見えざる魔法円Ⅳ

 ――――テストまで残り三日。

 学園の部屋で授業後に、サクラたちにわからない部分を教えてもらっていた。教室内には他にも何人かのグループがいて賑わっていた。


「そこは前にも言った通り、魔法の詠唱は長ければ長いほど効果が増すんだよ。ただ、どの方向に効果を増すかは、言葉によって変わる。威力を増やす、とか正確な位置へと誘導するとかな。まぁ、誘導とかは余程の距離にならない限りは考えないことが多いけどな」

「相手の防御を破るために必要な術式などを混ぜ込むこともできる、便利。単語を制する者が呪文を制する、のだ」

「逆に早く発動したいときには必要なキーワードを絞り込む必要があるの。短い単語で強力な言葉……例えば風と嵐だと違うでしょ?」


 マリーの大雑把な説明にアイリスとサクラが細かい説明することで、効率よく覚えていくことができた。よくよく考えれば、伯爵の娘・飛び級・留学生という三人が優秀なことは明らかで、そのメンバーに教えてもらえる環境は非常に恵まれていた。因みにフランは伯爵に呼ばれているため、今日はいない。


「まぁ、どの言葉が発動のキーワードになるかとかは全部わかっていないし、組み合わせも無限だからな。そのために『最低でもこの形に合わせれば発動する』と言われているのが、あたしたちが魔法学園で習っている汎用呪文だ。だから韻を踏まなかったり、全然違う言葉やアクセントでもやろうと思えば、全然違う言葉でも発動できるんだよな」


 その言葉を聞きながらサクラは一瞬複雑な顔をする。何か言おうと口を開きかけて、結局何も言わなかった。その代わりにアイリスがマリーの言葉に続く。


「上手い人はイメージと魔力操作だけで魔法を放つことができる」

「うちの母親みたくな……。あ、それで次の問題なんだけどさ」


 マリーの顔に影が差すが、すぐに笑顔に戻り次の解説に移る。

 フェイが先日言っていたことをユーキは思い出す。家族と比べてしまうためにコンプレックスを抱いているのだと。確か、彼女の母親は天才と呼ばれていた魔法使いだったはずだ。


「――――で、次は……ってもう終わりか。これなら、テストも余裕そうだな」

「魔法基礎理論はレオ先生がわかりやすく教えてくれたからね。大半は理解できてるつもりだよ」

「よし、じゃあ後はそれを活かして実践しようぜ。確か、小テストとかも控えてないし多分、訓練場も空いてるだろ」

「そうだね。特にテストが近いって言うわけでもないからね」

「れっつごー」


 早くも魔法理論の問題は全てクリアし、残すところは魔法陣基礎理論と初級魔法実践学だ。初級魔法実践学は過去三年間内容が変わっていない。課題は単純にして明快。

 『用意された目標物を魔法(既習外魔法も可とする)で破壊すること(時間制限は魔力が尽きるまで)』である。

 流石に目標物は毎年変わるらしく、ここ三年間は一昨年から順に巨大木偶、巨大土壁、錆びた金属鎧であった。


「木偶は火属性で一発だし、土壁は風魔法が利きやすい、今年の金属鎧は難しかったな」

「確かに」


 マリーとアイリスが何気なく話しているが、ユーキとしては金属鎧の破壊の仕方が気になって仕方なかった。


「あのさ、みんなはどうやって金属鎧を壊したんだ」

「あたしは、炎でひたすら炙って金属の留め具を燃やした。留め具だけ金属じゃなかったんだよな」

「風できった」

「へー、それじゃあサクラは?」

「えーと……」


 当然の流れでサクラへと話を振ると明らかに目線を合わせない。何かあったことを察したユーキは、マリーとアイリスへ振り返る。


「あー。サクラのは……ねー」

「あれは……ひどい事件だった……」

「待って、そこまで言うことないじゃない!」

「(いったい何があったんだ)」


 若干、引き気味の二人に対して、結構本気で怒り始めるサクラ。ここで考えてみるとサクラが使った魔法は火球の魔法と――――――


「まさか、槍でぶっ刺したんじゃないよな……」


 以前、再生能力をもったオークを相手に巨大な岩石の槍を突き刺して足止めしたことがあった。あの大きさだったら普通の鎧などひしゃげて使い物にならないだろう。


「そ、そんなことはしてないもんっ!」

「サクラはねー。火球魔法の岩石バージョン、石礫せきれき魔法を使ったんだけどな。それはもうなっがーい時間をかけて詠唱と魔力を込めてぶっ放したんだよね」

「それで……?」

「鎧を貫通。最高威力点を記録。一時期、脳筋ならぬ脳岩という称号が流行った」

「どう、どうせ私は留め具の素材にすら気づけない魔法使いですよ……」

「いいじゃん。しっかり合格しているわけだしさ」


 肩を落とすサクラをマリーが背中をたたいて励ます。そんな会話をしている内に練習場へとついてしまった。

 中は運よく無人で貸切状態。思う存分魔法を撃てるのだが、ここで一つ問題があった。


「俺、実践の授業に一度しか出てない挙句、一度もここで魔法を撃ったことないんだよなぁ」

「そういえば、魔法を撃っているところ見たことがないかも……って、ちょっと待て」


 マリーが途中で何かに気付いて様に言葉を止めた。


「え、何?」

「ユーキ。多分、何が出てきてもクリアしそう」

「何故!?」

「だって、グールを倒した時に城の魔法防壁を貫通して破壊しちゃったじゃない。一応、アレ、そこらへんにある金属より硬いんだよ?」


 ユーキは撃った後の記憶が朧気ではあるが、確かにすごいひび割れた中庭の壁ならば記憶にある。


「え、アレ俺がやったんだ」


 つまり、やらかした当の本人だけが知らないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る