産まれる前から世界征服! ~凶悪ワガママ胎児(生前10カ月)が覇権を目指し唯我独尊やりたい放題~

sorami

プロローグ



 主よ――――聡明にして慈悲深く、万物の原初でありかつ森羅万象であらせられる天神エイシス様……


 はい、そうです、またです。

 この力無き子羊をお助けくださいと続くやつです。


 ここ連日に渡る立て続けの懇請こんせい

 いかに寛仁大度かんじんたいどなエイシス様であっても、そろそろ耳にタコができるぞと辟易へきえきし始めている頃かとは存じます。


 この娘はいささか神頼みが過ぎるのではないか? 

 そう苦言をていしたくなる気持ちが湧き上がれども、それも至極当然かと。


 しかしながら私――ユーティア・シェルバーンは物心がつく頃から今のよわい十四に至るまで、エイシス様の教導を一意専心に遵守。

 模範的な教徒であろうと研鑽けんさんを重ねてまいりました。


 そしてそんな日々での私の祈請きせいは、自分で言うのもなんですがそれなりにつつましいものであったと自負しています。


 だから……というのは浅ましい話なのですが、今はもう少しだけ大目に見ていただきたいのです。


 なにせ私が修道院を旅立つことはや三日。

 しかしその間に生命の危機に見舞われること幾度あったことか。

 まさに命がいくつあっても足りないという本来ユーモアとして使うはずの言葉を、言葉そのものの意味で使わなければならないという次第です。


 そして……そしてまさに今!

 かつてない程の取り分けの危機的状況を前に、私の命ももはや風前の灯火。


 つまりこれは、絶体絶命というやつです!

 大大大ピンチなんです!!


 ですからエイシス様、どうかご慈悲を!

 ご慈悲をぉおおおおおおおおおお!!!!




 ――――――――ここはとある町の大通り。

 ……からは外れた裏路地の、そのさらに裏路地の、そのさらにさらに裏辺りの一角にひっそりとたたずむ掘っ立て小屋――もとい食堂……らしい。


 らしいってわざわざ付け加えたのは、看板すら掲げられていないこの店舗が飲食店として成り立つようには見えないからなのだけど。


 風が吹く度に薄い壁を軋ませ隙間風が吹き込んでくるこの建物自体、とっくの昔に耐用年数を超えているはず。

 それにもう何年も掃除をした様子もなくて、部屋の隅では蜘蛛の巣やら埃やらが我が物顔で繁殖し放題。

 窓のほとんど無い店内は正午近いはずなのに黄昏時のように薄暗いし、ジメジメと淀んだ空気はなんだか……カビ臭い。

 

 そしてこの食堂で昼時なのになぜか唯一の客となっている私――ユーティア・シェルバーンは、店内中央の長机に向かい一人でちょこんと着席していた。


 だけならいいんだけど、問題なのは今私がこの店の四人の男性店員さん達に敵意を向けられているっていうところにあるわけで……


 ちなみに飲食店の男性店員っていうと、勝手ながら私は爽やかで中性的な好青年のイメージを持っているんだけれど、今目の前にいるこの店員さん達はちょっとタイプが違う。


 二メートル近くありそうな身長にはち切れそうなほどに膨張した筋肉。

 皆が皆、少し……いやかなり男性ホルモンが過剰そうな方々。


 そしてそんな野性味溢れる店員さん達が、今にも私を食い殺しそうな形相で睨みつけながらにじり寄ってきている。


 一人居れば小柄で華奢な私の体なんてソーセージを引きちぎるように分断することだって朝飯前のはず。

 なのに今は四人全員が私に対する殺意を剥き出しにしているという、はたから見ても一目瞭然の危機的状況。


 あぁ、どうしてこんなことに……

 私はただこの町に到着するなり道に迷って右往左往していた所をここの店員さんの一人に声をかけられて、美味しくて安くてサービス抜群な食堂があると勧められたから喜んでついていっただけなのに……


 なのに通されたこの店は、なんだか私の想像とちょっと……ううん相当に違ったのである。


 もしかして……騙されたのかな?

 一度入ったが最後、怖い人達に身ぐるみはがされるような悪質な店があるって聞いたことはあるけれど……


 そういえばリュウ君も都会では人を平気で罠にかける悪人が多いから、怪しい人に話しかけられたら疑ってかかれって言ってたっけ。


 もっとも田舎育ちの私に人を見極めろなんていうのは、流行りの服を着こなすよりも難しい芸当なのも確かなのだけど。


 現に目の前の店員さん達の外見が怪しいのか判断しろと言われても、私にはよくわからない。


 真っ赤に染めた髪をまるで鶏のトサカのように刈り上げていたり、全身というか人によっては顔面にまで派手な入れ墨を施していたり、鋭い棘でびっしり覆われた革のジャケットを着ていたり、胸元に髑髏しゃれこうべや逆十字のシルバーアクセサリをジャラジャラと垂らしていたり、酒瓶片手に顔を真っ赤に染めて明らかに泥酔していたり、葉巻を同時に四本も咥えてふかしていたり、ナイフや棍棒をこれ見よがしに携帯していたりと……


 まぁ……ちょっと個性的な気もするけれど、この風貌から人となりを判断できるほど私は人生経験が豊かではない。


 なにより我が主――エイシス様も人を外見で差別してはならないと説いている。

 この方達を見かけで警戒せよというのは、失礼に当たるというものだろう。


 それにそもそもこうして今この場が険悪となっている原因は、実のところ私自身にあるのだから。


 そう、私がこの店で出された料理に対して「不味い」なんて言ってしまったのがそもそもの発端。


 その一言が、彼らの怒りを買ってしまったのだ。

 そしてそのせいで、今の私には到底払えないような高額な請求までされてしまう始末。


 ちなみに「不味い」というのは厳密には私が言ったわけじゃないんだけれど、客観的にはそう取られてもしかたがないという状況で……


 たしかに美味しくは……なかったけれど、ここの店員さんが丹精込めて作ってくれた料理。

 不満を口にするなんてことは、本来あってはならないことだろう。

 天の恵みに、大地の豊かさに、人々の精励せいれいに感謝を――これも主の教えだ。


 ドスンッ――と大きな足音を立てて、私の前に居た一番大柄な男性店員さんが一歩私に詰め寄る。

 それだけで岩を落としたような音が響き床がきしみ、私は反射的に短い悲鳴を上げてしまった。


 一歩といってもそれは私の歩幅よりも大幅に距離がある。

 着席したままの私と仁王立ちするその店員さんは、長テーブルを挟んだ至近距離で対峙するまでの距離になってしまった。


 天井近くまでそそり立つ巨岩のような体躯。

 胸の前で組んだ丸太のように太い腕には極太の血管が生き物のように蠢き、鉄鉱石のように硬そうな顔面からは針金のような髭が無数に突き出している。


 その姿は昔読んだ小説に出てきた山賊そのもの。

 本来ならば創作物の登場人物が現実に現れたと浮かれて眺めたいぐらいだけれど、自分が当事者となればそうも言ってはいられない。

 

 まるで沸騰したみたいに顔を紅潮させたその店員さんは腰を折ると、私の顔を覗き込む。


 きっとその巨大な口で私の頭部を飲み込むことすら可能だろう。

 そう考えると、ただでさえ小柄な私の体はさらに縮み上がる。


「てめぇ! もう一度言ってみやがれ!!」

 その店員さんはハンマーのような拳を机に叩きつけると、耳をつんざくような大声を上げる。


 勢いで机上に置かれた木製のコップがまるで生き物のように飛び上がり、店全体までもがガタガタと震える。


「国中を渡り歩き磨き上げたオレの料理を不味いだと!? この料理長アッガス! こんな屈辱を受けたのは初めてだぜ! オレの自慢の料理がこんな小娘のシスター如きにこき下ろされるなんてなぁ! ボロボロだ! オレのプライドはもうボロッボロだゼェ!!」


