第2話
そんなこんなで迎えたデート当日。
珍しくかなり早起きをしている。別に会う時間を考えればこんな早くから起きる必要はないのによっぽど楽しみにしているんだろうな。
もう7月ということもあり、今日はかなり暑い。とりあえずTシャツにパンツという簡単な服装で少しだけアクセサリーを付け、前髪を上げたシンプルな装いで行くことにする。とりあえず服を決めたから鏡にうつして顔と服の写真を撮って送ってみる。
「僕の写真はこんな感じー、ちょっと服装シンプルだから見つけるの難しいかも笑」
「お、おしゃれな服装だねえ」
おしゃれなのかはわからないが、好感触みたいでよかった。
「じゃあ私も今日の服装含めて写真送るわ」
そう返信が来て服装を含めた写真が送られてくる。シンプルなワンピース姿だ。僕は以前ワンピースが好きだといったのだが、それを覚えていてワンピースにしたのだろうか。そうだったらうれしいが、違っていると自意識過剰みたいで恥ずかしいので聞かないことにする。それにワンピースは上下考えなくていいから楽だという話を昔したことある気がする。たぶんそういった理由もあるのだろう。
遅刻しないように電車の時間を調べいつも通り20分前ぐらいにつくことのできる電車を選びそれに間に合うように駅に向かう。電車内では暇なので、適当な音楽を聴きながら、スマホにダウンロードしている電子書籍を読んで時間をつぶす。中学生ぐらいまでは小説を読んでいたが、めっきり読まなくなって久しぶりに小説を読んでいる。
その恋愛小説は高校生から付き合っているカップルが進路選択、遠距離、浮気、別れなど経験しながら進んでいく物語だ。過去に小説を読んでた頃とは違い精神が発達し、渦巻く劣等感といった負の感情に対して理解ができるようになり、成長を感じる。そうこうしているうちに乗り換えする駅に着いた。今まで乗り換えなんて概念がないようなドがつくほどの田舎に住んでいたので、いまだに乗り換えをする感覚には慣れない。そのまま乗り換えて目的地まで向かう。
結局、いつも通り20分前ぐらいについてしまったので、気を遣わせないようについたという連絡はせず、トイレに行ったり、ぶらぶらして周辺の様子を見たりして時間をつぶす。それで、5分前ぐらいになってからついたけどどこで待てばいいかという旨のメッセージを送る。
「適当に改札前あたりにたっといてー、もうすぐ着く」
そう返信が返ってきたので改札の前で待つことにした。日差しが強く暑いので、日陰を探し日陰でスマホを見ながら待つ。スマホを見ないで待つのがいいのはわかっているが、どうしても待っている間きょろきょろするのが嫌でついスマホを見てしまう。
「ついたけどどこいる?」
そう連絡が来てから気づく。住んでいるところが違うので、別の鉄道会社の電車で来ているので駅が少しだけ違うのだ。自分のいる路線の駅を伝え相手の駅のほうへ向かう。お互いに来たことがない場所なので勝手がわからないが、さほど人が多いわけではないので東京出身でいつも中心地を通学していたまなにとっては僕には都会に見えるこの場所も全然栄えていない場所に見えるのだろう。
そんなことを考えながら向かうとまならしき人を見つける。緊張しながらその女性のところへ向かい、声をかける。
「まなであってる?」
「そうだよ、純?」
「そそ、じゃあ今からどこ行くかな」
「行き当たりばったりに決まってるじゃん、お互いに全く知らないところなんだから」
ここで下見にでも来てある程度リードできればよかったのだが、まなは行き当たりばったりで何も知らない状態で行くのが好きらしく、それを望まれた。
とりあえずお昼近い時間なので、近くにあるご飯屋で腹ごしらえをすることにした。
「なんか食べたいものある?探してみるよ」
「うーん、なんでも朝ごはん食べたしちょっと早い時間だから軽食みたいな感じがいいな」
「じゃあそこにあるカフェっぽいとこいこっか」
「そうしよ」
とりあえず近くにあるカフェに向かうことにし、会話をしながら歩き始める。
「緊張してる?」
「そりゃしてるってば、ネットで出会った人に会うの初めてなんだから」
「僕も初めてやわ、普段の文面ほどしゃべらんね」
「ごめんってば、いつか落ち着けばしゃべるようになるよ」
そんな風にはたからみれば少しぎこちない距離感で、会話もそこそこは話しているものの少しぎこちない感じで、マッチングアプリで出会った人にしか見えない雰囲気でカフェへと歩みを進める。
そうしてたどり着いたカフェは僕には無縁なおしゃれな雰囲気の場所で少し入るのがためらわれるような場所だったが、まなは特にためらいもなく進むのでそこでも都民と田舎者、遊んできた人と遊んでこなかった人との違いを改めて認識させられる。アプリがなかったら絶対に二人で出かけるようなことがなかった面白い組み合わせだなあと少し自嘲気味に思考しながら店員さんに案内されるままに席に着く。
