第3話 ゲームの始まり

 高校を卒業した後、私は大学に通いながら将来の貯蓄として市内の小さなスーパーで品出しのアルバイトを始めた。

 一年後の夏、私はそのスーパーで運命を変える大きな出会いを果たす。



 一年過ぎて私はスーパーの店員としてそれなりに仕事は板に付いてきた頃だが、将来に漠然とした不安を感じていた。

 その真夏の出会いは、突然だった。


「すみません」


 その人は二十代後半から三十代前半くらいの男性だ。ライトグレーのポロシャツと黒いチノパンというラフな服装で、痩せ型。栗のいがを想起させる茶色のツンツンヘアで顔は若手俳優風。


 男性は私の反応を見て続けて質問をした。

「あのそうめんのつゆで薄めずに使えるのって何でしたっけ?」

「ストレートですよ。お探しですか?」

「あっ、はい。お願いします」

「ご案内しますね」

 私は男性を麺つゆ売り場に連れていき、お行儀よく並ぶ商品の中から一つを手に取って薦めた。

 男性はお礼を言って、私はその場を後にしようとした。



 すると、男性は私を引き止める。


「ここに入ってどのくらい経ちますか?」

「はい?約一年ですが」

「そうなんだ。俺、丸浜と申します」


 そう言って丸浜と名乗るその男性は、私に名刺を渡した。そして、真面目な顔にビジネス風の笑顔をくっつけた丸浜さんは話を続けた。


 「実は、前からこのスーパーの常連で君のことをよく見かけてた。この前、お客様がお菓子売り場に置き去りにした迷子のカップ麺をJANコード(バーコード)と照らし合わせて元の場所に置いてるのをみて感心してた。それと、お客様の話に丁寧に対応してて偉いなぁと思って狙ってたのに」


「あっ、ありがとうございます。そ、それより、狙ってた?」

「そう。俺、この店の近くにあるスーパー『ユニゾン』の社員なんだ。よかったら、俺んとこ来ない?」


 ユニゾンとは東海地方に多くの店舗を展開している地域密着型スーパーだ。毎週、読むものを引きつける、季節に合った旬の特集が楽しみで、自分がこのスーパーで勤務する前は、よく母と行っていた。最近は、あまり行ってない。



「何言ってるんですか?そんなの突然言われても困ります。それに私は、学生アルバイトなので」

「じゃあ、ゲームをしない?」

「ゲーム?」


「俺が君をこのスーパーから引き抜くのが先か独身の俺の心を君が掴むのが先か。先に引き抜きに成功した方が、主導権を握る。どう?」

「どう?って言われても。私が勝てば何か権利を得ることができるんですか?」

「そうだよ。面白くない?」

 


 私はそんな丸浜さんの冗談めいたそのゲームに面白半分で乗ってしまった。新天地に行ってみたくなったから。


 そのゲームという名のスカウトが私の船を思わぬ方向へ流していく。



君描くドラマのように生きたくて

私が創る未来の虚構

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