「オ~イ金髪嬢ちゃんどう責任を取るつもりだぁ? この店に喧嘩売って生きて帰れると思うなよぉ?」

「ヒヒッ! シスターってのは世間知らずだよねぇ? でも無知は罪、罪には罰が必要っしょ~」 


 ううっ……罵詈雑言ばりぞうごんの集中砲火だ。

 料理長を名乗るアッガスさんの怒声で口火を切るように、他の店員さん達も続いて語気を荒げる。


 私は目に涙を溜めながら解決策を模索してはみるものの、真っ白になった頭の中では思考は保てず霧散していく。

 残念ながら、こういう局面に対応できるほどの処世術を私は持ち合わせてはいないのだ。


「ど……どうしようリュウ君~」

 こんな時に人に頼るというのも情けない話だけれど、思わず助けを求めてしまった。

 まさにわらにもすがる思いで。


 ――だけどリュウ君は何も答えてはくれない。

 聞こえてはいるはずなんだけど……


 もしかしたらリュウ君は、こうして私が困っている様子を楽しんでいるのかもしれない。

 この状況も元はと言えばリュウ君にも責任があるのだから、少しは協力してほしいのに……


「オイオイ誰に話しかけてるんだよ? ここにオマエ意外に誰が居るってんだよ? もしかしてヤバイ薬でもキメてるのかお嬢ちゃん? リュウ君って誰? どこにいるの? どこかに隠れてるのかなぁ?」

 店員さんの一人が私をあざけり笑いながら周囲を見回す仕草をしたかと思うと、テーブルの下に頭を潜らせて私の股下を覗き込んでくる。


 私は慌てて両足を閉じると、ブンブンと頭を振って否定する。


 はいそうですぅ、ここには私しかいません。

 少なくとも見かけ上は!


 ……どうやらリュウ君には頼れそうにない。

 となると、もうここは無闇に逆らうべきじゃないんだろう。


 私がこの店員さん達に太刀打ちできるわけもないのだから。

 ここで下手に反抗しようものなら、さらに店員さん達の怒りを買うに決まっている。


 やっぱり謝って許してもらうしかないよね。

 体のサイズこそ大きく違えど同じ人間。

 話せばわかるハズ!

 人類とは皆兄弟のようなものだと主も説いてらっしゃった。


「あ、あの……先程はごめんなさい。あれは……あの言葉は私の本意ではないんです。その、お金は……今は十分な持ち合わせが無いもので……ですが後日必ず……」


「オイオイオイィイイイッ! 金が無いだとぉ? 料理をけなした挙句食い逃げする気かシスターともあろうお方がよぉ?」

「俺らみたいなチンピラに払う金は無いってかぁ? 何様だコラァアア!!」


 はわわっ! なんで?

 全~然ダメだ!

 私が精一杯に絞り出した謝意も、事態を収拾させるどころか火に油を注ぐように店員さん達の怒りを増幅させてしまう。

 

「まぁ待ておまえ達。悪気は無いと言っているのだし、今回は怒りのほこを収めようじゃないか。もっとも……オレの自慢の矛を収められたらの話だがなぁ! おまえ達もその後好きにしていいぞ!」

 怒りの形相から一転、ニヤリと石臼いしうすのような歯を覗かせたアッガスさんは、右手をゆっくりと躍らせるように私の方へと伸ばしてきた。


 ひっ!!

 ど……どうしようどうしよう!! 

 逃げたいけれど足が震えて立つことすらできない……


 その巨大な指が私の喉元まで迫り、もうダメだと思い目を瞑る――――


「ひうっ……………………」

 恐怖のあまり悲鳴すらまともに上げられない。

 だけど私の首が掴まれる様子は……まだない。

 

 止まった?

 ううん、違う。

 止めた……んだ、私が。

 そして私の両の目が開かれる。


 目に飛び込んできたのは、変な方向へと折れ曲がりそうなほどに捻じり上げられたアッガスさんの腕。


 そしてそれを可能にするほどのとてつもない腕力でアッガスさんの腕を掴んでいるのは――私自身。


 細枝のような私の左腕が、アッガスさんの腕を万力のように固く掴んで締め上げていた。


 私の――というのはちょっと語弊があるかもしれない。

 目の前で繰り広げられている光景は私の意思によるものではないし、本来の私の腕力で可能なはずもない。


 これは私以外の人間による行為。

 現に今の私の体は、もう何一つとして自分の意思では動かせなくなっているのだから。

 そしてこんなことができるのは、私の知る限りたったの一人。


 私の中に宿っている別の人物――リュウ君だけだ。


「0点」

 たった一言、私はそう吐き捨てるとゆっくりと立ち上がる。


 もちろんこの言葉も私ではなく、リュウ君の意思によるもの。

 地の底から這い上がってくるような、低く、凄みの利いた高圧的な声。

 それはとても私の声帯から発せられたとは思えないほどの。


「な……なんだテメェ!!」

 予想外の抵抗にあったアッガスさんは、私の手を振りほどいて一歩後退する。

 

