09 筒の中の「俺」

 ほうけてしまったカナコの手を引きながら、俺は管理室の奥の扉を開ける。

 通路の両脇の窓の向こうには無数の筒。

 その中に入っている無数の肉体。

 そこに自分と瓜二つの姿を見つけても、俺はもはや驚かなかった。

 すべての記憶が嘘であっても、ここで仲間たちと、そして、カナコと過ごした記憶は俺だけのものだ。

 俺はこの記憶をもって、カナコと生きていく。

 今、この瞬間、どこかで俺を見ているだろう人でなしどもより、俺のほうがはるかにまっとうな「人間」だ。

 俺たちは本物の人間だ。


 扉を開く。

 明るい光が俺の目を、歓声が鼓膜を刺激する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る