Episode Memory:17 案内と楽しみ
「ラインちゃん！」
「幸奈！」
放課後。
駅の一角で待っていたラインは、幸奈の姿を見かけた途端に飛びつく。
ラインの服装は初めて会ったときの白いワンピースではなく、カーディガンとシンプルなTシャツ、プリーツスカートを着ていた。
凜いわく、「僕が選んだから無難な服になっちゃった」と笑っていた。
「ラインちゃん。今日はみんなでチーム活動をしようと思うの！」
「なにするの！？」
ビシッと空を力強く指差す幸奈を、キラキラとした眼差しで見上げるライン。
「今日は、みんなでいろんなところに出かけるのだ！」
そう言って、ラインの手を引いて歩き出す幸奈。洸矢たちもそれに続く。
「いろんなところに行けばラインの記憶が戻るんじゃないかって言ってるけど、私には幸奈が遊びたい理由にしか聞こえないわ」
そう言うシルフに、口に出さずとも洸矢たち全員が同意していた。
幸奈たちが向かったのは、駅からすぐ近くにある飲食店やアパレルショップが入った商業ビル。幸奈たちだけでなく、四葉学園高校の生徒もよく遊びに来る場所のひとつだった。
建物内は幸奈たちと同じように放課後を楽しむ学生や、子連れの家族でにぎわっていた。
「このお店とかどうかな！」
幸奈が指したのは、安価だがかわいらしいアパレルショップ。
外観に見とれるラインを引き連れて、幸奈は店内へと向かう。
「このトップスとこのスカートと……あとこっちも着てみて！」
店内をぐるりと回りながらいくつか服を手に取り、そのままラインを試着室へと押し込む。
数分後、試着室から出てきたのは白いブラウスに黒のレーススカートを着たライン。
ブラウスよりも透き通った白い肌は、黒いスカートがその白さをさらに引き立てていた。
「すっっっごく似合ってるよラインちゃん！」
ラインは試着室の中でくるくると回り、鏡に写る自分をまじまじと見つめていた。
「この服、とってもかわいい……」
着たことのない系統の服だったのか、幸奈の選んだ服は確実にラインの胸をときめかせていた。
二人の様子を遠巻きに見守っていた瑞穂が、近くにあったジャンパースカートを手に取る。
「せっかくだから、こっちの服も試着してみない？」
嬉しそうに言う眼鏡の奥の瞳は光っていて、ラインはニコニコとそれを受け取った。
「あの、あちらのスカートもどうでしょうか……！」
瑞穂の横にいたセレンが近くのマネキンを指差す。
それから幸奈と瑞穂、セレンの好みの服を代わる代わる着せられ、ラインは完全に着せ替え人形と化していた。
しかし、ラインも服を着られるのが楽しいのか、全ての服を喜んで試着をしていた。
気がつけば女子特有の和気あいあいとした空間が出来上がっていて、洸矢たちは
「洸矢兄たちも選んで！」
幸奈のギラギラとした洸矢たちに目が向く。
「いや、幸奈たちが選んだ方がいいだろ」
「いいの！ せっかくの機会だから！ ラインちゃんも楽しいって言ってるから！」
興奮している幸奈の横でラインが大きくうなずく。
「じゃあ……これとかどうだ？」
店内に入った洸矢が選んだのは、オーバーサイズのパーカーにショートパンツとスポーティーな服装。
華奢なラインには大きすぎるように見えたが、それに着替えたラインはゆるっとした
「へー。洸矢先輩はああいう服が好みなんですねー」
先輩、とわざとらしく強調しながら、洸矢の肩にひじを置いてニヤニヤと笑う日向。
名前を出さずとも誰のことを言っているのか、洸矢はすぐに理解した。
「ライン、こっちはどうだ？」
洸矢から反撃が来る前に逃げ、日向は袖や
先ほどの洸矢が選んだ服とは違う大人っぽいデザインに、思わず目が輝くライン。
「お前も
ふふんと鼻を鳴らす日向の足元でフレイムがつぶやく。
