復興作業Ⅶ
重い石を用意された荷台に置いて汗を拭く。息を吐いて見上げた空は既に茜色に染まっていた。
「お疲れ。今日の分はこれでおしまいかな?」
「……つか、れた」
アイリスが荷台へと乗り上がって、うつ伏せになる。
いくら物を運んでないからとはいえ、何時間も家の中を探しながら瓦礫を片付けて行けば、誰でも疲れるだろう、
アイリスほどではないにしろ、サクラもフランも膝に手を当てて前屈みになっていた。
「うー、腰が痛いです」
「本当。田植えと同じくらい疲れた……」
「田植え?」
「そう、田植え。お米の苗を水を張った畑に植えていく作業って言えばわかるかな?」
サクラがその作業を真似るとフランの頬が引き攣った。
「もしかして、ずっとその姿勢で植えるんですか?」
「うん。だから年を取るとみんな腰が曲がっちゃう人が多いんだよね」
サクラが頷く。
田植えの時期になると大人から子供まで村総出で田植えをやるらしい。家の周りの多くが農作業を行う為、自然とサクラもみんなに混じって田植えをしていたそうだ。
「へー、でもサクラの家は農家じゃないよな?」
ユーキはいつだったか、サクラと話したこと思い出す。
姓はあるけれども没落貴族のようなものだ、と話していたはずだ。
「うーん。一応、お父さんの肩書は陰陽師なんだけど、どちらかというとこっちでいう魔法の方が得意みたい」
「あー、じゃあ式神とかも使役してたり?」
「あれ? もしかして、ユーキさん。陰陽師のこと意外と知ってる?」
ユーキの反応にサクラが驚く。
ユーキとしては映画や漫画でよく読んでいたおかげで、そこら辺の知識は多少は持っている。現代人だったら、好き嫌いが分かれるため人によっては知らない人も多いが、魔法の存在するこの世界ではむしろ知られていると考えたが、そうではないようだ。
「陰陽師って、一応、王国で言うところの騎士団の一部隊みたいなところなの。だけど刀とか槍とかを持っている人に比べて、その……」
「派手ではない?」
「そう、それ。だから陰陽師の仕事をしっかりわかってくれている人があまりいないから驚いちゃって」
稀代の陰陽師、安倍晴明の存在は陰陽師が式神を操ったり、怨霊を退治したりするイメージを強く持たせる。
しかし、実際の陰陽師の仕事は違う、と言っては語弊があるが、それがメインではない。
占術によって相談者の悩みを解決したり、何かを行うときに良い日や方角を伝えたりすること。或いは土地や家屋を見て風水的なアドバイスも行う。
占いには占星術も含まれており、天文学の研究職でもあり、それを応用して暦の作成も行っている。そして暦を創るということは、一日の流れが把握できていなければならない。自然と一日の時間を管理するという仕事まで芋づる式に担っているのだ。
現代風に言うならば『天文学者』兼『カレンダー職人』兼『風水師』兼『相談屋』兼『時計係』、そして、『呪術・祈祷師』である。
もちろん、陰陽寮という一つの部署に細かく分かれて専門で行う人がいたのだろうから、すべてを一人ができる必要はないのだろうが、最低限は習得していたのだろう。
「良かった。お父さんが聞いたら喜ぶかも」
「あー、まぁ、俺も色々と陰陽師に憧れてたりした時期があったからね。銭占いとかやったけど肝心の六十四卦が覚えられなくて、やめちゃったな」
友達が紹介した本を読んだのだが、ハッキリ言って無理に近い。ただでさえ六十四個ある内容それぞれに何十もの解釈の仕方があるからだ。それの組み合わせになるともはや無限と言っていい。
「……いきなり、それ覚えようとしたんじゃないよね?」
「いや、いきなり勧められたからやってみた。……無理だったけど」
今度はサクラが頬を引き攣らせていた。
その表情に微妙にショックを受けながらも、ユーキは荷台の前へと進んで行く。
「(はいはい。どうせ俺には陰陽師の才能なんかありませんよ)」
「よーし、全員揃ったね? じゃあ、これを送り届けたらそのまま帰るからね」
「はーい」
クレアの声にアイリスが気の抜けた声で返す。
何度目かわからない城壁との復路を二匹の馬と共に歩みだす。復興には時間がかかりそうだが、不思議とユーキは達成感に浸りながら戻ることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます