので、色々勉強なさったほうが良いのではと思います。」


「そっか。考えておくよ。」


ぼくはそう言って、部屋を出る。


今はミレイユとのんびりしたい。

それは後でもいいや。


トステルは思いもよらない返答だったのか、しばらく考え込んでいる様子だ。


ぼくが余りにも余裕だったのが不思議だったのかもしれない。


昨日のノートの一件(気を失った時)で、父から莫大ばくだいな知識を引き継いでしまって頭がいっぱいなのだ。

あれ、魔法なのかな?

聞いたことも無い。

それで昨夜はよく眠れなかった。

お陰で不安は無くなったけど・・・。


父がコーヒーという飲み物を開発できた事。

生前に聞いたら、ご先祖様の日記を見て思いついたと言っていた。

あれは真っ赤なウソだったのだ。

正直に話しても信じてもらえないと思ったのかもしれない。


父と母は異世界の記憶があったらしい。

その世界の再現を試みたようなのだ。

その他・・仕事の事など、普通では知り得ない事を沢山託された。


仕事とか、ぼくが急に始めたら絶対不審がられるやつじゃないか。

細々とした事はキャメロンさんに任せればいいって言ってたし。

そうしないと色々不安だ。


せめて今日くらいは休ませてほしい。

これからやらなくてはいけない事が沢山あるのだから。


「はぁ~。」

ぼくは壁に寄りかかり、深いため息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る