道場訓 十四 勇者の誤った行動 ⑥
こ、これは相手を
俺が内心で舌打ちすると、真上から「いい加減にするのはあんたのほうよ」という声が降ってきた。
「助けてもらっておいて上から目線なのもムカつくけど、それ以上にたかがオーク一匹にあたふたしていた奴が、私たち【
怒りを含んだ声を発した主はファムだった。
「大丈夫、キース!」
「おのれ、よくも
アリーゼとカチョウが
「きゃあ!」
「ぐぬっ!」
アリーゼとカチョウはあっさりと俺の二の舞になり、その場に倒れてビクビクと全身を
「く……くそ……て、てめえら……何しやがる」
身体全体は
そのため、何とか声だけは普通に発することができた。
「何をするだぁ? それはこっちの台詞だ」
アゼルは両膝を折り曲げると、俺を
「上位冒険者の定例会議なんかも全部ケンシンに押しつけていたばかりか、お前らをサポートするため色々と影ながら動いていたケンシンをクビにするとはな。そのクズっぷりだと、俺たちが誰なのか以上にケンシンが
「せ、
俺の脳裏に
半年前、とあるカルト魔法結社が隣国で行った魔法実験による大災害のことだ。
違法な魔法実験により一国を滅ぼしかねないほどの凶悪な魔物を生み出し、それこそリザイアル王国も含めた周辺諸国の魔法兵団や騎士団、他にも冒険者たちが多く駆り出されて
だが、それとケンシンに何の関係がある?
「やっぱり、あの噂は本当だったんだ。一時はSランクと
「ああ、俺たち
な、何だこいつら……一体、何の話をしてやがる。
と、俺がアゼルとファムの話を聞いて混乱したときだった。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッ!
どこからか身の毛がよだつほどの魔物の遠吠えが聞こえてきた。
それも1体や2体どころじゃない。
確実に10体、もしくはそれ以上の魔物の声が響いてくる。
「以外と見つかるのが早かったね」
落ち着いた声でファムがアゼルに話しかけた。
「まあ、これだけの光源魔法を使っているんだ。見つからないと思うほうがどうかしている」
「それもそうか……で、どうする? 闘う?」
「いや、ここは引くぞ。今日の俺たちはあくまでも訓練で来ているんだからな」
「そうね。あらかじめすぐそこの
そんなやり取りをしたアゼルとファムは、落ち着いた様子で立ち去ろうとする。
「待て待て待て待て待てええええええ――――ッ! てめえら、逃げる前に俺らにかけている魔法も解いていけよ!」
アゼルは両足を止めると、顔だけを振り向かせた。
「寝ぼけたこと言うなよ、クズ。そんな魔法ぐらい自力で解くんだな。言っておくが、ケンシンなら〈
それだけ言うと、二人は洞窟の奥へと消えていった。
「いやあああああああ――――ッ! キース、あんた勇者なんでしょう! だったらこの状況を何とかしてよ! このままだと、私たちみんな魔物に殺されちゃうじゃない!」
「アリーゼの言う通りだ! キース、お主はリーダーで勇者なんだろ! だったら早くこの状況を何とかするべきだ……うわあああああああ――――ッ! 来たあああああああああああ――――ッ!」
アゼルとファムが消えた反対側の奥から、10体以上の魔物の姿が現れた。
ゴブリン、オーク、トロール、ゴーレム、キメラなどの魔物どもだ。
「アリーゼ、状態異常回復の魔法だ!
「でも、今の私の
「そんなものやってみなければ分からんだろ! いいから
くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそおおおおおおおおおお――――ッ!
こんなところで全滅してたまるか!
俺はいずれ全世界に名を
だからこんなところで死んでたまるか!
などと俺が心の底から生き延びたいと強く願ったときだ。
右手に持っていた《神剣・デュランダル》が強い光を放ち始めた。
「うおっ!」
直後、俺は信じられないとばかりに自分の身体を確認する。
「し……
今ほどまで全身を
俺は
そう言えば国王から《神剣・デュランダル》を渡されたあと、
神剣を手に入れた嬉しさで詳しく聞いていなかったが、強い意志の力に反応して持ち主のみの状態異常などを回復することもできると言っていたような……。
「まあ、この際どうだっていい。こうして
だったらあとはやることは一つだ。
俺はアゼルとファムが消えたほうに向かって走り出そうとする。
「ちょっと待ってよ、キース! あんた一人だけでどこに行く気なのよ!」
「まさか、自分一人だけで逃げるつもりか!」
ぎくり、と俺は慌てて立ち止まった。
「に、逃げるんじゃねえよ……え~と……あ、そうだ! た、助けを呼びに行くだけだ。きっとあの二人が向かった先に
俺はとっさに思いついた言葉をまくし立てる。
「それにあいつらは
すると俺の言葉にアリーゼとカチョウは顔を蒼白にさせた。
「嘘でしょう! そんな
「アリーゼの言う通りだ! それぐらい勇者ならばするべきだろうに!」
うるせえな……お前らの命より勇者の俺のほうが何百倍も価値があるんだ。
その勇者がこんな中級ダンジョンで死ぬなんて国が許さねえんだよ。
そうさ、もしもアリーゼとカチョウがここで死んでもそれは仕方がない。
この勇者であるキース・マクマホンのための
などという結論に
「馬鹿野郎ども! 俺一人でお前ら二人を連れて
と、二人に対してこの部分だけ本音を言った。
「それに見捨てるわけじゃない。助けを呼びに行くだけだ。いいか、俺が帰ってくるまで持ち
そう言うと俺は、今度こそ
後方から「裏切者!」という声が聞こえてきたが、今の俺にはまったくこれっぽっちも響かない。
そして――。
俺は自分の命を最優先にして、この場から逃げ去ったのだった。
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