メニュー表を見ながら注文するメニューを決めるが、普段カフェには立ち寄らないのであまりメニューがわからない。なので、適当なドリンクとワッフルを頼むことに決めたが、まなはかなり悩んでいる。
「もしかして優柔不断な人?」
「あ、ばれちゃった?」
いたずらがばれた子供のような無邪気な顔でまなが笑う。
「何で迷ってんの?」
そう聞いて帰ってきた答えの2つのうち一つは僕が頼もうと思っていたワッフルだったので、僕が頼んで分けることを提案して頼むことにした。
「いい雰囲気の店だね」
「渋谷にあったの行ったことあるんだ~おいしいよ」
「ここっていろんな場所にある店なんだ、僕の地元にはなかったわ」
「どんなとこだったの?」
「電車は一時間に一本しか来ない、チェーン店は存在しない、右を見ても左を見てもじいちゃんかばあちゃんしかいない、噂の回る速度が異常、こんな感じでうんざりするほどのド田舎だったよ、たぶん都民には信じられへんレベルの田舎やな」
「ほかにもなんか面白い田舎エピソードとかないの?」
「しゃべりだしたら1時間しゃべれるぐらいあるで、東京と比べたらえげつないぐらい差あるからな」
そういいながら適当に地元が田舎すぎる話をしていると、店員さんが運んできてくれた。美味しそう、と目を輝かせながら写真を取り出すまなを見ているとリアクションが大きくていい子だなという印象を持つ。今まで付き合ったり、遊びに行ったりした女の子と比べても、リアクションが大きくて見ていて飽きない子だ。
そんな風にお互いの地元や、高校時代の話、大学でも今の話などをしながら話をしていると、僕だけが食べ終わってしまった。
「え、はやくない?」
「僕めっちゃ食べるんはやいのよ、誰と食べても待つことになるから気にせずのんびり食べよ」
待つことには慣れているのでそうして気にしないでいいと伝える。初対面なのだからもう少し気を配ってゆっくり食べればよかっただろうか。がんばって最近ではゆっくり食べるようにしているのだが、どうにも早く食べてしまう癖が治らない。
まなが食べ終わるのを待ちながら話していると、僕がしゃべるたびに食べるのを中断してまでこっちを向いて話を聞いてくれていて、育ちがいいことがよく伝わる。でも、それではずっと食べ終わらないので、しゃべっているときも食べていいことを伝える。そうすると無意識だと笑う。
そうして食べ終わった後もいろいろ話ながら少し長めに滞在して店を出ることにする。
「とりあえず僕が全部出すよ」
そういってレジのほうへ向かう。僕は奢ったほうがいいのか、おごらないほうがいいのか人によって全然わからないので、いつもおごるよとは言わずまとめて払うのかおごるのかわからないようにして会計を済ませる。
そしてまなのもとへ向かうと出すよ、と言ってくれたので、端数は切り捨てて出してもらうことにした。
「おごらせてくれたら次の時払ってねって言って次回のデートの約束できたのに」
そう冗談めかして言ってみると、思いのほか好感触な返事が返ってくる。
「そんなことしなくてもいいでしょ」
そのまま店を離れ、観光地を回ってみる。それぞれ観光地自体僕は西のほうに住んでいたので、いったことはあったが、関東に住んでいたまなは行ったことがないらしくかなりはしゃいでいた。
「歩くの疲れない?」
「私めっちゃ歩くの好きなんだよね、昔歩きたくなって6キロぐらいある駅から乗り換えせずに高校まで歩いて行って遅刻したことあるぐらいだし」
「なにしてんのさ、でも東京だと満員電車だろうし電車乗りたくないなあ」
「そうだね、私の友達だと満員電車乗りたくないっていう理由で高校休んでた子もいたしね」
「まじで生まれた場所が違うだけでここまで生活変わるの面白いなあ、日本のトップレベルで栄えてる部分とトップレベルで栄えてない部分だもんなあ」
一番自分と違う部分が出身地で、今お互いの出身地の間ぐらいの場所にいるが故の価値観の違いの影響で出身地の話になることが多い。
それ以外にも過去の友達の話などを聞いていると全然違った様子が見えてくる。まなは高校の時から基本的に外食が多く家でご飯を食べていなかったらしい。僕はあまり友達が多くはなかったので、家でお母さんの料理を食べることが多かった。ただでさえみんなが知ってるようなご飯屋がなかったのに、そんな生活をしていたせいで、全くと言っていいほどご飯屋の知識がないので、そういう生活もよかったなあと思える。
「まなはいつからピアノしてるの?」
「ん-だいぶちっちゃいころからかな、親の影響で始めることになった、純は音楽関係しようとは思わなかったの?」
「高校の時にかっこいいなとは思ったけど受験勉強しないといけなかったこととか親になんか言われるのがしんどくて結局しなかったなあ」
「私受験勉強とかほとんどせずに遊びまわってたからすごいね」
