第40話 公判トーク2

 裁判に勝訴した安堵感から、3人のトークは穏やかに続く。


仙人「ヒロさん、あの原告の子が少しココが弱いっていうのは前から気づいていたん?」

神野「いや、山本先生の法律事務所であの子の証言文を読んだ時初めて。出勤してきてフロアーに入ってもただ入口近くでボーっと突っ立っているだけだったんで時給稼ぎのOL崩れかな? と思ってた」


村井「証言文のどのあたり?」

神野「自分の仕事内容を説明するのに、『フロアーで体調を悪くした人が居たらすぐ事務室に連絡します。これが私の仕事です』と言ってた。これは小学生でもできる仕事だろ。これで自分が一人前に仕事をしていると思っているとは…ちょっと可哀そうに感じた」


仙人「原告が可哀そう?」

神野「その時は目撃者の事は知らず、てっきり『本店長に利用されたのであろう』と思ってたから」

村井「ところが利用したのは別の女だったか」


仙人「結局、本店長は無関係?」

神野「いや、俺を敵視していたのは間違いない。ただ彼の立場で考えれば、それも無理からぬ事かもしれないとも思わんでもないな。外出禁止の件とかたびたびの会費値上げの件、サービス低下の件、それにバイトの子と親しくなり過ぎ云々の件」


仙人「バイトの子と言ったら…」

神野「マミコちゃんやリエちゃんを思い出すね。2人ともすごく良い子だったなあ。2人が居た頃は彼らと話す事は多かった。あの頃は会員数も多かったがその後かなり減少してるんで、バイトも数を減らしてフル活動させたいんだろう」


仙人「会員との私語禁止って言ってたね?」

神野「リエちゃんは俺との私語も多かったと思うが、それ以上によく働いていたよ。フロアでもプールでもよく働いてた。性格も明るく会話好きだったので、合間に交わす会話も楽しかったわ」


村井「思いだした。バスケットやってた子だね。あの子は元気で明るかったね。今はどうしてるかね?」

神野「大阪のスポーツ店に就職したけど、今はどうしてるかな?」

仙人「スポーツクラブにはそういう子が必要だよな。不愛想なんではなあ」


村井「山本さんの話では、消費税の件が一番困ったみたいよ。俺は『督促』が来れば説教してやろうと思ってたけど、初めからクレームを付けたのはヒロさんだけだろな」

神野「あれは黙ってられんかった。支払いの時に発生するのが消費税なんだから。各事業所の会計の仕方云々は関係なく、それは彼らの問題だわさ」

村井「全くその通り」


村井「で、その時のいざこざが今回の冤罪事件の発端かと思い、山本さんは先ず一番に本店長を訪ねたんよ。それで結論としては、『本店長は直接には関係ない』と言う事。彼は女2人から話を聴いて、間違いなく『原告の女性が痴漢された』と思ったらしい」


 神野、仙人は静かに村井の話の続きを待つ。


村井「憎くき目の上のタンコブを除去できると思い、積極的に2人の希望通り警察署に連れて行ったようだね。2人からヒロさんがセクハラ行為が多いとかいろいろ吹き込まれたようだ。全部目撃者、野々宮って言ったっけ、あの女の作り話。そうとは知らず本店長は女2人に任せたようだ」


仙人「恐ろしい女やな」

村井「この時、『ヒロさんと野々宮の間に何かある』と思ったそうだ」

仙人「流石やなあ、山本弁護士」

神野「流石に村井さんの友人弁護士」


村井「それで、ヒロさんが数年前の大失言を思い出したところで何とかなりそうだと思ったそうだよ」

仙人「それにしても、そこ迄するかなあ」

神野「男には解らん事があるんだろ」


村井「俺たちランナーにはスポーツ好きの女友達が多いだろ。その殆どの子は胸が無いし、気にもしていない。でも、受付嬢となると違うんだろね」

仙人「スポーツ好きの子はつまらない事で嫉妬したり、いつまでも根に持っていたりはしないけどな」


村井「そういった嫉妬心と執念深さは、遥か前世紀の昔から女の脳にプログラムされておりどうにもならんのだろう。人により何かの拍子に表れるんだろうよ」

神野「その為に、ずいぶんと金と時間が無駄になった」


仙人「野々宮はどこまで期待したんだろう? 裁判は初めから考えてたんかな?」

神野「ン…、どうだろう?」

村井「どうだろうな?」



 3人の会話が途切れた。

 3人とも考え込んだ。

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