わいわいと盛り上がる幸奈たちを、店外から凜とシルフとプレアは保護者のように見守っていた。
「皆さん楽しそうですね」
「誰かさんと誰かさんは、確実にラインじゃない人に着て欲しい服を選んでるでしょ」
シルフは横で楽しそうにしている凜をちらりと見る。
「凜はいいの？ あなたが一番楽しみにしてたじゃない」
「僕はラインが喜んでくれればそれでいいよ」
「まるでラインの親みたいに言うのね」
試着室からワンピースを着て出てきたラインと、ラインを囲んでさらに盛り上がる幸奈たち。
そんな微笑ましい光景に、凜は優しく目を細めた。
そしてラインが気に入った服と幸奈たちが出せる金額を見極め、幸奈たちは無事に会計を終えた。
アパレルショップを出て、幸奈は大きなショッピングバッグを抱えているラインに笑顔を向ける。
「それじゃあ次は、あたしたちがいつも行ってるお店に行こっか！」
「いつも行ってるお店？」
幸奈は大きくうなずく。
ラインを連れて向かったのは、精霊界に行く前に全員で訪れたクレープ店だった。
「どれがいい？」
ずらりと並ぶサンプルに、アパレルショップにいたときと同じように目を輝かせるライン。
本物と見間違うようなサンプルをひとつひとつじっくりと眺め、ひとつのメニューを指差す。
「これがいい！」
「ラインちゃん、お目が高い！ それはあたしも日向もおすすめする、トリプルチョコアラモードだよ！」
ラインが選んだのは、チョコレートアイスとホイップクリームの上に、ホワイトチョコレートとビターチョコレートソースをかけ、そこにブラウニーも追加された豪華すぎるクレープ。
それはサンプルの時点で、ラインのハートをガッチリと掴んでいた。
注文が完了し、カウンター越しに完成を今か今かと見つめるライン。
「あたしはゴールデンハニークレープにしようかなぁ……」
「幸奈は少し我慢しなさい」
トッピングされていくクレープをうらやましそうに見ている幸奈を、横からシルフが制止する。
完成したクレープを受け取って近くのベンチに腰かける。
あーんと大きな口を開けてクレープを食べるライン。
幸せそうにもぐもぐと
『さぁ、今年も
近くの街頭広告から、女性キャスターの
『そこで今日は、パレードに参加するパフォーマンスグループにインタビューを行います！』
女性キャスターが、後ろに並ぶパフォーマンスグループとその精霊たちにインタビューを始める。
「そっか。精霊祭もあったんだ！」
幸奈が思い出したように声を上げる。
「精霊界のことしか頭になかったから忘れてたんでしょ」
「へへ、その通りでーす」
シルフの指摘に苦笑する幸奈。
一方でラインはクレープを食べる手を止めて、画面の向こうで楽しそうに受け答えをしている映像に釘づけになっていた。
「ライン、精霊祭のことは覚えてる？」
凜の問いかけにラインは首を振る。
しかし、その表情は悲しみではなく、未知のものへ興味を抱くものだった。
「精霊祭は年に一度だけある、人間と精霊のお互いの感謝の気持ちを思い返そうという趣旨で始まったお祭りだよ」
「さっきのインタビューの人たち以外にも、当日はいろんなところでショーやパレードをやってるんだよ！」
凜に続いて幸奈が
「それと、最後の花火はすごいんだよ！ みんなそれを楽しみにしてるんだよ！」
花火という単語にラインのパァッと顔が明るくなる。
「あとは屋台もたくさんあってね――」
「幸奈は少し食べ物のことから離れなさい」
シルフの指摘に唇を尖らせる幸奈。
インタビューが続いている街頭広告を見上げるライン。
「精霊祭、楽しみ……！」
わくわくとした表情のまま、ラインはクレープを一口食べた。
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