「遊びまわってそんな大学に受かるほうがすごいやろがい」
「私よりすごい大学行ってるくせに」
「これでもがんばって勉強はしたほうだよ」
「彼女いたのに?」
「まあそれはそうだけど勉強は頑張ってたよ」
「努力できるのすごいね」
そんな風に褒められるが、僕には遊びまわってそれで尚日本有数の大学に通うまなのほうが格段にすごいと思う。僕もそんな風に勉強ばっかりじゃなくてうまく遊ぶ人生を過ごしてみたかったと今になり思う。別に成績としては遊んでもよかったといえる成績なのだが自称進学校に通っていたがゆえに高3になり遊ぶような友達も少なかったのでどちらにせよそんなことはできないのはわかりきっているのに。
話をしながら観光地を巡っていろいろなところを歩いていると、次第に夜ご飯を食べる時間が近づいてきた。
「夜ご飯食べたいものある?ぱっと探して予約してみるよ」
「なんでもいいよ、いやそれが一番むずかしいのか」
「一番デートで言っちゃダメなやつねなんでもいいただし自分の好みに合うやつのみっていう日本語間違ってるやつ」
「言っちゃうんだよねえ」
「ラーメン二郎つれてくぞ、この辺あるんか知らんけど」
「それはやだなあ」
「んーじゃあ普通に適当な飯屋予約しとくわ」
「ありがとー」
そうして大学生が負担なく払える金額のご飯屋を予約し、そちらのほうへ向かうことにする。行きは現地集合にしたが、帰りは二人ともが使う駅の周辺で解散することにしたのでそこまで歩くか電車で行くか聞いてみると歩けばいいんじゃないといわれたので歩くことにする。
「なんかまなって想像以上に歩くことにためらいないよね、東京出身の人って一駅とかいってちょっとだけしか歩かないせいである程度の距離歩くの嫌がるイメージあったわ」
「確かに歩くことは少ないね、でも私個人が歩くのが好きなだけかな」
そういわれ、都会の人に対する偏見があった自分のことを恥じる。都会出身だろうが田舎出身だろうが歩くことが好きな人も嫌いな人もいるだろう。偏見を持って接するのはよくない。ただでさえネットで出会った影響で、同じ共同体に所属しているという共通点がなく異なる人なのだから、偏見を持たずに接しなければいけないと考える。
そして予約した時間より少し早くご飯屋についたが、店員さんに聞いてみると入っていいとのことだったので席に案内され、店に入る。そのままメニュー表を見てお互いにパスタを頼む。僕がカルボナーラで、まながボロネーゼだ。ボロネーゼを見てすぐにボロネーゼがいいといい、ワクワクしている表情を見るとボロネーゼが好きなのが伝わる。
「ボロネーゼ好きなの?」
「え、わかっちゃう?」
「明らかにわくわくしてるからね」
「恥ずかしいね」
照れくさそうに笑うまなを見ているとすごくいい子だなと思う。食事に対してもかなり楽しそうにしていて、観光地に行った時もすごく興奮している様子が見ていて楽しい。普段女子と出かけるのは気を遣うので嫌だったが、まなといるのは自然と嫌ではないと感じている自分に驚く。初対面の女子にこれほどいいと思うことはそうそうないだろう。
「純って関西弁すごいよね」
「別に大阪とかその辺出身じゃないんだけどね、なんかわかんないけど昔から地元の中でも関西弁よりなんよな」
「私標準語だから方言すごいいいなって思うよ。こっちだと関西弁の人多いしね」
「そやね、方言って妙にかわいく聞こえるよねえ」
「あこがれるなあ」
「なんか標準語って妙によそよそしく感じるよね、僕ずっと関西弁よりのところで生活してきたから違和感がすごいねんな」
「かわいいのはわかるけど私は標準語に誇り持ってる」
「さすがに6年おったらそのうち関西弁に染まるんちゃうんかな、あれ、4年だっけ、文系だったよね?」
「そだよー4年だけかな」
こうして話をしているとあっという間に時間が過ぎ去りもうお互いご飯を食べ終わり、ぼちぼち帰ってもいい時間が近づいてくる。
「じゃあ終電1時間前とかだしかえろっか」
「そうだね、帰る」
そうして駅に向かって歩き始める。かなり駅に近い場所でご飯を食べたので、すぐに駅に着いた。
「じゃあ今日はありがとうね、楽しかった、またね」
「こちらこそ楽しかった、またね」
またねといったことに対してまたと言ってくれたことに安堵を覚える。少なくとも悪くはなかったのだろう。別れた後電車に乗り今日のことを思い出しながら帰路に就く。すぐにスマホを取り出し、お礼のメッセージを送る。そうしてまた逢えたらいいなという願望を残しながら帰路に就く。そのまま家に帰ると思ったより疲れていたようで眠気が襲ってくる。すぐにお風呂に入り、スマホを確認すると返信が返ってきていたのに気づいた。また会ってくれますか?とだけ質問し、結構帰ると遅くなっちゃったから寝るね、と送り眠りにつく。
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