安堵と休息Ⅱ
全員が椅子に座ると真っ先にフェイが口を開いた。
「伯爵とアンディ隊長からの情報だけど、僕たちの瓦礫集めはかかっても精々二日くらいで終わる」
「いやいやいや、あの大きさの城壁の瓦礫。流石に二日じゃ終わらないって」
「あぁ、そうだね。城壁の石を全部集めようと思ったら足りないだろうね」
フェイは首を振りながら両手を挙げる。
「集めた瓦礫の内、再利用できるものがほとんどなかったんだ。だから、ビクトリア様が新しく石に魔法をかけて建設し直す、と言った方が正しいかもね。その間、家屋の修理と並行して瓦礫を回収し、使える物はいつかまた壊れたときの為に取っておく、って感じかな」
それを聞いてマリーが立ち上がった。
心なしか表情が明るくなったようにも見える。
「そうか。だから、母さんが特訓は三日以内に終わらせるって言ったのか。自分が城壁修理の仕事をしないといけないから」
「まぁ、街の城壁にかける魔法となるとそれこそ宮廷魔術師クラスか、大量の土魔法の熟練者が集まらないと厳しいからね。母さんがそれをやるのにも慣れてるだろうから、あんまり心配はいらないかな」
クレアも納得したように頷く。
その光景を見ていて、ユーキはやはり自分の疑問が間違っていなかったと確信する。
「一応、聞いておきたいんだけどさ。やっぱり、ここ城壁って何回か壊れてるんだよね? そうじゃないと直すのに慣れてるはずないし、フェイも以前に瓦礫回収を何度かやったような口ぶりだったから」
ローレンス領に関わりのあるクレア、マリー、フェイの三人はユーキから僅かに目を逸らす。何か言いにくい事情でもあるのかと訝しんでいると、その答えは意外にもアイリスの口から飛び出てきた。
「伯爵とビクトリアさん。時々、戦闘訓練をする。でも、稀に魔法が変なところに反れて、城壁を吹き飛ばしちゃう」
「ちょ、アイリス!? その話はしちゃだめだろ!」
慌ててマリーがアイリスを口止めしようとするが、距離が遠くて届かない。
対してクレアとフェイは知られたら知られたで、どうでもいいことだとでも言わんばかりにため息をつく。
「ユーキ、うちの母さんの印象ってどんな感じ?」
「え? なんかしっかり者で子煩悩だけど、しっかりするべきときはしっかりできるいい人だと思うけど」
「まぁ、あながち間違いじゃないんだけどね。アイリスとかから聞いてない? うちの両親は、娘でも目を逸らしたくなるほどラブラブだって」
ユーキは自分の記憶を掘り起こすと以前に、そんな話を聞いたことがあるような気がした。
ユーキが首を縦に振るとクレアは肘掛部分に肘を置いて頬杖をつく。
「あの二人。戦闘訓練するのは良いんだけどさ。母さんの方が結構大きな魔法を使った後に我に返るの。『あ、この魔法だとあの人にケガさせちゃう』って感じかな」
「その魔法を解除する暇があればいいんだけど、割と本気で魔法を放ってるからできることといえば、軌道を変えるくらいでね。それが城壁とかにぶち当たって吹き飛ぶことが年に一、二回あるんだ」
フェイも目を逸らしたまま、クレアの後に言葉を続けるが、それに驚いたのはサクラやフランだった。
「あ、あの……。あの大きな城壁を一部とはいえ、何度も破壊してるんですか!?」
「あー、流石にあんな大きくはないかな。今回は下まで抉れてるけど、母さんのは一番上の部分が吹き飛ぶ程度だからね。そんなに被害は出てないんだ」
「いや、それだけでも十分凄いと思うんだけど……」
サクラも苦笑を禁じ得ないが、もしビクトリアが本気で魔法を使ったと考えると恐ろしくなった。
ちょっと詠唱を省略した魔法で、巨大な蛇を体液すら蒸発させるほどの炎を生み出すこともできるのだ。正直言って、怖くならない方が異常である。
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