《もぅリュウ君! どうして今まで無視してたんですか? 私殺されちゃうかと思いましたよぉ!》

 私は精一杯に抗議の声を上げる。


 といっても自分の体を動かせない今の私は喋ることすらできないので、実際に声に出しているわけではないけれど。


 念話っていって、特定の相手にだけ思考を送る方法でこうして意思を伝えている。

 ちなみにこの念話も私じゃなくてリュウ君の力によるものだ。

 そしてこの念話は、リュウ君以外の人間には聞こえない。


「テストだよ……ユーティア。お前が窮地に陥った場面で、どうやって切り抜けるかテストをしてみたってわけさ。落第点は覚悟していたが、まさかの0点とは……どうやら俺が模範解答を披露した方がよさそうだな」


 なんだろう? 私にはリュウ君が何を言っているのかわからない。

 あと私の体で気だるそうに頭をポリポリ掻きながら喋るのもやめてほしいんだけど。


「だいたいユーティア、お前は前提条件からして間違っている。見ろよあいつらのつらを」

 そう言って(操られている)私は店員さん達を見上げてニヤリ――と、口が裂けるんじゃないかってぐらいに口角を吊り上げて笑みを浮かべる。

 自分じゃぜえっっっつたいにしない表情!


「こいつらは猿だ! ゴリラだ! エテ公共相手に謝罪してどうする? こいつらに人間様の言語なんか通用するわけがねぇだろうがぁ!!」

 ビシリと、私は店員さん達を指差し言い切った。


「「「なっ! なんだとこのアマァ! 何様のつもりだぁああっ!!」」」

 当たり前だけど、店員さん達は声をハモらせて大激怒する。


《はわわっ! なんでわざわざ怒らせるようなこと言うのリュウ君!? せめてこの町では揉め事は起こさないでって私言ったよねぇ? ねぇ言ったよねぇええ??》


「うるせぇ!!」

 リュウ君が私に言ったのか店員さんに言ったのかは定かではないけれど、ともかくも私の体によって蹴り飛ばされた長テーブルが店員さん達に直撃する。


「エテ公をエテ公と言って何が悪い? だいたいお前らボッタクリをやるにしてももう少しマトモにやりやがれ! もちろん俺は見抜いていたから食い終わって吹っ掛けてきたところを半殺しで済ませてやろうと思っていたが……なんだありゃ? 黒こげの豆か? 干乾びた肉片か? 家畜の餌以下のモン出した挙句に10万リグ払えとぬかしやがる。やっぱお前ら下等生物に料理なんて無理ってこったな! ガッカリだぜ!! この脳も舌も腐ったイカレ蛮族共がぁ!!!」

 リュウ君は叫びながら店員さん達に向けて中指を突き立てる!

 よくわからないけれど、リュウ君が相手を侮辱するときによく使うジェスチャーだ。


《やめてぇリュウ君! これ以上刺激しないでぇええっ!!》

 私は必死に懇願する。


 とにかく止めないと!

 こうなったリュウ君はと~っても危険だってことは、短い付き合いながらも身に染みている。


 助けを求めておいてなんだけど、リュウ君がこの場を丸く収めてくれるはずなんてないってわかりきっていたのに……

 本当に自分勝手で粗雑で我が儘で、傍若無人の権化みたいな子なんだから!


 そして案の定、これだけ言われて店員さん達が黙っているわけもない。

「くおぉんのクソガキャ! 大人しくしてりゃー付け上がりやがって! 身ぐるみ剥いで凌辱し尽くしてから奴隷商に売り飛ばしてやるぁ!!」

 アッガスさんが巨大な拳を私の顔面目掛けて打ち落としてきた。

 私の小さくて軽い体なんて一瞬でペシャンコにしそうなその拳を前に、私は死を覚悟する。


 でもそんな私の覚悟もなんのその、その拳が私に到達するより早くに、アッガスさんの顔面に下から物凄いスピードで何かが衝突した――――と思ったら私の右手だった。


 殴られたアッガスさんは勢いよく上方へ弾き飛ばされると、天井にバウンドして頭から床に激突した。


 …………し、死んでないよね?


