異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~変な世界が見えて活躍するようになったが関係ない。元の世界に帰るため、俺は地道に頑張るだけ~【第9章『深緑の妖精庭園』完結済み】

一文字 心

第1章 極彩色の世界

極彩色の世界Ⅰ

 現代、日本の某県某市。その日は連日続いた雨が上がり、雲一つない青空が広がっていた。街頭のテレビでは番組の司会者が最近の流行りの食べ物だとか、昨今の政治情勢を芸能人と話している。

 しかし、多くの人々は久しぶりの青空の下に出て、そんなことなど耳にも目にもしていない昼下がりだった。

 車のエンジン音と新幹線の駆動音が重なって、雑踏の声は掻き消えていく。スクランブル交差点は老若男女が行き交い、信号が点滅し始めた。

 飲食店から漏れ出た匂いが鼻を刺激し、年若いカップルが引き込まれていく。青々とした木々には小鳥が集団で居座り、人々を見下ろしていたが、不意に一羽が飛び立つと、つられて他の鳥も飛び立っていく。路地のどこかでは犬が鳴き、猫がフェンスを飛び降りた。


「あぁ、今日もいい天気だな」


 そんな世界の片隅で誰かの呟きが虚空へと消えたとき、大地の鼓動が空気を裂いた。

 

 ――――浮遊感に襲われた男は、唐突に自分の人生を振り返る。


 それなりに幸せな人生だった。誕生日やクリスマスには、いつもプレゼントを貰えた。ご飯を食べれなかったなんてこともない。むしろ、やりたいといったことには、積極的にやらせてもらった。

 そのおかげで走るのも泳ぐのも得意で、音楽も人並み以上には演奏できた。ごく普通の一般家庭よりも裕福な家に生まれた方だろう。

 もちろん、いじめだとかそういった類に無縁だったわけではない。どこかの芸能人だか霊能者は「人生は幸福プラマイゼロ」だと言っていた気がするが、あながち外れてもいないらしい。

 でも、最終的には安定した職業に就いて、何とかやってこれたと思っている。


そんな俺、内守勇輝(二十八)の人生は―――


「――――っ!」


 ――――現在、絶賛落下中です!

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