「さーて、俺腹減ってるから手短に済ますぜぇ!」

 リュウ君はまるで準備運動が終わったみたいなノリで、殴った私の手をブラブラさせたかと思うと――


「アルバスター・キール・ド・メイス・レザリオン 燦爛さんらんたる煉獄の狂炎よ――」

 凄い速度で印を結びながらの呪文の詠唱を始める。


 すると私を中心に竜巻のような気流が発生し、さらに不規則なマナの干渉によってバチバチとあちこちで火花が飛び散り始めた。

 そして嵐の中から小さな高熱の粒子が次々と発生して、私の右手へと集まっていく。


「こっ……コイツ! まさか魔法士か!」

「しかも聞いたこともない言語のスペルだと!?」

 残り三人の店員さん達に緊張が走る。


 そう、たとえ私みたいに本来非力な人間でも、魔法を行使することができる魔法士であれば、この店員さん達みたいなムキムキマッチョな人達が相手でも同等に、いや術士によってはそれ以上に渡り合うことができる――けど……


《やめてぇリュウ君! 街中で魔法は使わないでって言ったよねぇ? ねぇ言ったよねぇええ??》

 こんな場所で大規模魔法を使ってしまったら、今以上のトラブルを引き起こしかねないよ!


 いっそ店員さん達に止めてほしいぐらいだけれど、あちらはあちらでやれ今のうちに攻撃するべきだのすぐに逃げるべきだのと意見が割れてパニックになっているみたいだ。

 

「うろたえるなお前らぁ!!」


 そんな中、店の奥からガチャンガチャンと重厚な足音を鳴らしながら、全身に複雑な刻印がされた鉄の鎧を身に着けた一人の男の人が現れる。


「お頭ぁ! バルザロスのお頭! 帰ってらっしゃったんですね!!」

 血の気が引いていたはずの店員さん達が、なぜか一斉に安堵の表情を浮かべる。

 

 ……ううん、私でもわかる。

 このお頭さんと呼ばれる人は、他の人達とは別格だってことが。


 獲物を確実に仕留めてきた鷹のような鋭い眼光に、鎧の上からでもわかる大熊のような鍛え上げられた肉体。 


 自分に野生の勘なんてあるとは思っていなかったけれど、その私でさえ見ただけでその威圧感に身がすくみそうになる。

 そして何よりこの状況下でも店員さん達から全幅の信頼が置かれる程のカリスマ性が、私の直感を裏付けている。


 どうしようリュウ君、この人きっときっと、凄く凄ーく強いんだよ!


「お頭ぁ! コイツヤバイんですよぉ!」

「お頭ぁ! 百戦錬磨のお頭さえいれば無敵でさぁ!」

「お頭ぁ! ガツンとやっちゃってくだせぇ!」


「ハッハッハッ! 任せとけ野郎ども! しかし相手が悪かったな小娘! お前もかつて西方の死神と呼ばれたバルザロス・グロイアスの名ぐらいは聞いたことがあるだろう? 数々の死闘の末に鍛え上げられたこの鋼の肉体と、強力な対魔法効果のあるこのパーフェクト・プロテクションアーマーさえあれば、お前如き小娘の魔法など――」


   『 龍 牙 爆 裂 砕ガルドライヴ !!』


 ――――――吹っ飛んだ……何もかも。


 私が右手に纏った炎と風の凝縮体は、打ち付けられた拳と同時に弾けてお頭さん自慢の鎧を粉々にし、店員さん達を切り刻み、店内の机も椅子もカウンターも粉砕し、というかこの店自体をも崩壊させた。


「あ――――っはっはっはぁ! 砕け散れ! 破滅しろ!! 身の程知らずの腐れち○ぽ共がぁあああ!!!」

《リュウ君やめてぇえええっ! 私の体で、口で、そんな品の無い言葉使わないでぇえええ!!》




 ――――――――主よ……懺悔します。

 私はまた過ちを犯してしまいました。


 でも困ったことに、リュウ君は私の言うことをちっとも聞いてくれないんです。


 ワンパクなのは良いと思うんですが、でもちょっと度が過ぎますよね?

 ……ああ、いったいどうしたらもう少し落ち着いてくれるんだろう。


 この私のお腹の中にいる息子は……




 To Be Continued

 Next Chapter 「第一章 ぼぅい みーつ がぁる」

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